10:職員室の黒電話 応用編 赤い警備員
「ユリちゃん先生!」
多分、目黒先生が出てきた時に開いてたのを見つけて立てこもったんだろうな。
「由利崎先生、大丈夫かい? なんかすごい声出してたけど」
理科室の電気をつけて目黒先生が駆け寄ると、ユリちゃん先生は理科室の
「み、みみ、みんなぁ!! めぐろぜんぜいぃぃ!!」
「うわっぷ!?」
小柄な目黒先生がユリちゃん先生に抱き着かれてひっくり返る。
「由利崎先生! ぐるじ……い!!」
……ユリちゃん先生力強いから痛そうだな。
「ユリちゃん先生! それ首を
「はいはい……」
俺は問答無用でユリちゃん先生の背後に回って
悪く思わないでくれ、ユリちゃん先生……正面からじゃ絶対に勝てないんだ……。
両手でユリちゃん先生の脇腹を全力でくすぐる俺、これ、一昨年の体育祭でユリちゃん先生が生徒皆にやられて最大の弱点だと自分で言ってたので間違いなく効くだろう。
「ひヴっ!? にゃははは!! やめ! あはははははは!!」
あっという間に目黒先生の
カコがなんてひどい事を、と
「いやぁ、助かった……死ぬかと思ったよ」
けほけほとむせながら目黒先生は白衣についたほこりを払って立ち上がる。
まあ俺もすぐにユリちゃん先生をくすぐるのをやめたのに、すごい顔で
「私も死ぬかと思いましたぁ」
ガシッと俺の頭を
「まあ、コーヒーでも飲みながら何があったか聞こうかな。先生のクラスの生徒さんだろう? この二人」
そんな目黒先生にユリちゃん先生はじろりと俺を睨んでから説明した。
「ええ、ウチのクラスの
「「酷くないそれ!?」」
この場合、薄情者って俺だよな……心当たりしかない。
お目付け役は……なぜかまんざらでもない顔してんじゃないよ……突っ込みづらいじゃんか!!
「……(三人であんぽんたんって呼ばれているのは内緒にしておこう)」
「目黒先生? なんか失礼なこと考えてません?」
「気のせいじゃないかな? 由利崎先生はカフェオレ、君等は……ラッキーだね。ラムネサイダーがあるよ(由利崎先生、こういう時#だけは__・__#鋭いんだよねぇ)」
理科室の薬品保存用の冷蔵庫からペットボトルのコーヒーと俺達用に……何あれ。
「先生、この
「え!? 今の子もしかしてやったことない!? 由利崎先生!!」
「目黒先生落ち着いてください、私の子供の時はまだポピュラーでした!!」
なんか途中で細くなって変なくぼみがある……確かに中にはしゅわしゅわと泡を立てる炭酸ジュースが入ってるけど……どうやっても取り出せなさそうだ。
そんな俺を先生たちは信じられない!! と言う顔で見てくるけど……わかんない物はわかんない。多分カコだってわかんないだろうと思って
「何やってんだカコ」
「え、ビー玉落としてるんだけど?」
そんな何言ってんのみたいな顔で見ないでほしい。
よく見ればカコの瓶の中にビー玉が落ちていて、くぼみの所でころころと往復していた。
……これじゃ飲むとき瓶の口が
「それじゃ飲めないじゃん」
「……ユウキ、これ飲んだことなかったっけ?」
しばらく両手で押さえたままの瓶から手を放し、丸い
よく見たら俺の瓶にもそれは乗っかっていて……そっか、これを押し込むと球が落ちるんだ。
「これを使って押し込んでみて」
「わかった」
でっぱりをビー玉に当てて力いっぱい押し込むと、
「何だ簡単じゃ……ああああ!」
するとしゅわしゅわと泡が
慌てて口を当てて吸うけど……時すでに遅し……Tシャツが……。
「あはは! やっぱりやると思った!!」
「あ! カコ!! だからお前押さえてたのか!?」
さっきのカコの様子を思い出して俺は自分の失敗を知る。
「……勇樹君、本当に見たことなかったんだ」
「世代だねぇ……まだ若いと思ってたんだけど」
なんか先生2人が心にダメージを負っているけど……それはさて置き。
ここからどうすればいいんだろう?
首をかしげる俺にカコが手本を見せてくる、ニコニコ笑いながら瓶のくぼみにビー玉をうまくひっかけて飲んで見せた。
「なるほど……」
真似をしてみるけど、偶に玉が口元に転がってきて塞いでしまう。
「の、飲みづらい」
「慣れれば簡単だよ、でもぶきっちょユウキじゃ無理かなぁ」
「良いんだよ、初めてなんだから……所でユリちゃん先生。何に怯えてたの?」
話題を逸らすためにユリちゃん先生に話題を振った。
お……なんかいつものサイダーよりおいしい……気がする。それはどうでもいいけど、思い出したかのようにユリちゃん先生がコーヒーを飲みながらその原因を話し始めた。
「それが……黒い影に追いかけられると思って思いっきり走ってたの。一階に降りて一周して、それから三階に上がってまた下がろうかと思ってたんだけど……」
「「「けど?」」」
「北校舎の三階に美術室あるでしょ? あの前を通った時に
「溶けるほどスピード出てたんだ」
「さすが体育教師」
「廊下の床無事でしたか?」
俺、目黒先生、カコの順で感心してみたり学校の床の無事を心配する。
そんな俺たちの発言が不満なのか、ユリちゃん先生のこめかみに青筋が見えてきた。
「とにかく! その時にね……真っ赤な服を着た男の人にぶつかって……こう、なんか警備員みたいなきっちりした服で……その、つい驚いて叫んだらその人に追いかけられちゃって……逃げてたの」
「顔見てないの?」
「さっきまで暗くてよく見えなかったし、帽子もかぶってたし……怖くてすぐ逃げちゃったし」
若干申し訳なさそうなユリちゃん先生だけど、それは仕方ないと思う。
でも、それを聞いて目黒先生ぽつりとつぶやく。
「それ、赤い
遠くの方で落ちた雷の音がその言葉と共にずんと俺達にのしかかった。
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