わかっていると思うけど

国見 紀行

きみの隣で走りたいから




「離さないでよ」

「わかってるよ」


 広い公園には僕と近所に住む美世理みよりちゃんだけ。

 けどそのほうが都合がいい。

 二人っきりのほうがいいのだ。


「ね、ねえ、ちゃんと捕まえておいてね」

「大丈夫だって。両手で支えてる」


 僕は、美世理ちゃんが安心して前に進めるようにサポートするだけの役。

 だって彼女は――


「じゃあ行くよ! せーのっ!」


 美世理ちゃんが思いっきり、足に力を込める。ガチャッというギアのかかる音と共にずずっと前へと走り出した。


「よっとっと」


 僕はそれに合わせて前に出る。同じ速度で走らないと、彼女を危険にさらすから。


「はい! はい! はい!!」


 リズムよく掛け声をかけてるつもりなんだろうけど、それとはどこも噛み合わない。

 でも着実にスピードは乗り、僕も追いつくのが難しくなる。


丈琉たける!? 離してないよね!?」

「大丈夫だって!」


 けど、もう既に片方の手は触れてない。


「でももっとスピード出して!」

「わかったー!!」


 ハンドルを握る手に力がこもる。前傾姿勢になって前髪が風でたなびくため、後方の注意が散漫になった今がチャンス。


 僕はそっと手を離した。


 でもダッシュで彼女の後を追いかける。勢いに乗ったのか、どんどん速度は上がり、ついには公園の端に到着してしまう。


「危ない、曲がって!」

「うん! って、えぇ!?」


 僕が手を離したのに気が付いたのか、美世理ちゃんはブレーキを掛けつつ半回転する。が、勢い余って後輪が大きく滑った。


「きゃああぁぁっ!」

「おおっとぉっ!」


 ちょうど目の前に倒れ込んできた美世理ちゃんを受け止める。危ない、反対側に倒れていたら助けられなかった。


「なんで離したの!?」

「ごめんごめん、スピードが乗ってきたから掴んでたら危ないなって思ったから」

「むう……」


 美世理ちゃんは僕に捕まったまま少し悩んで、それからもう一度自転車にまたがった。


「もう一回!」

「うん!」


 僕はもう一度、自転車の荷台を掴んでバランスをサポートする。


「こ、今度ははなさないでよ!」

「わかったー!」


 美世理ちゃんは懲りたのかもうスピードは出さなくなった。

 けど、コツは掴んだのかもうサポートはいらないかもしれない。


 だって、もう僕が彼女の隣でダッシュできるまでになったんだから。

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わかっていると思うけど 国見 紀行 @nori_kunimi

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