第3話 相生亜希

【はしがき】

後半、亜希の登場です。


沙耶と学食で少し遅いお昼を済ませると、ちょうどよくレナから連絡が入った。

授業が終わったので、今から部室に来るそうだ。


「レナ授業終わったって。俺たちもそろそろサークル棟に行こうか」


「ですね!今日こそ、今日こそ2回目の役満を和了って見せます!」


「それ毎回言ってるよね。4月の新歓以来和了ってないんだっけ」


「そうなんですよねー。狙える手が来たら毎回行くようにはしてるんですけど……」


俺たちが所属しているのは麻雀サークル『イーシャンテン』


特に大会に参加したりとかは無いが、週に2、3回は集まって卓を立てている。

ちなみにちゃんと活動しているのは、俺と沙耶を含めて4〜5人しかいないので、結構な零細サークルだ。


「今日って島添先輩来るんですか?」


「来ないだろうなー。あいつ最近学校にすらいないし」


「ほんとですか!やった!」


俺の返答にガッツポーズする沙耶に苦笑いを返す。


島添元気は、俺の大学からの友人で変人だ。

沙耶の地雷を見事に踏み抜いた伝説の男として地位を獲得しているが、ここ一週間はサークルはおろか授業にも顔を出していない。


「というか、学校に来ないなんて少し前の先輩みたいですね」


「だね。けど俺の方がだいぶ長いよ」


「確かに!先輩2ヶ月くらい大学来てなかったですもんねー。その期間何してたんですか?」


「あー……それ聞く?」


出来るだけ壁を作るように口を開く。

だってその話題を話せるほど、俺はまだ心の整理ができてないから。


「えー聞きますよ。ずっとはぐらかされてますし」


「そ、そっか」


壁、意味なかった。


「先輩が聞くなオーラだしてるのは、流石に私でも分かりますよ?けどどっか引っかかるんですよね」


「引っかかる?」


「はい。なんか聞いて欲しくないけど、聞いて欲しいみたいな?」


「気のせいだと思うよ。ほら、部室行こうか」


「え、ええ?ちょっと先輩待ってください!」


強引に話を切って、俺は沙耶に背を向けた。

部室に行けばとりあえず、卓が立つ。

そしたらこの話題からは逃げられるだろう。



***



「失礼しまーす」


「しまーす!」


軽い挨拶と共に部室に入る。

少しぼろいソファと雀卓が二つあるだけの簡素な部屋、それが俺たちの部室だ。


「あ、やっほー郁也。先来てたよー」


「うん。ごめんね遅くなって」


ソファからレナがひょっこりと顔を出しそう言った。

俺は手をあげて応え、ドア横の棚に荷物を置く。

沙耶がすっごい不機嫌オーラを出し始めたのはご愛敬だ。


「あ、沙耶ちゃん!やっと来たんだね」


レナの隣から、もう一つ顔が出てきた。


相生亜希、俺と同い年でこのサークルのリーダー。

俺の結婚相手の実姉であり、現在は俺の義姉でもある。

そして、なにより高校時代のクラスメイトだ。


「亜希先輩!ごめんなさい。郁也先輩と一緒にいたら遅くなっちゃって」


「ふーん、とね」


沙耶が俺の名前を出した途端、亜希のテンションが下がった。

そこまで露骨にしなくてもいいんじゃないかな、本人結構傷ついてるよ。


「亜希……居たんだ」


「当たり前でしょ。私は上森と違って時間にルーズじゃないから」


そう言うと亜希は足を組んで、隣のレナを指さした。


「ねえ、上森。なんで最近部室にこんな露出癖がいるのかな?」


「えーと、いやそれは……ごめんなさい」


「謝るくらいなら連れてこないで。それともちゃんとサークルに入れるの?」


「それは本人の次第なので何とも言えないです。はい」


「そうだよ。私の話なら私に直接言えばいいじゃん」


すごい正論がレナから入る。

だが、亜希はものすごいため息をついてレナを睨んだ。


「二人でいた時、あなた私の話全部無視したでしょ?そんな相手に怒ってもカロリーの無駄じゃない」


「あ、確かにそうだね。ごめんねー。ほら、サークルの入会届持ってきたから怒らないでー?」


「え、あなた……レナって言ったっけ。入るの?」


全員の疑問を代表して、亜希がレナに問いかける。


「うん。入るよ?何かダメなことある?」


「いやないけど……あなた麻雀は?」


「出来ない!だから郁也に手取り足取り教えてもら――」


「それは駄目。ルールとかは私が教えるから」


「ええーなんでよぉ」


泣きついてくるレナを軽くいなし、亜希の方に目をやる。


高一で知り合ってそこから三年間、俺たちは同じクラスで過ごした。

付き合ってるのかと噂が流れることがあるくらいには仲良かったし、自分の結婚のキューピットになってくれたのも彼女だ。


なのに今は、明らかに距離を感じる。

声の冷たさもそうだが、そもそも呼び方が名前から名字になったのは明らかな拒絶のサインだろう。


「まぁ、レナが入ったのが今日で良かったわ。宿の人数変更が今日までだから」


「宿……あ、そっか。合宿の季節か」


「合宿?そんなのこのサークルにあったんですか?」


「毎年の恒例行事なの。二泊三日でね」


合宿の話題を聞いて盛り上がる沙耶とレナを見て、少し心が沈んでしまう。

正直行きたくない。

亜希とこんな関係のまま行っても絶対に楽しめないし。


「島添くんにも伝えといて。で、今日中には参加するかしないかメッセージお願い」


「……了解」


とりあえず切り替えよう。

家に帰って春奈に聞いてもらうまで我慢だ。


【あとがき】

読んでいただきありがとうございます。

ぜひ、フォロー&★★★のほどよろしくお願いします。


また更新の励みになりますので、いいね&コメントもしていただけると嬉しいです!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る