もう離さないでよっ!
蒼田
えぇ......
カラッとした天気の中男性が女性に近付く。
気配を消して近付く彼はそのまま彼女の肩に手をやった。
「よーし。やっと捕まえたで。両手を上げ」
男性が声をかけると彼女は足を止める。
瞬間男性は周辺の空気が三度ほど下がったと感じる。
彼が追っているのは某国のスパイ。
彼女が放つ異様な雰囲気がそうさせているのだろうと、ゴクリと息を飲み、掴む手に力を入れる。
力を入れられたのに女性はびくともしない。
――なるほど。大したタマや。
そう思いながらも彼女に手を上げるように再度促そうとする。
「……なんで今更会いに来たの」
彼に背を向け続けている彼女が僅かに震える声で言う。
(今更? ワイこいつに会ったことないで? )
その昔あったことがあるのだろうか。思い返すも記憶にない。
そもそも彼女の事を知ったのはデータを渡された今日の事だ。
(ワイを攪乱させる目的か? )
攪乱し、一瞬の隙をつき逃げる。常套手段だ。
そんなものに騙されないぞ、と意気込みながら問いかけに答えた。
「そんなにワイの事が恋しかったんか? それはすまんかったな。これからはよう会えるようにするさかい許してや」
――獄中でな。
と心の中で呟き冷たい目線を彼女に送る。
「なんでっ、なんで今更そんなこと言うのっ! 」
彼女は肩を震わせながら顔に手をやる。
男は僅かな動揺の後このまま抑え込むか考え、拘束することを決定する。
が、彼が行動に移す前に彼女は地面に崩れるように座り込んでしまった。
「謝らないでよっ!!! 」
ヒステリー気味に彼女が叫ぶ。
まるで一方的に別れを告げられた女性のように叫ぶ。
――自分を騙し逃げるためとはいえ素晴らしい演技だ。
そう思いながらも彼は拘束し連行する手順に移る。
「わかったわかった。これからはあんさんのこと、大切にするさかい……」
「だったらもう私を離さないでっ!!! 」
彼女はきらりと線を作りながら、男性に振り向く。
が、二人は顔を見て硬直した。
「「え」」
二人共……人違いだった。
もう離さないでよっ! 蒼田 @souda0011
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます