寄生虫

うぃんこさん

離さないで

彼との出会いは、冷たく閉ざされた地だった。


その地に大地ごと運ばれ、仲間達が悉く切り刻まれ、生き残りは私一人になった。そうでなくとも凍え死ぬ寸前であった。


そんな時、彼は私を手に取ってくれた。その瞬間、凍えは消えた。彼はまじまじと私を見つめているようだった。恥ずかしさでどうにかなりそうだった。


何にせよ、私は助けられた。温かい光を浴びて、服を着せてもらって、優しく運んでもらって……この人にだったら私は食べられてもいい。そう思えるようになった。



彼はとても優しい人だと思っていたが、人は見かけによらないものだ。彼は私を助け出したその日の夜には私の服をひん剥いて初夜の契りを交わそうとしたのだ。


だけど私はそんな彼のことを嫌いにはならなかった。助けてくれた恩もあるし、何より『がっつく人』はかなり好みのタイプだ。


身体を丁寧に洗われ、乱暴に口づけをされる。あまりにも情熱的な吸引力に、私は本当に食べられてしまうのではないかと錯覚する。


さらに彼は私の身体に噛み痕を残していく。自分のものだと誇示するように、丹念にマーキングしていく。何度も何度も何度も何度も口内で味わわれ、私の身体はもうどうにかなりそうだった。


――もう、我慢できない。


ゆっくりと、ゆっくりと中へと入り込んでいく。肉壁がミチミチと音を立てて押し広げられていく。まだか、まだかと私は待ちわびる。早く、早く奥まで到達して欲しい。彼は情熱的でありながら焦らすのが好きなようだ。


「~~~~~~~~~~~~ッッッ!?」


ようやく奥まで届いた瞬間、私は落下感を覚えるほどの絶頂に苛まれる。まとわりつく粘液が私の全身を痺れさせる。入り込んだその先で、私も負けじと牙を突き立てる。


「ナカ、挿入はいっちゃったね……」


肉の壁を擦るのはとても気持ちよく、往復する度に身体が跳ねていく。お互い気持ちいのだろうか、二人分の振動が空間を震わせる。粘液の痺れすらも気持ちいい。圧迫感で興奮するのは生来のことではあるが、これほどとは。


私の身体に、彼の汗がどんどん滴り落ちていく。今でも充分おかしくなっているのに、彼にまつわるあらゆるものに触れただけでより一層正気を保てなくなってくる。これはもう麻薬に等しい。絶対に逃れられない。もう二度と離れられない。


「おっおほぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおぉぉぉ~~~~~~~~~!?!?!?」


限界だ。ついに狂ってしまった。彼から大量の液体をぶちまけられた時、私は気絶するほどに絶頂してしまった。




あれから何日が経っただろうか。目覚めてからというものの、出しては入れて、出しては入れてのピストン運動は止まることを知らなかった。


私は決めた。もう二度と彼を離さないと。堕落していると後ろ指を刺されても構わない。たとえ彼の親族から寄生虫と罵られても離れない。彼に触れる事で得られる幸福に代えがたいものはない。


ならばいっそ、もっと先を求めても良いのではないだろうか。もっと、もっと奥へ。私が味わったことのない果てへと行っても良いのではないか。


「……え?」


違う、私の意思ではない。何故私は彼から離れた?いや、離されている?まずい、あまりにも絶頂を繰り返したせいで感覚が麻痺している。


振り向くことも出来ない。かろうじて分かったのは何か大きなものに掴まれて彼から引き剥がされていることだけ……え……?


「んぎいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!嫌だ!!!嫌だアアアアアァァァーーーーーーッ!!!!!」


懸命に身体をくねらせて拘束から逃れようとするが、その力はあまりにも強く、かといって私の身体を潰さないように加減しているようにも思える。


その拘束はひどく冷たく、彼に助け出される前の凍えを思い出させるようで。


「嫌だッ!離さないでッ!離さないでッッ!私を彼から離さないでッッッ!!!」


彼から離される事ばかり考えていて、自分が今後どうなるかなんて考えたこともなかった。掴みあげられたまま、どんどん高度が上昇していくのがわかる。そしてそのまま一気に引き抜かれ……


「やらやらやらぁあああ あぉぁあああ あぉぁあああ あぉぁあああ あぉぁあああ あぉぁあああ あぉぁあああ あぉぁあああ あぉしにたくにゃいぃしにたくにゃいぃしにたくにゃいぃお゙ぉおォおんお゙ぉおォおんお゙ぉおォおんっほお゛お゛っお゙ぉおォおんお゙ぉおォおんお゙ぉおォおんお゙ぉおォおんお゙ぉおォおんお゙ぉおォおんお゙ぉおォおんお゙ぉおォおんお゙ぉおォおんお゙ぉおォおんお゙ぉおォおんお゙ぉおォおんお゙ぉおォおんぉぉぉぉぉぉお゙ぉおォおんお゙ぉおォおんお゙ぉおォおんお゙ぉおォおんお゙ぉおォおんお゙ぉおォおんお゙ぉおォおんお゙ぉおォおんお゙ぉおォおんぉぉぉぉ~~~~~~~!!!!!!」


急激な温度変化と強烈なGに押しつぶされ、そして何よりも彼から離される絶望感に苛まれた私は、逝った。







「……というわけで君がアジを食べてからこうやって出されるまでのアニサキスの気持ちを代弁してみたんだが、どうかな?」


「頼むからもう話さないでください」

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