予選開始
マリーザからの神託に有った参加者リストの者達は、全員が獣人族の国に集まった事が確認された為、現在その参加者全員が首長の屋敷に集められていた。
屋敷の玄関前に集められた参加者達に向け、首長から今後の予定についての話が行われる。
「これから各参加者とその付き添いの者、及び希望する観客全員で、廃都に向けて移動する事になります。移動後はすぐに予選を開始する予定です」
首長の説明を聞いて翔哉は言ちる。
「また3日も歩いて、すぐに予選を始めるとか、ずいふんと強行日程だよね」
アス達も、その言葉を肯定するかのように無言で頷く。
事情を詳しく知らない他の参加者達からは、文句を言い出す者は現れないようだ。
「またトレントの縄張りを通るにゃか? 流石に今回ばかりはアトラが一喝してくれたとしても、この大人数じゃアイツらかなり怒るに違いないにゃね?」
ニケの話しにアトラも同調する。
「確かにそうねー。ぞろぞろと大勢で縄張りを踏み荒らされたりしたら、お姉さんもちょっと許せないかも」
アトラの気持ちを聞いて、翔哉は再び意見を言う。
「せっかく集まったんだし、わざわざ危険を冒してまで移動しないで、ここで大会を行えば良いのにね?」
「それがマリーザ様のご意志なら仕方がない事だろ?」
メルの言うようにどうにもならない事なのはわかるが、やはり納得行かない翔哉はポロッと呟く。
「あの女神様も相当、胡散臭い感じだけどね」
「お、おい!ショウヤ!」
慌ててメルは叫んだ。
「ゴホンッ! では、これよりすぐに移動を開始致します。ご案内しますので、皆さん私についてきて下さい」
首長はその場にいる者だけに付いてくるよう言ったが、それを不思議に思った翔哉から再び独り言が漏れる。
「さっきの説明だと関係者も行って良いような事を言ってたみたいだけど、これで全員なのかな? それに何の準備もしないでいきなり行くってどうなの?」
「とにかく、付いて行けばわかるんじゃないか? 首長はそんなに馬鹿な人じゃないぞ!」
翔哉なんかよりもずっと付き合いの長いメルが、そう言うのである。皆、騙されたと思って大人しく彼に付いて行く事にした。
首長のベガールは全員を先導しながら屋敷を出ると、最も大樹海に近い門から森の中に入る。
「あれ? やっぱりこのまま現地に向かう感じ?」
メルとしてもあんな事を言った手前、いよいよこのまま行く雰囲気には少し焦ってしまう。
街から出て少し進んだ所に有る、祭壇が設けられている大岩の前で、ベガールは急に立ち止まり翔哉に対して何の説明も無く唐突に話しかける。
「それではショウヤ殿、よろしくお願いします」
「えっ?」
翔哉の反応を見て察したベガールは質問する。
「マリーザ様より、この事については何も聞いておられませんか?」
「あっ、はい! 何も......」
「そうでしたか......それは失礼しました。予め確認しておくべきでしたね。ではマリーザ様から受け取ったとされる指輪の方は今お持ちですか?」
「あっ、はい! それは今、着けています」
そう言って手を見せる翔哉。
「お持ちなら良かった。それでは、その指輪を嵌めたまま祭壇の前までお願いしますショウヤ殿」
ベガールに促されるままに、翔哉は祭壇の方に進み出てその前に立つ。
「あれがショウヤか。我が恋の障害となる男」
街でいろいろ翔哉の事を聞いて回っていたようで、バルバトスは彼の事についての調べを、ある程度は着けていたようである。
「ほほう! 良いわね♡」
バルバトス同様、豪奢な衣装を纏った女性参加者の一人も、イヤらしい目で翔哉の事を見ながらそう言ちる。
翔哉が祭壇の前に立つと、マリーザから受け取った指輪が紫色に輝きだし、大岩の下に直径が30メートルくらいの大きな魔法陣が出現した。
突然出現した魔法陣に、参加者達から驚きの声が上がる。
転移する為の物だと言う事すら知らない者もいれば、何となく察する者もいたのだが、どちらにしてもそう簡単に拝める物でないのは間違いない事だ。
ざわめきが何となく収まったところで、ベガールからこの魔法陣についての説明が行われる。
「これは試合会場と獣人族の国を繋ぐ転移陣です。マリーザ様のお告げによると、一度開通したこの陣は大会期間中ずっと使用する事が出来るそうです。今、開通しましたので、皆さん準備できましたら順次移動を開始してください。これから現地に受付場を設けますので、全員受付が済み次第、予選を始めたいと思います」
ベガールが転移陣についての説明をした後、参加者達は一旦解散となり、準備や自分の応援者に対する連絡をする為に其々の滞在場所まで戻って行く。
「な? 首長があんな穴だらけのプランを実行するわけ無いと思ってたんだ! ちゃんと考えが有っただろ?」
メルはそう言うが、一瞬、焦っている様子だったのを目撃していたメンバー全員が彼女に対してジト目を向けていた。
翔哉達も一旦、屋敷に帰り、ヴィラに観戦するかどうかの確認をする。
「ヴィラ、大会の予選がすぐに始まるみたいだけど、ヴィラは観戦するかい?」
翔哉の問いに、ヴィラは少し驚いた様子で問い返す。
「当たり前ですわ! それにしても、ずいふんと急ですわね? 単なる予定に関する説明会ではなかったのですか?」
「うん、僕達もそう思ってたんだけどね。すぐに予選が始まるらしいよ?」
翔哉も翔哉で説明不足である。
「ん? すぐに始まる? これから移動を開始するって言う事でしょうか?」
「あっ、ごめんヴィラ。転移陣が開通したから、大会中は自由にここと現地を往き来できるらしいよ!」
「なるほど、やはりそう言う事でしたか。往き来するのに片道3日もかかる場所を一旦集まる場所に指定しておいて、それくらいの準備が無いなんておかしいと思っておりましたわ」
「ヴィラの居た世界では、転移陣とか有るのってけっこう普通な事だったの?」
「勿論、私の居た世界であっても、転移陣なんて普通に使われるような物では有りませんでしたわよ」
「そのわりには、予想してたような感じで言ってたみたいだけど?」
「私達の仲間内では、けっこう普通な事でしたからね。旦那様なんて転移陣など使わずとも、普通に転移なさっておりましたわよ!」
「へぇ~。メロちゃんのお兄ちゃんって、凄い人なんだね~?」
「ええ、それはもう! 正直な話、マリーザよりも強いと思いますわよ」
ヴィラの言い様が流石に聞き捨てならないと思ったニケは、彼女の意見を否定する。
「ただの人間や亜人が、女神であるマリーザ様よりも強いにゃんて事はあり得ないのにゃ!」
「ロキ様でもありショウタ様でもある旦那様は、マリーザと同じ亜神ですわよ」
自分の従兄弟が神だと言われて、当然の事ながら困惑する翔哉。
「えっ!? 人間が神様になっちゃう事なんて有るの?」
翔哉の問いにヴィラは話を続ける。
「何十万年に一度、有るか無いからしいですが、そんな事も有るとは聞きました。だだ、私は旦那様については、元々そうだったのではないかと思っておりますの」
「元々? 僕の従兄弟が?」
「ええ」
そう短く返事だけして翔哉の事を意味深に見つめ続けるヴィラ。
簡単に往き来できるなら特に準備する必要も無かったので、翔哉達はヴィラを連れ立ってそのまま一度、現地に向かう事にした。
転移陣を通り再びあの廃都にやって来た翔哉達の目の前には、かなり立派な闘技場らしき施設が建っている光景が目に入る。
「こんな建物有ったっけ?」
翔哉の問いにメルが答える。
「廃都って言っても、かなり大きな都市だったみたいだからな。この間だって真っ直ぐ来た道を戻っただけで、隅々まで探索した訳じゃないだろ?」
「確かにそうだね。それにしてもずいふんと綺麗な建物じゃない? まるで最近造られた物みたいに」
「そう言われて見るとそうだな。巨兵との戦いで破壊されたはずの床が直ってた事と、何か関係でもあるのかな?」
流石は女神と言われているだけの事はあって、人智を越える力をお持ちのようです。と言ったところか?
メルがどんどん先に進む為、翔哉はそんな考えを巡らせる暇も無く彼女の後を付いていく。
闘技場の出入口前には、既に受付場所が設置されており、翔哉は係員に促されるままに、早々に出場者登録を済ませてしまうのだった。
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