第5話 相生春奈②
付き合いだしてからの彼女は天真爛漫という言葉が本当に似合うようになっていった。
「ねね!次の祝日一緒にここ行きたい!」
「えーっと、この公園って結構遠いところだよね。日帰りでいける?」
「行ける!行きたいもん!」
「よし……頑張って調べとくよ」
ただそれが失礼だったり、迷惑だったりという訳じゃない。
天真爛漫がわがままに変換されることはなく俺たちの関係は良好に進んでいった。
そしてそんな関係を、亜希も祝福してくれたように思える。
最初の一ヵ月は口を聞いてくれなかったが、その後はたびたびアドバイスをくれたりなど頼りになる友人だった。
「ねぇ、郁也ってちゃんと春奈の誕生日プレゼント準備してるわよね?」
「え、勿論してるけど……なんで?」
「最近、春奈がうるさいのよ。郁也くんちゃんとプレゼントくれるかな、忘れてないよね。あーけどこれで忘れてても深く詮索しない方が良いのかなーってずっと言ってるの。あの子今まで人間関係の悩みなんて無かったのに……これも彼氏が出来たからかしら」
「あはは。ご期待に添えるように頑張らなくちゃ」
「で、因みに何買ったの?」
「え、これだけど」
「………アンタ今日時間あるよね?私部活休んであげるから買いに行きましょう」
「え?!いやいいよ。これもう買ってるし」
「誰がクーポンと商品券貰って喜ぶの?!考え直しなさい!このバカ」
ちなみに春奈はというと自分で描いた絵を送ってくれた。
彼女の才能は凄いようで、この時にはコンクールでの受賞は当たり前、芸術大学で行われる公開授業には積極的に参加し、更に自分の芸に磨きをかけていた。
「将来は、絵描きの旦那さんだからね!郁也くんの職が安定してないと私達路頭に迷っちゃうよー?」
「はいはい。だから今俺勉強してるんでしょ」
「なんか嬉しいなぁ。こうやって当たり前のように将来の話が出来て」
ただ、避けられないことも当然あって。
俺と亜希は、春奈を置いて先に高校を卒業し同じ大学に進学した。
同じところに進学したのは、亜希からの提案だが、それは他言無用らしい。
「私もすぐ追いつくからね!それまで浮気とかしちゃだめだよ!」
「大丈夫だって。そんなことしないよ」
「そうそう。少しでも怪しいようなら私が八つ裂きにするから。安心しなさい」
「え、まさかそのために同じ大学に?」
「さぁどうでしょうか?」
笑顔で接する俺と亜希とは対照的に、春奈の目には涙が浮かんでいる……そんな集合写真は俺達三人のチャットグループのアイコンになっている。
***
結婚が俺達の頭にちらつき始めたのは、春奈の18歳の誕生日が近づいて来た頃、彼女の発言からだった。
「ね、郁也くん今年のプレゼントなんだけどさ」
「うん?去年みたいに何か用意しようと思ってるけど……」
「郁也くんの人生とかダメかな?」
「……………へ?」
「だからさ、私と結婚……とか」
「え、ちょえ?!結婚?!」
確かに18歳を超えれば、結婚は法的に可能になる。
だが、結婚は人生を縛る契約だ。
それをこの年で決断していいのか。
色々迷い、沢山の人に意見を聞き、最終的には何度も春奈と話し合った。
それでまあ結婚に至ったわけだが、正直、その選択は大正解だったように思う。
「これで私は郁也の姉になるわけね。もうどういう顔していいか分からないんだけど」
「別にこれまで道理でいいんじゃないか?お姉さん?」
「ちょっとからかわないでよ!結構迷いどころなのよ?お姉さんって呼んでもらうかかそのまま亜希って呼んでもらうか……」
「何悩んでんの。そんなのどっちでもいいでしょ」
「違うの!私には大事なの!」
そんな時だった。
俺と亜希のもとに春奈の訃報が届いたのは。
飲酒運転による交通事故。
運転していた本人も死亡しており、どこにやればいいか分からない怒りだけが永遠に彷徨い続ける、そんな毎日。
春奈と幸せになると信じていた。
そしてその横にはいつも亜希がいて……そんな将来の展望が一瞬で崩れ去った瞬間だった。
次に春奈と会えたのは、葬式の開場で。
彼女は白い花に埋もれ、微笑むように目を閉じていた。
その横顔は事故にあったものとは思えないほど綺麗で、尚のこと胸に突き刺さった。
今にも起き上がってきそうな彼女を、俺は見ることが出来なかった。
葬式の後、俺は大学に行かなくなった。
両親は理解してくれたし、俺自身気持ちの整理をつける時間が欲しかったのだ。
春奈と撮った写真を見て、話しかけて、けど返事が返ってこない現実に絶望して。
そんな二か月を過ごし、俺は今に至る。
【あとがき】
読んで頂きありがとうございます。
次話から本編に入っていきます。
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学生結婚したら、周りの美少女達が全員寝取り(NTR)属性だった件。 海の家 @umisas
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