酷道の家(統合失調症の世界)

具流 覺

第1話 酷 道(閉ざされた道)

 舞子(吉村舞子)の病名は『統合失調症』。

主治医から七日間の一時帰宅の許可がおり、暫く家で症状の経過を見る事になった

以下は屑籠に捨てられていたノートからである。


 その日、両親は迎えに来てくれなかった。

舞子はバスを降り、帰りを急いだ。

暫く歩くと道は行き止まりになっていた。


    『酷道の岬』


道はフェンスで閉ざされていた。

フェンスの鍵は壊れている。


 「この先に、私の家が在るのに。いつから行き止まりになったのかしら」


畑で農作業をしている男女が居た。


 「すいませ~ん。・・・すいませーん!」


農夫は舞子の声が聞こえたらしく近づいて来た。


 「忙しい所すいません。あの、この道、先に行けないのですか」

 「道? ああ、行き止まりだ」

 「そんな・・・いつからですか」

 「いつからって、あの『元日の震災』の時からだ」

 「震災? 私の家、この先に在るんですけど」


男は怪訝(ケゲン)な顔で、


 「この先? この先に家なんか無いぞ。・・・アンタ、名前は?」

 「吉村です」

 「 吉村さんは一年前に立ち退いた」

 「え、ウソ! 私、三カ月前に『その家』から出て来たのよ」


女が男の傍に来た。


 「誰なの? このヒト」

 「吉村さんの娘(ムスメ)さんらしい」


 「あ、私この先の家の吉村です」


女は舞子の全身を見て、


 「吉村さんには娘サンなんか居いはずよ」

 「嘘でしょう。私は吉村舞子。娘です!」


二人は顔を見合わせ、


 「舞子さん? あなた何処(ドコ)から来たの」

 「病院。退院して来ました」

 「退院? 何処の病院」

 「青木病院。私、家に帰りたいんですけれど」


舞子はフェンスに近付いた。


 「ダメよ! 危ないわ。その先、道が崩(クズ)れてるわよ」


舞子は夫婦の言葉を無視してフェンスを開けた。

心配そうに舞子を見ている二人。

男は女に、


 「青木病院て、昔の聖山(セイザン)病院じゃないか?」

 「そうよ」

 「あそこは・・・『精神病院』だろう?」

                          つづく

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