編み編み

那須茄子

編み編み

「あなたの声がもっと聞きたい」と、私は言う。


 彼女は微笑み、指でなぞり「あなたの顔がもっと見たい」と応えた。


 私たちは、くすりと笑う。

 どうやら、私たちは同じことを思い合っているみたいだ。

 

 言葉を交わさずとも、心が通じた。

 

 私には、掠れて聞こえる世界を。

 彼女には、ぼやけて見える世界を。


 私たちはお互いに共有している。


 ほんの少しの奇跡。

 


 だから、彼女が含ませた指のなぞり違いを見逃せなかった。


 きっと、彼女はこう言いたかったはず。

 「けれど、それは夢物語だ」、と。


 

 私たち二人は一つの世界を組み立てて、頑張って思い浮かべるしかないのだ。

 足りない部分は、結局足りないまま。


 それは時として、私たちを我儘にさせる。そして、強く望ませる。

 熱が冷めた後の悲しみをともなって。




 それでも、私たちは決して夢を語ることを止めてはいけない。

 私たち二人の楽しみを綴ることすら止めてしまっては、それこそ本当に夢物語として終わってしまう。




 私は彼女の小さい身体を、抱き寄せる。

 そして、そっと。


「大丈夫。私は私。あなたはあなた。それが何よりの特別だよ」と、唱える。


 彼女の手が、私の手を握る。

 私の世界が、彼女の色で満たされる。


 

 ────あぁ、これだけで十分だよ。



 私たちは今、幸せの形に触れている....。

 

 



 

 

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