第2話 呪われた王太子

 メルとベネット王太子の結婚のための初顔合わせ。

 ファヴォリティス侯爵の一家四人が王宮に足を運んだ。


 うちうちの会合ということで、王宮の奥深く、内装は豪華だがそれほど広くはない広間に侯爵家の面々は通され王家の人々を待つこととなった。


 この日ばかりは、急きょ購入した既製品だが、エメより上質なドレスを着用しメルは王太子を待つこととなった。

 首元には大粒のアクアマリンのネックレスと耳元にそろいのイヤリング。

 母の借り物である。


 どちらかと言えばエメに似合いそうな色合いね、と、思いつつも、メルには自前の宝石などない。


 ドレスを新調したので、これ以上お金を使いたくなかった侯爵家はしぶしぶ夫人の一番いい宝飾品を、この日だけメルに貸してやることにしたのである。




 国王夫妻、そして彼らに続いて、第二王子のオーブリー、第三王子のクレール、第一王女のマティエ。

 王太子以外の王族メンバーが続々と入ってきた。


 髪は若干トーンが違えどみな金髪で青系統の瞳をしている人たちだった。


「やっぱり私の方が似合うじゃないの」


 メルの隣にいたエメが、メルにだけ聞こえるような小声でつぶやいた。


 彼らが着席すると、さらに、仮面をかぶった青年が入室した。


 ファヴォリティス家の者たちは一瞬ギョッとしたが、仮面の後ろから出ている髪の色を見ておそらく彼が王太子であろうという予測はついた。


「皆、揃ったな。して、どちらが長女のメル嬢なのかな?」


「わ、わたくしでございます……」


 国王の質問に、メルは前に進み出てカーテシーをした。


「ふむ、そうか。この度は王太子に輿入れしていただけること深く感謝申し上げる。先だって言った通り、持参金などいらぬ、来てくれるだけでありがたい」


 話が通っている父親以外のファヴォリティス家の面々は、国王の言葉に疑問を感じた。


 国王の次に高貴な存在の王太子。

 その妃となるのは貴族令嬢にとってこの上ない誉れとなるはずなのにこの低姿勢。


 国王の言葉は息子に重大な瑕疵がある場合に出てくるものだ。


 例えば、身持ちが悪いとか、度を越えて愚かであるとか、病弱とか、そして醜いとか?


「話を通しておらぬのか、侯爵よ」


「あ、はいっ! この場で説明を聞かせるのが早いと思いまして。御心配には及びません、メルは聞き分けのいい娘でございますから」


 国王の質問に父の公爵はそのように答えた。

 

 そうせざるを得ないからなった気性を勝手に決めつける父にメルは苦い思いを抱いた。


「では、まず仮面を取ってもらうがいいかの、ベネットよ」


 ベネット王太子はゆっくりとつけていた仮面を外した。


 現れたのは、肌には紫や緑に変色している部分やあばた、右目の瞼は腫れあがり、左目は横にひきつっている。

 とにかく、どうすればここまで顔が醜く変形してしまったのかというような状態だったのだ。


 女性たちの声も出せず驚いた様子を見て、ベネットは再び仮面を装着した。


「王家と王国にまつわる呪いなのじゃよ」


 国王は説明を始めた。


 それは今から二百年以上前。


 王国は数名の王子たちが派閥を作り内乱状態にあった。


 その中で一人の王子が、権力闘争での勝利と国の富を求め、国の北東にある険山に住まう魔王と契約する。

 魔王は王子が要求したものを与える代わりに、妃との間の最初の男の子を捧げることを要求した。


 王子は了承し魔王との契約は成立。


 戦いに勝ち抜いて国王となった元王子は妃を迎えやがて彼女は懐妊する。


 男の子だったら魔王に捧げねばならない。

 それを惜しんだ国王は一計を案じた。


 何と雄の犬を妃との間の養子に迎え、これが最初の男児だ、と、魔王に捧げたのだ。


 言葉の上では間違っていない。


 しかし、怒った魔王は生まれてきた第一王子に呪いをかけた。


 その呪いは代々王家に引き継がれ、一番初めに生まれた王子は二目と見られない醜い顔で生まれるのだという。

 

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