僕らの病が尽きる。

那須茄子

僕らの病が尽きる。

 病院の屋上は、夜の静けさに包まれていた。月が空高く昇り、星々がきらめく中。


 僕は彼女を待っていた。

 

 彼女は、夜の世界にだけ生きる少女。

 僕は、この世との別れを控えた死に際。


 



 彼女が姿を現すと、病院の灯りが一層柔らかく感じられた。彼女の目は、夜空の星のように輝いており、その瞳には無数の物語が宿っているようだった。


 彼女は静かに微笑みながら、隣に座る。

 甘い匂いがほのかに香り、それだけで僕の全てを満たしていく。


「今夜は星がきれいね」と彼女が言った。


 その声は、夜の静けさを破るようで、僕の心に深く響く。



 僕は彼女の手を取り、そっと握った。


「君の手、冷たいね」と僕は言った。

「でも、君の手が温めてくれるから」と彼女は答える。




 ....時間は限られている。

 

 僕の心臓は、もう長くは動かない。

 彼女の病も、夜ごとに彼女を弱らせていく。


 でも。

 彼女の笑顔が、僕の心を明るく照らす。

 僕の言葉が、彼女に希望を与える。


 から。



「君といると、病気のことを忘れられる」と彼女は言う。

「僕もだよ。君がいるから、怖くない」と僕は答える。



 そして、しばらくの間。

 僕らは口をつむいだ。



 今日という、最後の夜。




 再び屋上で星を見上げる。



 彼女はすでに僕の腕の中で眠りにつき、そのまま静かに息を引き取った。


 予定よりも、早い彼女の死。


 


 僕もまた、彼女の後を追うように、この世を去るのだろうか。




 星が消え、夜が明ける。



 彼女はもういない。


 


 




 僕はそこで。

 やっと。



 呼吸を、止めることができた。


 

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