鬼~日本のプログレッシブロック風雲録~
榊琉那@屋根の上の猫部
メイドインジャパンレコード編 パート1
第1話 ページェント
一寸したきっかけで、一時期本当によく聴いていたアーチストの曲を立て続けに聴いています。ちょうどいい機会だから、好きになった経緯を見てみようかなと思います。単なる昔語りかもしれませんが。
もう結構昔の事になるけれど、普段行かないレコード店を覗いてみたんです。そこには、あまり売れ筋ではないようなCD類が置いてあったのですが、その中に自分の琴線に触れそうなものがあったのです。
『プログレッシブロック名盤』と帯に記載されているけれど、これは日本のグループみたいです。日本にもプログレッシブロックがあったのか?同じシリーズで何種類もあったけれど、買うのは1枚が精一杯。さあどうしようかと散々迷った挙句に選んだのが『マグダレーナ』というグループ。それが自分の日本のプログレの付き合いの始まりになります。
https://www.youtube.com/watch?v=yaVGut3TCjs
バロック的な要素が強いという事で選んでみたけれど、聴いてみたら成程、クラシカルな香りが漂う良作でした。何より女性ボーカルが素晴らしかったので、すっかり虜に。そしてゲストで参加していたボーカルの一人が、今回の主人公の一人、永井博子さんです。ちょっとした参加なのですが、自分の記憶がそのまま離さないで覚えていたので、それが後の出会いに繋がります。
少し時が流れ、日本のプログレにすっかり興味を持った自分は、色々なアルバムを購入したりしていましたね。ハードロックに近いものからインストものまで、プログレといってもアーチストによって様々なスタイルがある事に感心していたなぁ。
プログレ専門店と言えるような有名なショップにも顔出す事もあったりで、マニア道一直線だった自分。人には話さないでいましたけど。
そんな中で入手したアルバムが、『ページェント』の『夢の報酬』。ボーカルの名前を見ると永井博子との記入が。ああ、あの永井さんか。そんなわけで買ってみました。
https://www.youtube.com/watch?v=ZFQo1Oc4lhI
ジャケが好みとは合わないけど、曲自体は悪くないなと。そして改めて聴くと表現力が素晴らしい。すっかりファンになりました。それまでにも実力派の女性ボーカリストは多々聴いており、いや、実力派の女性ボーカル、一体どれくらいいるのよと思ってみたり。
しかし、本当の魅力があるのは初期の作品だという事に気づくのは、もう少し後になります。ベスト盤的なアルバムを偶然入手して聴いてからです。
1曲目に入っていた曲、『螺鈿幻想』。
https://www.youtube.com/watch?v=mwtvoeEqMl0
これはヤバいものを聴いたと思いました。日本のを感じさせる湿った感じの音をしたプログレ。もっと言うなら、初期ジェネシスに日本を感じさせるものをブレンドしたもの。自分的には、80年代以降の日本のプログレの出発点であると同時に到達点といえる、『新月』というグループの『鬼』という曲と同等のインパクトがありました。
https://www.youtube.com/watch?v=RU9hnzd-QWY
ページェントは、ギターの中嶋一晃さんがジェネシスのコピーバンドとして結成。元々キーボードとして採用した永井博子さんが、実はボーカルも上手かった事を入って2年経ってから知り(ヲイ)、ボーカルとしても活躍することになったそうです。
そこからページェントの快進撃が始まります。
1985年は、日本のプログレ史上で最も盛り上がっていた時期の一つとされます。
関東と関西のプログレグループが共演したイベントで、後に日本のプログレの有名なプロデューサーとなるヌメロ・ウエノ氏が、初めてページェントを見る事になったわけです。それを見たウエノ氏は、初めて自分のプロデュースしているグループ以外でアルバムを出したいと思ったそうです。この縁を離さないでいたいと思ったのでしょう、グループに破格の条件を出します。なんと、120万出すからアルバムを作らないかと。更に自分は口を出さないから、好きに作ってほしいと。それだけのクオリティーのものを作ってほしかったし、アーチストを信頼しての投資だったという。そして完成したアルバムが「螺鈿幻想」です。
中嶋一晃 ギター
永井博子 ボーカル、キーボード
宮武和広(ミスターシリウス) フルート、アコースティックギター
長嶋伸行 ベース
引頭英明 ドラム (EX シェラザード) 敬称略
中嶋、永井、シリウスの最強の布陣ですね。
ウエノ氏が資金提供した話ですが、最初にCD化された時のライナーノーツに中嶋さんが詳しく書いています。
当時は勤労ミュージシャンだったので、出来る時に出来るだけ作ればいいと。更にギャラもしっかり払うし、使うスタジオや機材、技術者、プロデュースまで任せると。アマチュアバンド相手にこれだけの条件はありえないでしょう。今思えばやり残したこともあるとは言っていましたが、当時は出来る事はほぼやって満足な出来だったと語っています。
タイトル曲に続いては、『ヴェクサシオン』。
アコースティックギターから始まり、永井さんの美しく奏でられるヴォイスに癒されます。そして絶妙に絡み合う宮武さんのフルート。至福の時間。
なお、アルバムに収録されたバージョンは、やや納得のいかない所があったようで、後にもう一度録音しています。こちらの方が完成度が高いかなと。
https://www.youtube.com/watch?v=-a9M4WHlHCk
『木霊』、『人形地獄』、『夜笑う』といった曲が続く中、このアルバムで異彩を放っているのが『セルロイドの空』。このアルバムで唯一、ギターの中嶋さんが歌っている曲。中嶋さんが、『フロマージュ』というバンドにいた時代から歌い続けている曲。
子供の頃に夢中になって遊んでいるうちに道に迷い、途方に暮れている時に見えてくる母親の姿。この曲を入れるのは賛否両論だったようだが、プログレの枠に囚われたくないという思いで入れたそう。好き嫌いは分かれると思うけど、自分は好きですね。
https://www.youtube.com/watch?v=upz7Qf_He-0
そしてアルバムを締めくくるのは『エピローグ』。シリウスのフルートが響く中、永井さんが切々と歌い、そして中嶋さんの哀愁の泣きのギターが涙を誘います。
https://www.youtube.com/watch?v=u9_f0aM7a3o
インディーズの発売ながら、かなりのセールスを叩きだし、今なお、プログレファンに愛されている名作アルバムです。そしてページェントの神髄はライブにあったといいます。その幻想をぶち壊すといわんばかりの、コテコテの大阪弁のトークに、コスプレの概念が無かった時代なのに、永井さんは時に化け猫の衣装とか着て歌っていたのだそう。今となっては想像するしかないけれど、タイムリープ出来るなら、その時代に行ってライブを体験したいものです。
しかしながら音楽性の相違から、リーダーの中嶋さんがグループを去る事に。これだけのアルバムが作れたのだから、もっと作品を作ってほしかった。分裂は成さないでほしかった。多くのファンの願いであろう。シリウスこと宮武さんも結局、グループを去る事になりますが、彼は彼で自分しか出来ない音楽をやりたいと思っていたようで、それはそれで仕方のない事かもしれません。
この時期の音源としては、ミニアルバム的なものと12インチシングルがありますが、
『螺鈿幻想』未収録の曲もありますので、興味あれば聴いてもらいたいですが、この辺りはCD化されているものの、残念ながら廃盤状態ですね。
なお、『螺鈿幻想』と『夢の報酬』のアルバムは、2018年に高音質CDで再発されています。探せば在庫が残っている所もあるそうなので、聴いてみるのは如何でしょう。サブスクでも聴ける所はありますが、やはりいい音で聴きたいものです。
そしてシリウスと永井さんは、再び一緒に行動する事になるのですが、それは次回に書かせてもらいます。
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