第29話 連れて行って
「いや、ちょっと待って……」
ベネットはうろたえる。
部屋にはばあやしか同行させなくてよかった。
メルももちろんそれをわかってレナートのこととかを口走ったのだろうが、気持ちの動揺しているメルは自分の言っていることの意味がよくわかっていない。
ベネットはメルの言葉をそうとらえていた。
「王妃様がおっしゃった、実家にとって余計者というのは本当のことです。あなたは離縁の後私が実家に戻った際、物質的にも惨めな思いをしないように、と、気を配ってくださっていましたが、それすら無理です。頂いたガーネットの首飾りもきっと取り上げられる!」
ばあやはメルの言葉を聞いてうなづいた。
「まあ、あの乞食娘ならやりそうですわね。いえいえ、あの娘を乞食と言ったら乞食に対して失礼かもしれませんわね。自分が不自由していなくても姉のメル様から強奪するのが趣味なのではと思うようなところがありますから。いえ、これは巷の評判と私が見た印象を総合した推測ですけどね」
今度はメルがばあやの言葉に黙ってうなづいた。
「つまり、王太子の座を辞してのち、メルを放り出すような真似をしたら、彼女はまたあの非情な家族の中に舞い戻るってことになるのよね」
別の声が響いた。
声の方向に目を向けるとそこにいたのは、
「伯父上! テティス殿!」
ベネットが叫んだ。
「いやあ、昨日の今日だから具合を見に来たんだけど、王妃もたいしたタマだね」
レナートが言う。
「ずっと見ていらしたのですか?」
「バルコニーに降りた時には、王妃がなんかわめいている途中で、その後なんか声かけづらくなっちゃってね。監視珠だけ部屋に残して別の用事を済ませていたってわけ」
テティスが説明した。
監視珠とは虫くらいの大きさの小さな魔道具である。
「しかし、メル殿。平民の暮らしはそんなに甘いものでは……。私とて伯父上に手助けしてもらって自活の道を探りますが、うまくいく保証はないのです。ましてやずっと貴族令嬢として生きてきたあなたが……」
「あら、貴族令嬢と言っても、私は家族の冷遇されていて、王宮に滞在するようになってからは超一流の物を使わせていただいておりますが、それ以前はここにいらっしゃるレナート様やテティス様のお召し物より質の悪いものを身につけさせられていたくらいですのよ」
メルの言葉に、そうなのか、と、部屋に入る面々は意外そうな顔をした。
「テティス様らのお召し物。デザインは簡素ですが、布地はかなり上質なものでしょう」
「ま、まあね。それなりの品にさらに魔法でいろいろ強化もしているからね」
メルの指摘にテティスはまんざらでもない風に答える。
「私はベネット様が思うほどか弱くはないし、贅沢にも慣れてはおりません」
ベネットは答えにつまった。
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