シコウノユメ
加恋童心
熱砂の夢
肌を焼くような強い日差しの中。
周囲は砂塵に囲われ、黄色く霞んでいる。足元は波紋を描く砂の砂丘。下手をすれば足を取られかねないここは、広大な砂漠のど真ん中だ。
その地に立つは、微笑みを湛えた一人の貴公子。長い金髪を後ろで一つに纏め、スッとその青い目を細める彼は、この砂漠には似つかわぬ赤い燕尾服を砂風にはためかせていた。
「───サンドワームなんて、久しぶりだな。」
右腰の細剣に手を置き呟いた瞬間、地面が不安定に振動する。地面が生きているかのような、うねるような砂丘の隆起に、彼は一層笑みを深くする。
「来たっ!」
ゥゥォオオオオオオオ……!
洞窟の中で低く唸り響く音のような声をあげ、円状に牙を生やした巨大芋虫、サンドワームが地中から突き上げるように顔を出した。
同時に、彼は一つの細剣を腰から外し、切先を地面に向けて構える。
「───【
早口で詠唱を行うと、彼の持つ細剣は白い霧と青いプラズマを纏い、ジリジリと微振動を開始した。そして細剣をサンドワームの方へ向けると、人の頭ほどの岩が三度射出される。
サンドワームは避ける素振りもなく、むしろ彼目掛けて喰らい付かんばかりに突進を繰り出してきた。その勢いに弾かれるようにして、岩は手前に一つ、左に一つ、右に一つと、砂上に落ちていく。
だが、それを目にしても彼は笑みを絶やさなかった。
「『タップステップ』!」
グッと足を曲げ、コンクリートの地面でも蹴るかのように飛び出す。二歩砂上に足をつけて跳ぶようにサンドワームに接近し、その細剣でサンドワームを素早く刺した。
「蝶のように舞い、蜂のように刺すっ! 『バタフライピアス』!」
刺して抜いてを三度繰り返し、砂上に落ちた岩に飛び乗る。少し足場としては不安定だが、しかし砂の海よりはいくらかマシだ。グラつく足場の傾き方を足の感覚だけで何とか把握し、踵の方に力を入れて跳躍。
ネジのように捻りを入れて細剣を突き出せば、グジュ、という感触と共に細剣は半分ほどまで突き刺さった。ジジジジジッ!とプラズマがサンドワームの外皮と傷口を焼くように刺激する音が鳴る。すぐに腰を捻って引き抜き、目標の岩の上に着地した。
「っとと! ここ正面だったか、こんにちはっと!」
目の前には口をがっぽり開けたサンドワーム。岩ごと彼を喰らわんと突進するその余波で、足元が震度五程の揺れを起こす。しかし彼は冷静に真上へと飛び上がった。
ゴボォッと音を立てて砂を食らうサンドワーム。その上に着地した彼は、左腰の細剣を引き抜いて【
「よっ、ほっ! せいっ! あ、あった、【
持っているのは細剣だが、刺突攻撃という類似点でその言葉を選んだのだろう。ジリジリジリと鳴る右の細剣を深く突き刺す。ここで右の細剣のエンチャントが切れたようで、最後の輝きと言わんばかりに白く冷たく爆ぜる刀身は、サンドワームの外皮に少なからず凍傷とも火傷とも思える傷跡を残した。
そのままサンドワームを蹴って細剣を引き抜く。宙返りして着地する地点は、最初に飛ばした三つ目の岩の上。サンドワーム越しに見つけられたのは幸運だ。スキルで沈まないようにしたせいかやはりグラグラと安定しないが、砂に足を取られるよりはマシなのだろうか。
「っ、と、これは……僕を囲って食う気だな! 【
サンドワームは彼を中心にグルリと渦巻くように動き始める。逃げ道を塞ぐように、砂の海に潜ったり出たりを繰り返して砂を隆起させ、まるで蟻地獄のような地形を作り上げた。
逃げ場もなく、足場もない。だがそれでもなお岩の上に立ち細剣を構えるその姿は、貴公子よりも熟練の戦士に近い。
彼は左手の細剣を躊躇いなく捨て、右手に持っていた細剣を両手で持ち、自身の身体の中心線に平行になるよう構える。
「【
その細剣に猛炎が宿った。同時に、サンドワームが静止した標的へと捕食のための突進を開始する。その距離はごく短く、接触に至るにそう時間はかからなかった。
両者の口が開く。
オオオオオオオオオオオォォォッ!
「───【
瞬間、彼はサンドワームに飲み込まれた。
ドクンッ。
ドクンッ、ドクンッ。
僅かな隙間から、白い閃光が漏れ出す。
ズグンッ、ドゴオオオオオンッ!!
「───ぅおおおおわああああああああっ!!」
ォォォォオオオオオオ……!
赤白い炎柱がサンドワームの背中から突き出す。それはどうやら体内から食い破られたようで、炎と共に一人の男が悲鳴を上げながら飛び出してきた。
「ひーーーーっ!! 死ぬかと思った!!」
空高く放り投げられた彼は、空中で錐揉み回転しながらも回復アイテムを取り出して使用する。直後、重力に逆らうエネルギーが切れ、落下軌道に入った。
地上には、背中にバックリと開いた傷に悶絶ししているサンドワーム。ボフッと口から黒い煙を出して彼を見上げている。そしてずるずると、その落下地点に移動し始めた。
「っは、また食べようって算段か! 学習しないねぇ!! 『エアモービル』!!」
彼は空中で体を丸め回転し、体を伸ばしてほぼ直立の姿勢に立て直す。それは側から見れば鮮やかな姿勢制御で、しかしそれを目撃したのは敵であるサンドワームただ一匹だけである。
右手に持つ細剣には、まだ赤い炎が纏っている。横目でそれを確認した彼は右の細剣を捨て、いつの間にか左腰に戻っている細剣を取り出し、口を閉じることなく舌を回した。
「【
着地まで残り二秒。岩を射出した反動で少し減速するとはいえ、それはあまり効果がない。そんなことは分かっているのか、しかし彼は諦めた様子はなかった。
残り一秒。
「───っ、【
その瞬間、目の前に巨大な火球が出現し、紫電を纏う左手の細剣がその火球を貫いて……
世界が白く染まった。
とんでもない轟音と、それ以上の爆轟が辺り一帯を消し飛ばしたことに対し、一言。
「素材回収できないのはダメだなこれ。」
ベッドの上で目が覚めた彼は、ため息を吐いていた。
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