とりあえず、腹を割ってみた

 

 向こうが腹を割れと言うので、明路は、とりあえず、割って話してみた。


 すると、

「ちょっと待て」

と由佳は額に手をやる。


「……お前、それ、予見の意味がないほど、脱線してないか?」


「そうね。

 和彦さんもそう言って不機嫌になったわ」


 だから、和彦って誰だ、と由佳は顔をしかめる。


「でもさ。

 面白いことに、何度レールを外しても、また元に戻っているのよ。


 まるで、たどり着くべき未来が何処かにあるみたいに」


 そう言いながら、ざわりと胸が騒いだ。


 まただ。


 また、あの感じ……。


 やっぱり私は何か忘れてる、と明路は思う。


「それと、もうひとつ、不思議なことがあるの」

「これ以上、なんの不思議なことがあるんだ?」


 腕を組み、不機嫌な顔で由佳は言う。


「見間違いかもしれないんだけど。

 あの人を見たのよ。


 あの怖い喫茶店で」


「あの人?」


「殺されたはずのサラリーマン。

 あの男の生まれ変わりの」


「……そんなことがあるのか?


 そのサラリーマンとやらは、お前の話だと、幽霊階段の事件が起こる前には殺されてた感じだが」


「ちゃんと確かめたわけじゃないのよ。

 もし、まだ生きてるのなら――」


「生きてるのなら?」

「助けたいのよ」


 はあ? という顔を由佳はした。


 和彦と同じ表情だ。


 そのあとも同じだ。

 怒り出す。


 和彦は、これ以上、脱線して、未来を読めなくするなと。


 由佳は、あの男を助けるのかと、怒っている。


 そこで少し笑うと、なんだ? と訊いてくる。


「いや。

 和彦さんは別のことでも怒ってるのよ」


 その言葉にか、ますます渋面を作った由佳が言う。


「だから、和彦って誰だ!?」


 もう説明はしたはずだが、やはり、そういう言い方をする。


 まだ顔を見てないからか。

 何かが気に入らないのか。


「誰だって――


 天敵よ」


 当然の如くそう言い、笑って見せた。


 由佳は、お前はわからん、という顔をし、再び、溜め息をついて見せる。


「和彦さんって、自分の奥さん以外には、笑顔で人でなしなのよ。

 でも、さすがに生死に関わることは心配してくれてるみたいで。


 あの人を助けたら、私が死ぬと思って怒ってるようなのよね」


「お前が死ぬ?」


「霊になったあの人が、私が危ないと和彦さんに教えて、それで私は助かったの。


 あの人が霊にならなかったら、そのタイミングがわからないかもしれないって言うのよ。


 でも、あのままの未来を進んでたら、和彦さんこそ危なかったと思うんだけど」


 そう明路は言った。





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