【Re: Under Brain】~ポンコツ電脳少女と征くチーター撲滅活動~

水母すい

Chapter.0 狐面の執行者

Ep.0 拝啓、この世界を創った貴方へ

「世界最高の神ゲー【Under Brain Online】は、悪の手に堕ちた」


 かつての世界ランク一位、【覇王】こと『ヴォルフガング』は引退の一ヶ月前、とあるゲーム専門サイトのインタビューでこう語った。PvPランキングのトップがサービス開始以来初めて入れ替わったのは、記事掲載の四日後のことだった。



 

       ◇◇◇

 

 


 2136年。

 舞台は、枯渇した資源を巡る”最終戦争”を経て、荒廃した地球。

 

 残された人類が新たな経済圏を築き始めていた頃、地球外より現れた機械生命体〈ノーブレイン〉が侵略を開始する。未知の力を前に、人類は為す術もなく衰退していく……かに思えたが、対〈ノーブレイン〉兵器――《ソティラス》を駆る一派が現れ、各地で反撃を開始した。


 そんな終末世界で、プレイヤーであるあなたはコールドスリープから目覚めた。〈ノーブレイン〉の蔓延る危険な世界を、《ソティラス》を手にしたあなたは冒険することになる。


 この過酷な世界で、あなたは生き延びることができるか。

 これは、遥か未来の世界の物語――。




 二年前の2025年、以上の世界観とコンセプトで業界に現れた世界初のフルダイブ型VRMMORPG、【Underアンダー Brainブレイン Onlineオンライン】――略して「アンブレ」。発売当初、その画期的かつ洗練されたゲームシステムに注目が集まり、一時は同接数一億人を超えてゲーム史の記録を塗り替えたこともあった。


 開発元の日本のみならずその人気は世界中に波及し、名実ともに【Under Brain Online】は、世界一多くの人を魅了したゲームとしてその名を歴史に刻むことになった。

 

 ……というのが、つい半年前までの世間の認識である。



 

「――アンブレとか、今もうオワコンじゃね?」



 

 現在の認識はというと、はっきり言ってこの一言に尽きる。

 そう、終わったのだ。アンブレの人気も流行も、も。


 その原因の最たるものこそが、アバター改造ツール《ディスオーダー》。

 この世界ゲームを跋扈する、正真正銘のだ。


 確かな悪意をもって世に解き放たれたそれは、急速にプレイヤー内でのシェアを拡大し、のちに〈Dプレイヤー〉と呼ばれるチート使用者を増加させていった。一説には、現在アクティブユーザーの約六割が〈Dプレイヤー〉であるとのデータもある。


 一方の運営はというと、半年間、これといった対応策を講じていない。

 これは《ディスオーダー》のもつ特異な性質によるものなのだが、その説明は今は後回しとしよう。

 

 そのせいでアンブレは今では、「チート必須ゲー」だの「倫理観アポカリプス系RPG」だの「もはや運営がグル」だの、ネット上では一種のミームと化す目も当てられない状況である。



 

 減り続けるプレイヤー人口、反比例的に増えていくDプレイヤー人口。

 不正ツールのクラッキングによりバグる世界フィールドと敵キャラたち。


 かつての神ゲーがクソゲーになり、今やサ終も目前。



 

 ただ、それでも。


 俺は、まだ諦めるわけにはいかなかった。


 


      ◇◇◇

 


 

 人気のない廃れたビル街に、雨が潸々さんさんと降りつける。

 

 見る者を憂鬱な気分にさせる、そんな空模様が、今日の「アンブレ」の世界を覆っていた。現実の日本が梅雨の時期だからだろうか、ここ最近は心なしか雨の日が多い気がする。


 俺はアウターのフードを目深に被り、とあるビルの屋上で雨を凌いでいた。

 手にした双眼鏡の先に見える景色に、目を向けながら。


「金髪の《ブレード》使い……あいつで間違いないな」


 俺が見ていたのは、一人のプレイヤー。

 他でもない、Dプレイヤーだった。


 相手の位置をマップ上でも確認し、双眼鏡を仕舞う。

 代わりに取り出したのは、黒い狐の仮面だ。


「さて、さっさと終わらせるか」

 

 自動装着式の仮面をつけ、俺はビルをあとにした。

 向かう先はもう、決まっている。

 

 今日の俺の仕事が始まった。




 

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