ただの高校生だが怪盗が逃げてるところに鉢合わせた件について

夜葉

第一章『怪盗を助けるってダメ? ダメかぁ……』

第1話 この人多分可愛い人だ

 俺はこれまで、犯罪と言うものに関わったことが無かった。


 多分こういう人間がこの国では普通の部類に入ると思う。特に俺なんかは自分だけでなく周りの人間もそういったことをしたという話を聞いたことが無いくらいだ。


 品行方正、文武両道。それが学校での俺の評価。誰にでも優しく、生活習慣も自慢できるものであり、夜遊びなどなど、人にマイナスなイメージを持たれそうなことは一切しない。


 そんな俺だが、今日に限っては遅い時間まで家に帰っていなかった。


 理由は大したことではない。ちょっと人助けしていたら遅くなったというそんな褒められるべきものだ。


 それでも、俺にとってはこんなこと初めてなのでちょっとビビっている。事情を話せば親も許してくれるだろう。そうは分かっていても心拍数は高いまま。


 その焦りようと言えば、普段危ないことをしない俺が路地裏という近道を使うくらい。


 ……それがダメだったんだな。バチが当たったのだ。


 路地裏を抜けた先、家までもう少し。安堵しかけたところで……その人は居た。


「クッソ……探偵の奴、やりやがったな……」


 黒いマントに黒い帽子。手には白い銃を持って、片目だけ眼鏡をしている。


 その瞬間悟った。こいつはやべぇ奴だと。


 来た道を戻ろうか? いや、すぐそこが自宅なのだ。ただでさえ遅くなったのに、ここからさらにタイムロスは……


 そう悩んでいると、この人はこちらへと目を向けた。というかふと目に入ったと言った方が正しいだろう。まあどちらにせよ、これで俺とこの人が目を合わせてしまったことには変わりないのだが。


 その時に心臓の跳ね具合と言ったら……痛かったな。


「なんだ、テメェ。見せもんじゃねぇぞ」


「わ、分かってるよ。じゃなくて分かってますよ」


 殺される。これは殺される。


 いや、ここで俺を見つけた瞬間殺さなかったということは、まだ助かる可能性があるかもしれない。


 命優先だ、引き返そう。それから帰って両親に泣きついて通報してもらおう。


 ……そこでふと、この人の足へと目が向かってしまった。


 綺麗な足だ。というかこのコーデでスカート穿いてるんだ。というか女子だったんだ。


「おい、なにじろじろ見てんだ」


 ……というか、怪我してるんだ……


 その足は確かに綺麗だった。男としてドキドキしてしまうほどに。だが、その綺麗な足に赤い液体が垂れており、足よりもそっちに意識が割かれてしまう。


 これは、なんというか……


「もったいないな……」


「アッ?」


「へ? あ、ああいえ! なんでもないです! なんでもないですけど……うち、来ませんか?」


「うちって、お前の家か? なんでだよ。通報するから時間稼ぎか? はっ! 行くわけねぇだろ! 捕まるくらいならテメェを殺した方がマシだ!」


「つ、通報? なんで急に、そんなことしませんよ」


「……は?」


「いやだって、その銃だってどうせ偽物だろうし、俺がなにかされたわけでもないし……ただ、その怪我を見て見ぬふりして帰るのは嫌だなって」


「正気か? 俺のこと心配する奴なんて初めて見たぞ」


「そんなことないでしょ。ご両親だっていらっしゃるでしょう?」


「……居ねぇよ」


 ……そういうタイプか。これは、嫌なことを思い出させたかもしれない。


 なら尚更だ。このお詫びも兼ねて、手当くらいはしないと気が収まらない。


「お姉さん、名前は?」


「名前って、怪盗ダー……いや、そっち言うのはな……だが本名は……」


「怪盗?」


「ああもういい! あんこだ! あんこ!」


「あんこさんですか。可愛らしいお名前ですね」


「うるせぇ! そういうテメェはなんなんだよ!」


「俺は久保ひかりって言います」


「はっ! テメェこそ、男の癖に可愛い名前じゃねぇか!」


「ありがとうございます。みんな俺に合ってるって褒めてくれるんです」


「……そうだろうよ」


 あんこさんは立ち上がろうとするが、それもままならない様子で、倒れかけたところを俺は支えた。


 肩に腕を回すが……その時に触れてしまった、案外柔らかかった手の感触が忘れられない。


「こんなことをされる日が来るとはな」


「良いじゃないですか。こういうのも何かの縁です」


「その縁で困るのはテメェだぞ」


「……?」


「お前、実は世間知らずだな? 俺を助けて後悔なんてしてもおせぇぞ。俺は全力でお前を巻き込む方にシフトしてやる」


「そうですね。巻き込んでくれた方が、あんこさんと関われるので嬉しいかもしれません」


「……クソが」


 あっ、すんごい大きな舌打ちされた。


 それにしても……ここまで言うってことは本当にヤバい人だったのだろうか。でも見捨てるなんてできるはず無いし……

 

 とりあえず、同じく巻き込まれてしまった両親にはごめんと言っておこう。

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