触れない、花を壊したい
【腐】豆腐大生
第1話 初めまして、転校生
僕の朝は、静かである。
ある時から、睡眠というものは極端に短くなった。その分質がいいわけでもなく、一定の時間に目が覚める。そのため目覚まし時計機能はしばらく使われていない。時間に余裕がたっぷりあるので、ゆったりと準備をする。ただリビングには出ていかず、自室で過ごす。僕の母は過保護で、無駄に朝早く起こしてしまったら気を使ってしまうに違いない。
僕の自宅から学校までは徒歩10分もかからない。ただ朝の空気がお気に入りで、いつもの回り道をして登校する。そのため友人とは一緒に帰ることはあっても、登校する時はいつも一人だ。
そうしてある程度の喧騒の中をかき分けて、僕のクラスへたどり着く。
「はよ神楽!」
声をかけてきたのは、
「おはよ、裕二。弘道は?」
「弘道担任に呼ばれてたから」
「学級委員大変だなあ」
『え、だれ、?』
『かっこいいんだけど』
『今日から登校する人?』
クラス内がどよめいて、本人に注目が集まる。確かに顔が整っていて、切れ長の目が少し高圧的だがこれは噂になるだろうな。...と遠目に観察していたら、その男子と目が合った。
「少し時期がずれてしまいましたが、彼もこのクラスの一員です。少し挨拶しましょう」
目黒先生が挨拶を促すと、小さく返事をしてその男子が前に出てきた。
こちらを、じっと見つめながら。
「初めまして、
一切視線を逸らさずそう言われて、圧倒されながら周りに合わせ拍手をする。何だろう、何かしたかな。もし知り合いならすごく申し訳ないけど、後で話に行こうかな。どこに座るのかな、と考えていたら不自然に空いている隣の席が目に入った。
「じゃあ
「あ、はい」
自分の名前が呼ばれて、そんな二次創作的な流れがあるのか、と驚きながら返事をした。すると、また彼がこちらを見ている。そのままのそのそと近づいてくる。いや本当に、何をしたんだろうか。その疑問符が顔に出ていたようで、裕二も弘道も首をかしげてこちらを見ている。
「よ、よろしくね...?」
「よろしくお願いします。」
「あの僕何かしたかな...?同じ中学だったらごめんね、何も覚えがなくて」
「...今日が初対面です。」
「あ、そっか...?」
何もわからないまま会話が終わってしまった。初対面での会話でこんなに気まずい空気が漂ったのは初めてかもしれない。ただ見られていたことが嫌なわけではなくて、逆に眼福といったところだと思ってしまった。するとそんな考えはよそ目に、彼は僕に話しかけてきた。
「連絡先」
「え?」
「連絡先交換しませんか。」
何の冗談かとも考えたが、考えるほどドツボにはまっていくだけで―
「う、うん...」
その時の少しはにかんだ笑顔が脳裏に焼き付けられただけであった。
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