テレビ追放芸人、ダンジョン配信バズりちらかす!
だぶんぐる
第1話 安心してください、配信してますよ!ダンジョンで!
「いたたたたたたた!」
《マジか……コイツ……》
《アホすぐるwww》
《死ぬな! ごとうちゃん!》
男は、配信画面のコメント欄が恐ろしい速さで流れていくのを見て笑う。
(流石、ウチの錬金術師特製スカウ●ー風ディスプレイ! コメントもばっちり見られる!)
男は笑っていた。下半身を思い切り噛まれながら。
「いや、マジでこのイグアナデカすぎでしょ! あと、顎の力が鰐なんじゃないかってくらいすげーんだけどお!? いたああああ!」
痛みは本物。だが、その痛みが本物で男が痛がれば痛がるほどコメント欄は沸き続ける。コメント欄は知っていた。男がこのくらいで死ぬタマではないと。
であれば、男と一緒に今の状況を盛り上げるだけ。
《流石、勇者ごとうちゃんwww》
《パンイチ勇者ごとうwww》
《GOTO!!!!!!wwwwwwwwwwwwwwwwwww》
音として笑い声は聞こえない。だが、コメント欄に生え続ける草に男は何よりの喜びを感じ身体を震わせる。
男は、笑わせたかった。
その為にはどんなこともやると誓った。
だから、男はやってきた。ダンジョンに。
今、世界で最もアツいダンジョン配信をするために。
「おいぃいいい! 妹ちゃん何してんの!?」
「大丈夫よ、にいさん。ばっちり撮ってる」
「そういう意味の『何してんの?』じゃねーよ! のんびりカメラ撮ってるんじゃないよ! お前の兄、今半分食われてるよ!? にいさんの下半分なくなってもはや『にい』になってるよ!」
「にい、がんばって」
「かわいいね、その呼び方! って、うぉおおおおい! 応援するな応援するな! たすけてー!」
《お約束の流れwww》
《妹ちゃんの無表情声たまらん》
《ごとうちゃんの悲鳴で飯がうまい》
配信者の兄とカメラ係の妹はもうこの業界では有名だった。
妹のクールな口調のかわいらしい声は声だけにも関わらずファンは多いし、兄の絶叫を求める視聴者の数は今丁度2万を越えた。
「なあ!? 鐵郎を、た、助けるべきではないのか!?」
「あーあー【剣姫】さん大丈夫ですよー。おれらの業界では『押すな押すなは押せ』っていうルールがあるんです」
「そうなんですよ! だからね、てっちゃんのアレはフリです」
「そ、そうなのか? うむ、勉強になる」
「うおおおおい! のんびりバラエティ講座してるんじゃねえよ! 恵さんもクソ真面目にメモしてるんじゃないよ! なんて書いたの?!」
「『押すな押すなは押せ』、と」
「一字一句違わず! まっじめー! って、おぉおおおおおおい!」
《めがみ・M・めぐみ様も通常運転www》
《ヅッキーニもバシもマジで助けんよなw》
《ごとうちゃんの悲鳴でステーキがうまい》
何も知らない人間からすれば異常な光景。
冒険者達が命のやりとりを繰り返すダンジョンで、男が食われかけているのを恋人(仮)である美女と仲間たちがのんびりと応援。
「はっはっは! 待たせたな! ごとうちゃん!」
「そ、その声はまさか!」
「そう! 私が~ほぼ全裸で~助け~に~北! 西! 東! 南~の国の大王の! 岩尾やばっ……げふうう!」
「やまとぉおおおおおおお!」
《ヤマト秒殺定期www》
《世界の残念なイケメン(美声)》
《ヤマトローションまみれなのは滑り散らかすとかけてるでおk?》
ベタベタなイケメン(ほぼ全裸)が美声で吹っ飛んでいくのも彼らにとってはいつものこと。
《ていうか、マジでごとうちゃんヤバすぎるやろ》
《ごとうちゃんなんだかんだで10分は噛まれとるwww》
《ごとうちゃんの悲鳴で至高のフルコースおいしくたべました~♪》
半身を食われかけてもどんなに鋭い牙で噛まれても絶対に死なないのもいつものこと。この男は死なないどころか、血さえも流れていない。理由は単純。リアルな血はみんな引くから。
《ていうか、そろそろ言っていい?》
《いいよー》
《デザートがあったな》
生きて馬鹿な事をして視聴者を盛り上げる。ついでに誰かを助けることもある。
それが男のダンジョン配信。
「ん? どした? コメント欄?」
芸人である男のリアクション配信。
《ごとうちゃん、それ、イグアナちゃう、ドラゴンやで》
「は? はぁあああああああ!? 聞いてねえよぉおおおお!」
《【悲報】ごとうちゃん、イグアナとドラゴンの区別もつかないwww》
《ドラゴンドッキリ大成功》
《ごちそうさま》
「おいぃいいいいいいいい! お前らぁあああ! これ、あの姉妹のところのが脱走してダンジョンで異常成長したイグアナって言ったよな!? だから、絶対に大丈夫って! ダンジョンのすげー奥深くに行くから俺あやしいと思ってたんだよ! 俺、今、ドラゴンに半分食われてんの!?」
「にい、ないすりあくしょーん」
「おい! いも! グッじゃねえんだよ! 顔無表情なのに身体爆笑でカメラ震えてんぞ!」
「鐵郎!? 大丈夫か!? 二人に言われて作ってきた手作り卵焼き食べるか!? これがあれば大丈夫って!」
「真に受けるとかクソ真面目か! 今じゃないよね!? ていうか、何そのダークマター!?」
「心の中の友達と書いて心友よ、私が助けにぶふうううううう!」
「ヤマト、それだとただのイマジナリーフレンドぉおおおおお!」
「「草www」」
「そこの二人ぃいいいいいいいいいいいいいい!」
「「……あ」」
その時、余りにも男が平気そうに騒いで不快だったのかドラゴンと呼ばれた魔物は、体中に雷を奔らせると標的を変え、男の妹の方に向かう。
「え?」
《やばいやばいやばい!》
《妹ちゃん逃げて!》
《まあまあ君達》
妹はじっとカメラを回し続ける。彼女も信じているから。
「おぉい、ドラゴンらしいやつ、それはNGだ」
《ごとうちゃんだぞ》
男は、飛び上がりドラゴンの頭上で武器をパンツから取り出す。
それはハリセン。
2022年、放送倫理・番組向上機構、青少年委員会の『痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー』は他人の心身の痛みを嘲笑する演出であり、視聴する青少年の発達に影響を与える可能性があるとする見解によりテレビ番組から消えたハリセン。
だが、男が持つハリセンはただのハリセンではない。
天才錬金術師が生み出した魔力を込めると大きくなるハリセン。複雑な魔力回路により、蛇腹の間には風魔法が組み込まれ『音はデカいのに痛くない一撃』も『音もダメージも死ぬほどデカい一撃』も生み出せる最高の一品だった。
ドラゴンは雷を放つが、ダンジョンビリビリ電気羊椅子耐久生活配信で鍛えた男には効かない。
《大丈夫だぁ》
「人死には笑えねえ。笑えねえのは最悪だ」
男は笑顔が好きだった。だから、男はどんなことにも体当たりで挑んだ。
その結果、テレビから追放された。
そして、ダンジョン配信を始めた。
バラエティダンジョン配信を。
《ドラゴンがブレス放つぞ!》
「あぶなーい! てっちゃんサポートする! 風よ! 彼の者を守る壁となれ!」
男の仲間がそう叫び嵐が起きると嵐は明後日の方向に飛んでいく。
《出たwww天然魔法wwwけどこっからミラクルのはじまり》
「友よ! 奇跡の風によりかえってあばばばばば!」
《残念イケメンヌルヌルシールドwww》
《けど全部は防げぬ》
《大丈夫やろ》
《せやな》
「鐵郎ぉおおおおお!」
「にい!」
《《《ごとうちゃんやぞ》》》
「が、がががぎぎぎぎぐぐぐぐげげげげげ!」
《なんでごとうちゃんドラゴンに噛まれてブレス喰らって生きてるんwww》
《ダンジョンなのに草生えて大草原www》
《パンイチパンチ定期》
「ごとうちゃんハリセンパァアアアアン!」
男のハリセンが爆発音を響かせドラゴンの脳天に叩きつけられ、風が舞い起こりドラゴンは潰れ倒れて、そして……動かなくなった。
《相変わらずごとうちゃんの配信むちゃくちゃwww》
《むちゃくちゃじゃない配信なんてごとうちゃんの配信じゃない!》
《さすがクレイジーモンスターズチャンネル》
男の名は、後藤鐵郎。固有スキル【リアクション】。
一年前、過激な事をやりすぎてテレビを追放された男はダンジョン配信でバズりちらかしていた。
「てっちゃんないすぅ! これはおれらからお詫びの品でーす」
ダンジョンお笑い配信チャンネル【狂笑の怪物軍団(クレイジーモンスターズ)】チャンネルの仲間が何かを放り投げる。
「おー……って、おま! それ、小型ダイナマイツぅううう!」
「それじゃあ、ごとうちゃん! 締めの一言まで3,2,1,キュー!」
集まってきた魔物を吹っ飛ばす爆発を背に浴びながら、男は心で笑い、絶叫をぶちかます。
「にぎゃあああああああああああ! く、く、クレイジーモンスターズチャンネル登録してクレモン! って、爆発オチはいやぁあああああああああああああ!」
『よい子のみんなへ! このはいしんは、テレビをついほうされた芸人が、人々に笑顔をあたえるためにダンジョンはいしんを、ぱんいちでくりひろげるはいしんだよ! ぱんいちは「ぱんついっちょう」といういみだよ! ぱんいちだから画面からよくはなれてみてね。ちいさいおともだちは、おとうさんやおかあさんとそうだんしてね! パンイチがにがてな子はみないようにしてね! あと、おわらいとにちじょうの区別がつかない大きなおともだちもみちゃだめだよ。チャンネルとうろく・こうひょうかもよろしくね』
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新作連載開始です! 応援して下さるとうれしいです!
配信開始3月15日は、とにかく明るいあの方のお誕生日!
おめでとうございます!
明日は連続投稿予定!
第2話『テレビ業界を追放って、ほわ~い?』は7時更新予定! お楽しみに!
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