第18話 結衣の下着入り……。
[奏視点]
「ふん♪ ふふん♪ ふん♪ ふーん♪」
現在、結衣は鼻歌交じりの上機嫌でクローゼットにある服を厳選中である。
「どれを着て行こうかな〜♪ あ、コレかなぁ〜♪ どう?奏君」
そう言って手に取った服を身に当てて見せてくる。淡い黄色のワンピース。春の季節を思わせる爽やかで明るい印象だ。
「うん。可愛いと思う。ていうか、結衣が着れば何だって可愛いんじゃないかな?」
「もう! 奏君ったら〜」
そう言いながら結衣は体をクネらせ、何だか嬉しそうにしている。
これまで散々『可愛い』と言われてきただろうに、今更僕なんかにそう言われて何故そこまで嬉しそうなのかは謎だけど、でもその一つ一つのリアクションが女に疎い僕には新鮮で、こちらまで嬉しい気分にさせられる。
だがここでハッと我に帰る。
そうだった。結衣は元アイドルだった、と。
あまりに近い存在(?)になり過ぎていつの間にか頭の片隅に追いやられていたけれど、彼女は不特定多数――もとい、日本国民(特に男)を魅了してきた言わばプロフェッショナルだった。
故にその頃に身に付けたスキルが思わずとも発動してしまうのだ。そして、その〝スキル〟を別で言い換えるピッタリの言葉――〝神対応〟。
この洗練された〝神対応〟もまた、彼女をトップアイドルへと押し上げた一つの要因なのだろう。
恐るべし……。
「じゃあ私、着替えてくるから」
結衣はそう言うと隣りの部屋へ行った――と、見せかけ、再び扉が開くと顔だけ覗かせ、
「覗いちゃダメだよ?」
と、一言。
「覗かないよ!!」
「ベッドの下とか物色して、下着泥棒とかもダメだからね?」
「しないってば!!」
「よろしい」
そんなやり取りを最後に、ぱたん、と、扉は閉まり、今度こそ結衣は着替えに行った。
――さて。
結衣が居なくなり、一人。
ふと、壁際のベッドの下の収納カラーボックスに視線が行く。
いや、決して、結衣の下着を物色しようとか、そんな事を思ったんじゃないよ?
でもほら。ダメと言われると逆に気になってしまうというか……。
だって、そこ(収納カラーボックス)に入ってるでしょ?結衣の下着が。
じー、と。
悶々としながら例の収納カラーボックスを凝視していると、
「お待たせ!」
「――ぬぉあッ?!」
着替えを終えた結衣が戻ってきた。
下着入り(仮)カラーボックスに集中して
恐る恐る顔を上げると、そこには着替えを済ませた結衣の姿が。
髪型は簡素なポニーテールから手の込んだハーフアップに変わっている。でも、眼鏡はそのまま。
なるほど。出掛けるにあたり、アイドル佐々木結衣の印象から遠ざけているのだろう。
――私服、ハーフアップ、眼鏡。
この姿もまた、僕が知り得る結衣の印象とは一風違っていて新鮮だ。
「このワンピース、この間買ったばかりなんだー!今日初めて着るの。どうかな?」
結衣が居ない間、下着入り(仮)カラーボックスを凝視していた事がバレたかと一瞬焦ったが、その様子は無く、くるりと一周回りながら例のワンピースの感想を求めてきた。
とりあえず、ほっと胸を撫で下ろす。
「……う、うん。す、凄く、似合ってる」
「あれ?どうかした?なんか口調が辿々しいね?」
「…………(ギクリ)」
ほっとしたのも束の間、僕の動揺は口ぶりに反映されていたらしく、それを不審に思った結衣が、ジト目で僕を見つめる。
すると、その視線はスッとベッド下へと逸れ、
「もしかして……見た?――もしくは、取った?」
僕は即座にブルンブルンと首を振り、
「み、見てない!!取ってもいない!!」
と、必死に身の潔白を主張した。すると結衣は、
「…………ッチ。(取れよ、意気地無し)」
何故か悔しそうに舌打ちをした。
あと聞き取れなかったが何か小言も吐き捨てたような気がしたけど……。気のせいか。
とりあえず、僕はそんな彼女へ一つ問いたい。
――君は一体、僕に何を望んでいるのですか?と。
――ハッ、まさか、美人局ッ!?
とも思ったが、もしそうなら、僕みたいな高校生をターゲットにはしないだろう。
だが、改めて思い返してみると、やはりここまでの一連の流れはあまりに現実味が無く、不可解で、『ペア将棋』の口実だけではそれらの疑問を消化しきれていない。
故に何かペア将棋以外に、良からぬ裏があるのでは?と、勘繰ってしまいそうになる。
――いや。この際勘繰った方がいいかもしれない。
こんな、何者にも満たない僕に対してハニートラップとも考えづらいけれども、警戒心だけは持っておこうと思う。
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