【KAC20245】年度末の生徒会で起きたのは

ぬまちゃん

先輩、大事なお話が

「先輩、大事なお話があるのですけど……」

「──どうしたの?」


 思い悩んで夜も眠れなかったのだろう。目の下の小さなクマが目立つ女子高生は、副会長の席に座っている先輩らしい女子におずおずと声をかける。

 ショートカットの髪の毛の先がぴょんと跳ねている黒メガネの女子は、見ていた書類から目を離すと目の前の彼女にほほえみを返す。


「実は、年度末の会計監査をしていたのです、けど。金額が合わないので過去にさかのぼって確認していたら不正操作が行われていた形跡が」


 会計のネームプレートを膨らみかけた胸につけている彼女は、副会長の机の上に証拠の資料を置いて説明をはじめる。


 * * *


「で、どんな要件なんだい。年度末行事で忙しい、生徒会長である、このオレを呼びつけることって?」


 生徒会室の奥、廊下に話し声がもれない会議室には、ぶぜんとした態度の生徒会長と彼の陰に隠れるように書記長のネームプレートを付けた髪の長い女性が立っている。


「会長と書記長は、確か去年は副会長と会計として、生徒会の会計処理と監査を行っていましたよね?」


 会計担当の彼女は、副会長に見せたのと同じ生徒会予算の不正使用を証明する書類を、壁際に立っている会長と書記長によく見えるように突き出す。彼女のその腕は心なしか震えている。


「ちっ。不正を見逃してくれれば、お前たちにも代価をやるぞ。どうだ、仲間にならないか?」


 会長は、イケメンらしく美しく口角を上げて会計担当の女の子に自然に近づくと、彼女の髪の毛にそっとふれて耳元でささやく。


「わかりました。仲間になりましょう」


 * * *


 イケメン会長に口説かれ頬を赤く染め全身を硬直させていたウブな彼女は、二人の間に突然割り込んできた副会長のメガネ女子に驚いた。

 副会長はいつものように会計の女の子にほほえむ。


「不正といっても少額だし。わたしも副会長として協力しますから、この件はここだけの話として以後口外しないように、ね」


 味方だと思っていた副会長の心変わりに驚いた会計の女の子は、ただうなずくしかなかった。


 ──昔から好きだったあの人。この秘密を話さないでおけば、彼はわたしのもの。離さないでね、わたし。


(了)

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