4-3.心奈の手料理




「やっぱいいよ。結構時間遅いし」


 

 終始京介の前を歩いていた心奈は迷うことなく京介の住むアパートの近くのスーパーに入っていった。


 歩きつつやんわり断っているのだが、心奈はガンとして首を縦に振ってくれない。


 買い物カゴを腕に抱えた心奈が細めた目を向けてくる。



「あたしが作らないなら、どうせカップ麺と適当な惣菜とかで済ませるつもりなんでしょ?」



「うっ。なんでそれを......」



「京ちゃんのことくらいお見通しだよっ」



 何年の付き合いだと思ってんの? と言われても、京介からしたら今日出会ったばっかりなのだが、図星過ぎてくうの音も出ない。



(こりゃ、作らないと意地でも帰ってくれない雰囲気だな)



 観念した京介は大きなため息を一つ落として、彼女の抱えるかごを取り上げる。



「で、何作ってくれるんだ?」



「今日は二人の大好物、ハンバーグにします!」



「あー......ハンバーグ......」



 二人の大好物って母親はともかく、少なくとも京介はハンバーグがあまり好きじゃない。


 ハンバーグを食べるくらいなら肉をがっつきたい。


 なんでわざわざ美味しいお肉をひき肉にしてしまうのか理解できない。まあ、形にならない余った肉片を加工してるからなんだろうけど。



「その顔、あんまり嬉しそうじゃないね」



「いや......」



 笑う心奈から慌てて顔を逸らす京介。


 どうやら顔に出ていたらしい。


 温かいハンバーグと食べ飽きたカップ麺と冷えたパックの惣菜。


 別にハンバーグが食べられない訳でもない京介にとって、できればこの空っぽの胃袋を温かいご飯で満たしたい。



「ま、楽しみにしてて。久美子さん含め、必ず京ちゃんを唸らせてみせるから!」



 そんな京介の表情をまったく気にしていない様子でやけに自信満々に言い切ってずんすんスーパーに進んで行く心奈の後ろを京介は追いかけるようについて行った。



🔸



「んじゃー、適当にくつろいでてねー」



「あ、ああ」



 家であるアパートの一室に上がるなり、手早く買ってきた品を冷蔵庫やら棚にしまった心奈がエプロンをつけて料理を始める。


 テキパキと玉ねぎを刻んでフライパンで火にかける姿はなかなかさまになっており、料理が得意というのは嘘ではないようだ。



「京ちゃんさー、実はハンバーグあんまり好きじゃないんでしょ?」



 玉ねぎの香ばしい匂いに包まれるキッチンで、手慣れた手つきでハンバーグのたねを手に打ちつけて空気を抜きながら振り返った心奈から視線を逸らす。



「......気づいてたのか?」



「気づいてたっていうか、知ってたっていうのが正しいかな? 昔、何が悲しくて肉をバラバラにしてくっつけなきゃならんのだっ! て言ってたからさ」



「はは......」



 京介がハンバーグに対して抱いている事を的確に言い当てられ、笑うしかない。



「でもね、それは今日まで」



「え?」



「今日から京ちゃんの大好物は、ハンバーグになります」



「それは、絶対、ない」



「おー。自信満々だねぇ。その言葉、忘れるなよ〜?」



 イタズラっ子みたいに笑う心奈に京介は鼻で笑った。


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