闇之一夜

君の棺は誰なんだ。言いたかないので死んだよ。ぼくは生まれる前から生きている。人間じゃない。最初から、今も、これからも、ずっと最後まで、ぼくは人間じゃない。


ここは地球といって、宇宙というところにあるらしいが、ぼくは宇宙に住んでいない。ぼくのいるところが宇宙なら、そっちは宇宙じゃない。


いろいろ言ったが、君らを悪く言ったわけではない。君らの常識、君らの考え、全てを尊重するから、こっちも好きにさせてくれ。


ぼくは君らと違う宇宙に住んでいる。だから同じことはできない。ぼくのようなのを、君らの宇宙では変態という。変態でかまわないから、ほっといてくれ。君らを否定するつもりはない。


君らの人生には上下がある、失敗と成功がある、正義と悪がある。ぼくには何もない、そっちでよろしくやってくれ。


君らには幸せと不幸がある、勝者と敗者がある、でもぼくには何もない。なくていいから、これ以上騒がないでくれ。ぼくには何もない。


君の棺は誰なんだ。君らからすれば、ただ生きてるだけのぼくなど、棺だろう。だけど、何もない者が、一人でいると耐えられないのも、痛いほど分かる。


だから、君らには関わらない。極力、関わらない。だって、ぼくの存在自体が、人を傷つけるからさ。こういう者が、この世にいるということは、ぼく一人だけの内緒だ。


ここでうっかり言ってしまったのは、今、この詩を誰も読んでいないから。


誰にも死んでも言わない。世界にいるとき、ぼくはただ押し黙り、いないフリをする。別の宇宙からやってきた異星人は、人の皮をかぶって、なんとか人権をもらい、社会に仮住まいしている。ぼくには何もない。


誰かが言いがかりをつけられてつるし上げられるとき、ぼくはその瞳に、ぼくの死を見る。ぼくと同じになってしまった、その哀れな人の屍骸を、こっそりぼくの宇宙へ持ち帰り、どこかきれいな星の下に埋めてあげたい、と言ったら、怒られるだろうか。

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闇之一夜 @yaminokaz

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