第23話 ラスボスに挑む冒険者2 クレイジースパイダー


ズシャ!

走り抜けながらレオンの刃がゴブリンを切り倒す。


身体が軽い!


レオンは死んだはずだった。スケルトンにやられて。

しかし、気がついたら体の傷は癒えていた。ボロボロの装備、血だらけの服がレオンが一度死んだことをものがったていた。


あれは夢じゃなかったのかな。

最下層 玉座の間。そこにいけばなんでも願いを叶えてもらえる。

ラストダンジョンに玉座の間があることすらだれも知らない。


レオンはワクワクしていた。


それに付与されていた成長加速というスキル。


「ほんとにすごいや。」

レオンはメキメキと力を上げてスケルトンではもう苦戦などせず倒せるようになっていた。


「もう少し深く潜れそう。」

レオンは今20層にいる。もう少しで中層だ。

この間までスケルトンに苦戦していたのにも関わらずもう中層に挑もうとしている。それもソロでだ。成長加速の凄まじさがわかるであろう。


その後も順調にダンジョンを進んでいく。中層のモンスターも難なく倒していく。


突然背中に寒気を感じ、咄嗟に振り向き防御する。


ガキン!!

剣と牙が打ち合った。


「ク、クレイジースパイダー!?なんでこんなところに!?」

血のような赤色の毛皮に鋭い牙をもつクレイジースパイダーはC級モンスターである。中層のモンスターは最高でもD級。C級もいるにはいるが稀である。


下層のモンスターがなぜ?


「そういえばこの間、受付の女の人が最近階層にあってないイレギュラーモンスターが出現するから気をつけてって言ってたかも!」


レオンはクレイジースパイダーの攻撃を素早く交わしながら言う。


キシャー!!


クレイジースパイダーが叫ぶとわらわらとスモールスパイダーが湧いて出てきた。

スモールスパイダーはE級のモンスターだが、あまりに数が多い。


「うん、逃げよう。」

レオンは逃げ道を断たれる前に逃走する。



だが、蜘蛛は早い。レオン程度の速度では追いつかれてしまう。


「不運だ、まさかかイレギュラーにやられるなんて。」

レオンは壁際に追いつかれ壁に背をつく。


「ファイアボール。」


複数のファイアボールがスモールスパイダーに当たり断末魔をあげて次々と倒れていく。


「あなたは!!」


白銀の鎧に身を纏った冒険者が蜘蛛の後ろからゆっくりと歩いてくる。

そう、ファイヤボールを放ったのは白銀だった。


「子蜘蛛は一掃してやろう。」

白銀はそう言ってファイアボールを次々と放ちスモールスパイダーを瞬く間に一掃した。


「ありがとうございます!」

レオンは安心しきっていた。噂の英雄が助けに来てくれた。もう安心だと。生きて帰れるんだと。


「少年、そいつはお前がやるんだ。」

白銀はクレイジースパイダーを指さしてレオンに言った。


「え?どうして…」


「それは君の獲物だ。」


「僕はたぶんこいつには勝てません。」

目の前のクレイジースパイダーを見て言う。

大きな顎、俺のナイフでは攻撃が通るのかわからない分厚い赤い毛皮。

見れば見るほどこんな化け物に勝てそうではない。


「お前が深層を目指すのならば、これくらいのモンスターは吐いて捨てるほどいるぞ。死線を超えろ少年よ。」

白銀はそう言って僕の足元に一本のナイフを投げた。


これで戦えってことか。

俺は足元に突き刺さったナイフを拾う。


すごいナイフだ。刀身にはなにか文字が刻まれており、刀身自体が白く薄く輝いている。



レオンは目の前のクレイジースパイダーにナイフを構え、駆け出す。


クレイジースパイダーも威嚇し、大きな脚を振り上げてレオンにたたきつける。


レオンは迫り来る足をナイフで受ける。

凄まじい衝撃がレオンを襲うが、負けずに押し返し、脚を切り付ける。


今までのレオンの攻撃ではCランクモンスターにかすり傷すら与えられなかったであろう。しかし、レオンの攻撃はしっかりとクレイジースパイダーの脚を切り裂いた。


キシャー!


「このナイフすごい!!」


ナイフの切れ味にレオンは驚く。

これなら俺でも勝てるかもしれない!Cランクモンスターに!俺が!!


「うぐぅ!」

そう考えたとたん俺は吹き飛ばされ壁にぶつかった。

前足で横凪に払われたのだ。


たぶん肋骨が何本か折れている。息をするたびに苦しいし痛い。折れた肋骨が臓器に刺さっていないだけ幸いか。

自然と息が浅くなる。

息が浅くなると恐怖で呼吸が速くなる。


クレイジースパイダーが警戒している為かゆっくりと静かにこちらに迫ってくる。




死が迫ってきている。




俺はチラッと白銀を見るが助ける気配は全くないただじっと死んだらそれまでとばかりに、こちらをみているだけだ。



怖い、逃げ出したい。


それでも俺は立ち上がった。強くなるために。


もう不運のせいでバカを見る人生は終わりだ。俺は不運を理不尽を乗り越える。


強くなるんだ。


ギリギリと歯を噛み締めて恐怖を殺す。

全身に力を入れて痛みを無視する。


俺はクレイジースパイダーに向かって構える。


「ぐおぉー!!!」

俺は叫んでクレイジースパイダーの攻撃を躱す。

足元に滑り込み、腹の下に行き、したから深く深くナイフを突き立てる。


ギシャー!


クレイジースパイダーは暴れ狂う。


俺も一回距離を取る。今のは致命傷の筈だ。


腹と口から体液を垂らすクレイジースパイダーを見る。


ん?そういえば、身体の痛みが少しずつ和らいでいっている。

このナイフか!ナイフの優しい輝きが俺にもうつり、体を癒していっているのがわかる。

…ほんとにすごいナイフだな。


ギィーシャーー!!


クレイジースパイダーと言われる所以。

クレイジースパイダーのスキル 狂化が発動された。我を忘れ誰から構わず攻撃する代わりにステータスが爆発的に上昇する。


凄まじいスピードでクレイジースパイダーがこちらに向かってくる。


ステータスが向上してすごい速さだ。一撃でも喰らったら俺は一瞬で死体と化すだろう。

だが、動きは単調だ!

レオンはなんとか攻撃を避け続ける。


そして脳天にナイフを突き立てた。


ギシャァ


クレイジースパイダーはやっと生き絶えた。


「かっ、た、のか?」

俺もそのまま気を失った。









パチパチパチ!


俺は拍手する。


「少年よ、素晴らしい!見事格上相手に勝利を勝ち取った。」

俺は少年に歩み寄り最高級の回復剤をかける。

すぐに少年の傷は良くなった。


「どうだ、アステリヤ?こいつは強くなっただろ?」


「そうでしょうか?弱すぎていまいちわかりません。」


「強くなっているさ。あぁ、楽しかった。そして、楽しみだ。こいつが次どんな冒険をするのか、どんな強者と出会うのか。」

俺はニヤリと笑う。


「そのナイフはあげるよ。冒険したご褒美だ。さて、上まで送って行ってやるか。」







破邪のナイフ

ランク:レジェンド

装備している者の呪いを払い、身体を癒す。

暗闇を照らし、悪を滅するナイフ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る