アカシックレコード考

月ノみんと@成長革命2巻発売

第1話


 僕は時々、悲しくなる。

 ふとした瞬間に孤独を感じて、いてもたってもいられなくなる。

 目の前の景色は一瞬で過ぎ去っていく。

 一秒前が過去になるのが怖いのだ。

 ものを失うのが怖い、命を失うのが怖い。

 無というものが怖い。

 でも、生まれてくる前は無だったわけで。

 だったら、その無に帰るだけで、なにも怖くはないのかななんて。

 だけど、初めから無なのと、有が無になるのとでは大きな違いがある。

 産まれなければ、初めから無のままであれば、なにも怖くなかったのにな。

 無のままだったら、恐怖を感じることもない。

 だけど僕はもう生まれてしまってこうして存在してしまってるから、消えるのが怖い。

 死ぬのが怖いのは、痛みが怖いからなのかな。

 でも安楽死とかあっても、それはそれで怖いな。

 だけどまあ、死ぬときに痛いのは一番いやだ。

 無になるのが怖い。

 自分の全部をどこかに保存できればいいのにって思う。

 そうしたら、死ぬのも少しは怖くなくなるかな。

 例えばだけど、芸術家なんかは死んでも作品が世に残る。

 大切な人がいる人も、その人の記憶の中に残る。

 僕にはなんにもないな。

 HDDとかに僕を保存できればいいのに。

 記憶とか、写真とか、映像を。

 でも冷静に考えて、写真とか動画に撮らない限り、すべての現実は二度と見れない過去になって消えてしまうって、なんかすっごく怖い。

 儚いっていうのかな。

 こうしているあいだにも、また1秒1秒過去になって消えていく。

 僕はそれがどうしようもなく怖い。

 怖いというか、もったいないというか。

 とても面白い映画を、一度しか見れないなんて、もったいないじゃない?

 せめて録画してあとで見返したりしたいと思うものだ。

 だけど、もし記憶や写真をHDDに保存していても、記憶媒体が壊れればそれも消える。

 HDDってけっこう寿命も短くて脆いんだって。

 だから、この案は現実的じゃない。

 僕は自分の好きな音楽とか、アニメとかをHDDに保存しているけど、意味のないことなのかもしれない。

 なにかを永遠に保存することはできないのかも。

 小説家とかなら、国会図書館とかで保存してくれてるから、まだもう少し長く残りそう。

 だけど、あらゆる芸術も、記憶も、思い出も、いつかは消える。

 極論をいうと、地球が壊れたら全部消えるし、宇宙が壊れたら消えるし。

 数億年後に人類が滅亡してたら、意味がないよね。

 まあ、人類が仮に頑丈な記憶媒体を発明したとして、人類滅亡後にエイリアンがそれを見つけてくれたりして。

 でも、エイリアンには価値がわからないかも。

 そのエイリアンでさえ、宇宙が滅亡したら消えるわけで。

 なんかそう考えると、地球ってそれ自体が一種の記憶媒体のようなものの気がするな。

 もしかして宇宙は誰かの脳みそで、それ自体が記憶なんじゃないのかな。

「なるたる」っていう漫画が、そんな話だった気がする。

 地球の記憶が、龍という存在に記憶されていくっていうお話。

 僕もそういうのが書きたいなぁ。

 いちおう、おススメしとく。

 どこかに宇宙の森羅万象すべてを記憶できればいいのにな。

 そういえば、アカシックレコードってのをきいたことある。

 アカシックレコード(英: akashic records)は、「元始からのすべての事象、想念、感情が記録されているという世界記憶の概念」らしい。

 もしほんとうにそんなものがあったらいいな。

 じゃあ、誰がアカシックレコードを管理しているのかな。

 でも、肖像権とか著作権とかあるから、すべては保存できないかも。

 勝手に人の写真保存したらダメだよね。

 著作権に配慮した結果歯抜けばっかのアカシックレコードとかだったら、ちょっと面白いかもしれない。

 僕がこうして文章を書くのも、消えるのが怖いからかもしれない。

 こうして文章に自分の記憶や考えを残すことで、少しでもこの世の中に記憶として残りたいのだ。

 文章を読んだ誰かの記憶にある限り、僕は死んでも死なないのだと思う。

 だから僕にとって執筆は、自分の複製品を作ることと同じ。

 作品は子供のようなものとはよくいったものだ。

 北村薫さんの言葉に、「小説が書かれ読まれるのは、人生がただ一度であることへの抗議からだと思います」というのがあるらしい。

 僕はまさにその通りだと思う。

 人生は一度きりしかないし、それらはすぐに過ぎ去って泡のように消えてしまう。

 僕はそれがどうしようもなく悲しいし虚しいし怖いし悔しい。

 だから、それに精いっぱい抗議しようと思う。

 みなさん、たくさん書を読み、書きませう。

 

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