終わり舌メニュー
ゆめのみち
丸源ラーメン.肉そば×アイス★
天才的な直感力、誰もが振り向いて凝視してしまう程の行動力、そして神がかった舌を持った女性は、そわそわしながら友人を見ていた。
今向かっている店は、車で行っても遠いような近いような場所にある。それが酷くもどかしい。思いついてから食べることができず我慢の日ばかりだった。他のものを食べても食べたきがせず、周りに透明な膜でもかかったような感覚。やっと食べられると思ったら車が必要な場所。
「ほんまにそこのラーメン屋でええんやな?」
運転中の友人の言葉に、ミントは頷いた。
「ラーメンにソフトクリームなあ。ほんまに美味しいん?」
「美味しいよ!!ラーメンの塩気にソフトクリームの甘さ、しかも丸源ラーメンの肉そばという独特の味。今度こそは絶対、
優香里はうーんと言ったが心のなかでわくわくしていた。彼女のどこからか降りてきたのか突拍子もない発想、どんなに吐きそうな組み合わせでも美味しそうに語るもんだから食べてみたくなる。今の所美味しく感じた経験はないけど、彼女がいうならよだれがでて何度でも挑戦したくなる。優香里もまた、近くとも遠くとも感じる距離がもどかしかった。
+++ +++ +++
席につくと迷うことなく2人はタッチパネルを触った。優香里が白元味の醤油とんこつ、ミントが肉そば。
それを終えるとミントはごくりとつばを飲んだ。思いついたばかりの組み合わせ。想像の域から出ないが、美味しいことは分かる。料理はチェーン店だからなのかすぐに来た。
茶色のスープの真ん中に鮮やかに乗っかっているオレンジ色のゆずおろし。嬉しい事に海苔はスープに半分しかつかっていない。半分は柔らかくて、半分はパリパリとする海苔の乗せ方。ああ、幸せだ。
「いただきます」
と2人で言った。
まずはスープをすくって口に含む。肉そばにしかない味をはふはふと堪能する。これが欲しかった。ゆずおろしは半分食べるまで混ぜたくないので、丁寧に肉や麺を取る。本人は猫舌で本当はきついが、それでも口に入れるのをやめられない。
あ、とミントは言った。
「優香里、その醤油とんこつのスープ、最後にちょっとだけ飲ませて」
「ん、これにも試すんやな」
それだけ話すと2人はすぐに食べるのを再開した。
麺も半分になったころ。ミントは置いていたゆずおろしをスープに溶かした。微かに香る酸味のある香り。けれどもきつい感じはなく優しい。お腹にラーメンが入ってるというのにお腹がぐうっと鳴った。
スープを口に含む。ああ、美味しい。その独特の味が合わさって、口の中がリセットされてさらに箸が進む。
意外と1人前というのは少ないもので、それでも満腹にはなって、そんなに時間も経ってないのにスープだけになった。
さて、とミントはタッチパネルを触った。スープが冷める前にソフトクリームを頼んで、口の中で合わせる時間だ。
パフェという誘惑に負けそうになりながら、ソフトクリームを2個頼んだ。
「あ、ごめん、2個頼んだけど優香里も食べる?」
「もちろん、ゆかも試したいし。戦闘準備できてんで」
「うむ、では参るか…。ぽちっとな。楽しみだねー」
「せやなー」
と話してる間にソフトクリームが来た。
まずはてっぺんを一口。冷たい。これが100円で食べられる、しかも量が多い。なんて至福の時間か。
冷たくて甘いソフトクリームを口に含んだままスープを飲んだ。
「ん!ま!」
思わず口に出た。優香里も、え、うせやん、まじで?と言いながら同じことをした。
口の中で冷たいのを温かいのが包んでどちらも感じられる。そして、スープの塩気が甘みを優しく包み、まろやかな舌触りにしていく。ソフトクリームの冷たさから来る、凛とした強気がこうも柔らかくなるというのか。いや、ラーメンもラーメンで凛々しいのがまったりとしていく。
こんな新しい食感と味になるなんて。想像では、スープと合わせた瞬間ぬるくなると思っていた。まさか相反するものが同じ場所で存在できるとは。
「優香里、スープ一口ちょうだい」
「どーぞどーぞ」
と優香里は器をこちらに渡してくれた。
醤油とんこつ。一口、スープを飲む。
「!!」
白の醤油とんこつは元々優しいから、優しいと優しいでほっこりする。こんなに甘やかされていいのだろうか、いや、ここでずっと甘やかされていたい。
幸せの時間というのは早くなくなるもので。口の中という一瞬を連続して通り過ぎていったあとというのは。全て終わればなんとも言えない切なさが胸にシミのように広がった。
「あ、ミントちゃん、ついでにパフェ食べる?」
「…食べよっか!」
「いつ食べれるか分からんねんし、こういうのは我慢せずに食べんとねー」
「ねー」
タッチパネルを操作してる中、優香里は、えっ、声を出した。何事かと見てみると3種類あった。何が違うのだろうとよく見てみると、いちごソース、チョコソース、練乳と書いてある。そしてどれも同じ値段だ。
「バニラアイスやからチョコにする?いちご乗ってるからいちごソースの存在意義を見いだせないし…」
「やねー。練乳といちごの組み合わせも微妙やし…そもそもアイスが甘いのに、酸味のさっぱりした逃げ場所をなくすんは…」
うんうんと頷き合いながらチョコソースを選んだ。
ソフトクリームと同様、パフェもすぐに来た。こちらもこちらでソフトクリームの量が多い。いちごを避けてチョコのかかったソフトクリームを食べた。元々融合されたチョコアイスとはちがって、口の中で2つの味が楽しめる。2つの味が口の中で存在していることは、ラーメンとソフトクリームのようだ。いちごは避けてソフトクリームの部分だけ食べ進めていく。コーンフレークが近くなったらソフトクリームと混ぜて一緒に食べる。その頃には溶けていて、3種類の具材が綺麗に融合している。
スープに入れて混ぜる、口の中に入れて混ぜる。この2つは味の出方が全く違う。子供の頃は周りによく「食べ物の方に混ぜて食べても一緒じゃない?」と言われていた。が、口の中で不完全なまま混ぜる方が、味も食感も変わるのが分かる。それが好きだし、そっちで合わせた方が美味しい。きっとこれからも、やめられないんだろうな、といちごを食べながらミントは思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます