良い子は許してくれる
悪本不真面目(アクモトフマジメ)
第1話
「もう帰っちゃうの?」
「ああ、今日は忙しいんだ。」
「ゴホゴホ、ねぇ今日は一緒にいて、離さないで握ってよ。」
「・・・・・・。」
「私、風邪で寝込んでいるのよ。今日だけ、今日だけ、一緒にいてよ。私寂しくて不安でどうにかなりそうなの。」
「・・・・・・。」
赤い服を着た男はご自慢の髭を触って黙ってるだけだった。彼は困るとすぐ、ご自慢の髭を触る癖がある。
「じゃあ、代わりにそのお髭を全部剃って置いて行ってよ。せめてもの代わりに。」
「無茶言うなよ。」
「じゃあ、私も一緒に連れてってよ。それとも私があなたの相棒たちの代わりを務めるわ。」
「君には無理だよ。」
「無理なもんですか!私にだって出来るわ。あんな女たちなんかより、大体あんなに大勢女性を引連れて、浮気よ!」
「う、浮気って別に僕たち付き合っている訳じゃ・・・・・・。」
彼女は雪降る寒い中倒れていた。それを赤い服を着た男が見つけ家へ連れ看病をした。そこから彼女は男に恋をして、半ば彼女気取りといった関係になった。彼女といってもデレデレとして、我がまま放題で男を困らせることばかりであった。しかし男も彼女は今まで誰もいなかったので、そんなに悪い気はしてはいなかった。だが、職業柄彼は彼女を作ることに抵抗感がある。
「キーィィィィ!まだそんなことを言うか!!えーいもうやめた!」
布団がふっとんだ。彼女は布団をその長い足でけり上げた。風邪といっていた彼女だが、その姿は元気そのものである。つまりは仮病だったのだ。
「き、君は風邪だったんじゃ・・・・・・。」
「そんなの嘘よ。あなたを独り占めする嘘よ。でももう今日はどんなことをしてもあなたを離さないわ。」
彼女は男の大きなおなかを蹴り押し倒す。馬乗りの状態で男の顔をそのつぶらな綺麗な瞳で見つめる。男は彼女を押し返す力は持っているが、優しさ故それができなかった。ぺろぺろ。そして彼女は男の顔を舌で舐め始める。おでこ、まぶた、お鼻、頬、そして髭を入念にぺろぺろと舐めていく。
「フフフ、お髭を私の唾液でふにゃふにゃにしてあげる。そんなお髭じゃ仕事はいけないわよ。」
「やめてくれ!か、帰りにせんべい買ってくるから!」
「・・・・・・ぺろぺろ。」
「おい、聞いているのか、シカトしないで!舐めるのを止めてくれ!」
彼女は男の嫌がる姿を見ながらペロペロと髭を舐め続ける。それは恐ろしく妖しく、意地悪な表情。そして、髭から下へと流れ、今度は顎や首を舐めていく。
「フッ!そ、そこは止めてくれ!」
彼女は男が顎や首に弱いことを知っている。シューッペロ。首から顎へかけて長いストロークを一筆で舐める。そして今度は逆に顎から首へ下りていく。首の膨らんだところの周辺をなぞるように舌を動かし舐める。そこは喉ぼとけ。
「オッフッ!」
「フフフ、素敵な声ね。」
「ハァーハァー。」
男は彼女の唾液と流れ続ける汗で疲れている。ご自慢のお髭もかなり柔らかくなっていて、いつもより幼く見える。
「た、頼む!行かせてくれ!みんなが待ってるんだ!」
「大丈夫よ今年くらい。いい子なんでしょ?」
「っく!き、君は悪い子だ。」
「そう、悪い子よ!だからプレゼントはいらないわ。代わりに私があげる。」
男は彼女が本気で行かせないことを悟る。このまま彼女に取り込まれそうと感じた男はさっき彼女のいった条件を飲むことにした。
「わ、分かった。き、君も仕事に一緒に連れていくから!」
そう言うと彼女は舐めるのをやめて、目線を上にもっていって考える。しばらく考え、彼女はその条件を受け入れた。
「何してるの早く準備しないと間に合わなくなるわよ。」
誰のせいだと思っているんだと男は思ったが、そんなことを言っている時間はない。急いでシャワーで洗い、彼女はそれを不服そうだったが、仕事へと向かった。
彼女ははじめ自分も手伝うといったが二軒目辺りで「疲れた」といってソリに乗った。相棒たちもその方が都合が良さそうだった。彼女はソリに積まれている袋の中に鼻をつっこんで、何かゴソゴソとしている。
「あれ?私のプレゼントはどこかな?」
「君は悪い子だからないよ。」
「冗談きついわ。」
「全く、君は仕事を手伝ってくれるんじゃなかったのかい?」
「だって仕方ないじゃない。」
「まぁ。確かに仕方ないか。」
今日、男と彼女が初めて会った日と同じように雪が降っている。メリークリスマス。
良い子は許してくれる 悪本不真面目(アクモトフマジメ) @saikindou0615
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