マリーザの新たなる神託



「やっと私達、世界樹の根元まで着く事が出来たんだね!」


「うん、僕達の目標も一先ず達成できそうだね!」


 そんな二人の世界に水を差すように、メルが詩の意味について問う。


「世界樹の根元に神の光が差し込みし時、金色の扉が現れ選ばれし者、女神の元に導かれん。これってどう言う意味なんだろうな?」


「たぶんいつものように、ショウヤが神気を何処かに流せば良いにゃよ!」


 ニケが意外と的を射る事を言うので、四人は世界樹の外周にそれっぽい物が無いかどうか、探索してみる事にした。


「ねぇ皆! あんな所に小屋が有るよ!」


 アスが叫びながら指差す方向には、一軒のログハウスが建っていた。


「普通の人はここに来れないはずだよね? て事はまさか女神様の住まい?」


 翔哉の問いにメルは「まさかマリーザ様の住まいが、あんなちんけな小屋なわけないだろ?」と言っていたのだが、四人が近付いてみたところ、小屋の周りを囲む柵の入り口には"マリーザのお家"と表札に書いてあったのだ。


 玄関まで行くとドアには木製の札が掛かっており、そこにはメッセージが書かれていて、メルはそれを読み上げる。


「呼び鈴を鳴らしたらドアが勝手に開くから、中へ入って居間で寛いでいてね☆ ちょっと行くまでに時間がかかる事も有るけど、諦めて帰ったりしちゃダメよ♡ ちゃんと待っていてね! だってさ......」


 書いてある通りにメルが呼び鈴を鳴らすと、やはり書いてある通りにドアが勝手にひらいたので、四人は中に入って居間で寛ぎはじめる。


「まさか本当に女神様が、ここにやって来るなんて事は無いよね?」


「まあな、もしそうだとしたら、伝承にある詩が全く意味を為さなくなるからな。流石にそんな都合の良い事には、ならないんじゃないか?」


 翔哉の問いにメルはそう答えたのだが、すぐに女性三人に異変が現れ始める。


「にゃんかゾクゾクするにゃ。メルは感じるにゃか?」


 そう言ってニケはメルの方を見るも、既に彼女は気絶しているようであった。


「えっ? 皆どうしたの!?」


 翔哉が気づいた時にはもう、三人は気絶してしまっていたのだ。


 そんな彼の周りの景色は突然、強烈な光に包まれ、あの日のようなただの真っ白な空間へと変化していき、そこにはあの時と同じように神々しい輝きを放つ銀髪の美女が佇んでいたのである。


「あらあら、翔哉くんったら! 毎度毎度ちょっと目を離すと、すぐに悪い虫さん達をゾロゾロ引き連れて来ちゃうんだから! 本当にあなたって悪い子ね!」


「あっ! やっぱりあなたがマリーザ様だったの?」


「まぁ、前の可愛い翔哉くんも良かったけど、やっぱりあなた、そのお顔の方が良いわね!」


「あのー! マリーザ様なんですよね?」


「あん! 拐っちゃいたいわ♡」


「拐うってどう言う事なんですか?」


「でも、幻影体だから拐う事ができないのよ~。だからもうちょっと、あなたには頑張ってもらわないとね☆」


「あの! 僕の質問......」


「あーん! 早く直に触れたい! 抱き締めたい! 可愛がりたい♡」


 全く会話が成り立たない彼女に対して、少し苛つき始める翔哉。


「さっきからその感じだと、最初から僕の事を知っている風に言っているみたいだけど、一体どう言う事なんですか!?」


 イラッと来た翔哉は、少し強めに彼女に対してそう質問すると、ようやく彼女からは真面な答えが返ってきたのだ。


「何よ! ちょっとくらい感慨に耽けったって良いじゃないの! 翔哉くんのせっかち! そうよ! お姉さんはあなたの事ずっと前から知っているわよ!」


「ずっと前? 一体どれくらい前から?」


「そんな事どうだって良いじゃない? それよりも、もっと他に聞きたい事が有るんじゃないの?」


 そう彼女に問われ、ハッとなる翔哉。周りを見渡してもアス達の姿はない。


 翔哉の様子を見て続けて話すマリーザ。


「あの悪い虫さん達なら、部屋に置いてきたわよ! 因みに新しい神託の件なら、この後すぐに各部族の巫女達に通達しておくから、心配はいらないわよ?」


 それならわざわざ来させる必要が有ったのか? と思った翔哉だったが、また余計な事を突っ込むと話が大きく脱線しそうだったので、彼はそこはぐっと堪えて話を続けた。


「それも勿論そうなんだけど、僕の力の秘密についても聞きたいし、アスがどうして弱かったのかについても彼女の代わりに聞いとかなきゃいけないんです!」


「あなたの力については、そのうち自然にわかるんじゃないかしら? 一つだけ言っとくと、あなたに対して施した加護は、強力な防御結界でもあり、神気の制限装置でもあるって事ね! あの生意気巨パイ娘が弱い理由は、本人の心の問題よ?」


「制限装置? 心の問題? もうちょっと詳しく教えて下さい!」


「あなたの事に関しては、そのままの意味よ! 巨パイ娘は彼女自体が、あまり強くなりたいって思ってなかったから! 普通使徒に選ばれれば、大抵は皆喜んで部族の者達の為に強くなりたいって思うものなんだけど、彼女はずっと使徒に選ばれた自分の運命を呪っていたわ!」


 アスが弱かった理由については納得できた翔哉だったが、何故自分の方だけはぐらかすのかについては、当然、納得なんてできるわけはなかった。


 ただ一つ言える事が有るとすれば、何となく想像するに自分には元々、神気の力が備わっていて、それを隠蔽する為にマリーザが呪い? 加護? をかけたと言う事なのであろう。


 わざわざそんな事をした理由については、勿論わからなかったのだが。


 あれこれ考え込んでいる様子の翔哉を見て、マリーザは更に続けて話す。


「早くあなたに直に会いたいから、先に神託しちゃうわね!」


 結局、直に言うんかい! と心の中で突っ込む翔哉だったが、そこは噛み殺して「はい」と答える。


「まず、ハーベの天使ちゃん達の侵攻に対して備える為に、樹海の統一国家を築きなさい。一応、王を選ぶ為の大会を開催するように、民達にはそう神託しとくわね」


「一応?」


「だって、ブッチギリであなたが優勝するに決まってるでしょ?」


「出来レースってやつですか?」


「そうよ! でも、それくらいはしないと、他の者達を納得させる事なんて出来ないでしょ? それに実際あなたの実力なんだから、八百長でも何でもないわけだし」


 納得した様子の翔哉を見て話を続けるマリーザ。


「国が形になって来たら人間達と和睦しなさい」


「はぁ?」


「たぶんそう言う流れになるはずよ?」


「はぁ......」


「何よ! その気の抜けた返事は!」


「あっ、す、すみません......」


「で、私が作った塔の最上階に行って、鍵を取って来て欲しいのよ。人間達の間では、本当失礼しちゃうわねって思うけど、邪神の塔なんて言われ方をしているわね」


「鍵を取って来たらまたここに来れば?」


「そうよ! そしたら晴れて、あなたを誘拐して、監禁して、ベッドに縛り付けて、あんな事やこんな事を♡」


 さっきからその類いの話は、基本スルーしていた翔哉。それはマリーザがふざけて言っているだけだと思っていたからに他ならない。


 しかし、あまりにも度が過ぎるので、翔哉は一つ質問してみる事にした。


「あのー。さっきから僕の事を誘拐するとか言ってますけど、それなら僕を元の世界に帰してもらう事とかは出来ないんですかね?」


「勿論出来るわよ~。でも帰す気なんて全く無いけどねー☆ 翔哉くんは永遠にお姉さんのモノになるの! 大体あなた、そんなカマかけるような事言うけど、あの巨パイちゃん置いて帰る気なんてさらさら無いんでしょ?」


「それは勿論そうですけど、最終的にあなたに誘拐されて、監禁される運命なら、最初から協力なんてしませんけど? それでも良いですか?」


 翔哉にそうハッキリ言われたマリーザは、少し項垂れながら小声で言う。


「そんなに辛辣な事言わなくても良いじゃない......私、何万年も淋しい思いしてるんだからさー。一回の人生分くらい私に独占させてくれたってバチは当たらないと思わない?」


 何だかよくわからないものの、何万年も淋しい思いをしていると聞いて少し同情してしまう翔哉。


「とにかく、今回は指示に従いますよ! アス達の故郷である樹海を守る為ですからね!」


 翔哉がそう返事をすると、マリーザは急に明るい表情になり自分の肩を抱きながら言う。


「ありがとう翔哉く~んっ! 大好き♡ あ~ん! 抱き締めたい抱き締めたい抱き締めたい抱き締めたい抱き締めたい!!」


 超美人だけど、この人恐い! と思う翔哉なのであった。

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