第21話 蜘蛛

「ゆるさぬ。人間どもめ。この森は我らの楽園。ニンゲンどもが荒らしに来るというのならば、相応の報復を。」

丸太のように大きな足、鋭く大きな牙。8つの大きな真紅の瞳に、黒檀色の毛で覆われている。

ユニークモンスターのクイーンアビススパイダーのナクアは怒っていた。

つい先日この森にに人間たちが訪れ、一族を殺しまくり、森を荒らしたからだ。

最初はなにかわからなかった。なぜならばナクアは人間を見たことがないからだ。


ここは死の迷宮98階層 深淵の森。

人類はまだ到達していない領域だったのだ。

しかし、この間到達したパーティーがある。


そう、勇者パーティーだ。


勇者パーティーが初めてここに訪れ蜘蛛のモンスターを殺してしまったのだ。それも何匹も。


ナクアは縄張り意識が強く、プライドが高い。突然の人間達の侵攻は許すことはできない。


ナクアは他の階層にも己の一族を放ち、彼らが何者なのか突き止めた。


彼らは上の階層から来る ニンゲン という生き物だということ。


ナクアはすぐに一族を集め始めた。


「我らに手を出したことを後悔させてやる。ニンゲンめ!」

一族はナクアの呼びかけに応じ、すぐに集まった。今も着々と数を増やしている。






「こんにちは。」


「はっ!貴様なにものだ!?」


夜空を思わせる黒いローブを深く被り、身の丈ほどある装飾された大きな綺麗な杖を持った男がナクアの目の前に気づいたらいた。


何者なのだ!?こいつもニンゲン?


「俺か?俺は下の階層から来たものだ。」


下の階層だと!?

ナキアは一度下の階層、つまりは100階層に行ったことがあった。そこはただただ広い洞窟でアンデットが徘徊している。

問題なのは、そのアンデット1匹1匹が自分と同じ強さを持つことだった。

その時ナキアはすぐに引き返し己のナワバリの階層に戻り2度と行かないと誓ったのだった。

その下の階層から来たという。

ナキアはさらに警戒を強めた。


「なにをしに来たのだ!」


「いやね、なんかおかしな動きをしているモンスターがいるって報告を受けてね。なにしてるのか気になって。なにしてるのかな?」


「身の程も知らないニンゲンどもに私の縄張りを荒らした報復しに行くのだ。」


「報復?人間ってこの階層まだ来てないんじゃ…あぁ、勇者パーティーかぁ〜。」


「お前はニンゲン?」


「違うよ、ほら。」

男はローブのフードは外し顔を晒した。

二つの大きなツノのあるドラゴンの頭蓋骨を持つアンデットであった。


「アンデットであったか。それで、もう目的は果たしたか?それとも我らを止める?」

私は一族の精鋭を呼び寄せ、男を取り囲む。


「なに?俺とやる気?」

目の前のアンデットは魔力を解放し、こちらを見る。

膨大な魔力により突風が巻き起こる。


勝てない。ナキアはただそう思う。


「いやね、別にお前たちを殺しにきたわけじゃないんだよ。本当にただ気になったから。お前は外に侵攻する気なの?」


「外?我らはニンゲンのいる上の階層に侵攻し、ニンゲンを滅ぼすのだ。」


「ん?あぁ、人間が上の階層のモンスターだと思ってるのか。人間はね、ダンジョンの外から来ているんだよ。」


「ダンジョンの外?」


「そう。ここはラストダンジョンと言われる死の迷宮。外にも人間やモンスターが住んでいて人間たちはそこから来ているんだ。」


「なるほど、では外に侵攻するまで。」


「ふふ、人間はお前が思っているより強いよ?」


「ニンゲンたちはここにまたやってくるのか?」


「来るだろうね。人間達はもうすぐこの階層にもやってくるだろう。そしてその下の階層にも。冒険をしに。」


「ならば、行かなければ。我らが脅かされる。脅かされる前に滅ぼす。そうして我らはこれまでも生き残った。お前は我らを止めるか?」


「…いや、止めないよ。それはお前たちの生きようとする行動だ。俺は人間だから、モンスターだからと贔屓はしない。」


「良かった。」


「それに…面白そうだ。」

ゾクリとナクアは恐怖を感じた。


「邪魔して悪かったね。」


アンデットはそう言って目の前から忽然と消えた。


なんだったのだろう。だが、本能で逆らってはいけない存在のだとわかった。

しかし、その存在から許可を得られた。


「皆のものもっとだ。もっと一族を集めるのだ。獲物を喰らい子を産め。数を増やし力を蓄えろ。」


油断はしない。

我らを脅かすのなら、これまでと同じように滅ぼすまで。我らはこれまでも、これからも敵を滅ぼしこの森に君臨するのだから。



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