異世界のテンプレ、冒険者ギルド

 冒険者スタイルになったぼく……いや、俺は、城下町の中心にある大きな建物、冒険者ギルドにやってきた。

 冒険者ギルド……まさに異世界のテンプレ。

 追放系でもよく冒険者ギルドに登録するが、まさか俺が自分でそれを実践することになるとは思わなかった。

 ギルド内に入ると、中はかなり広かった。


「すごいな……」


 横一列に並ぶ受付カウンター、大きくいくつも並んでいる依頼掲示板、二階に上がる階段があり、二階は酒場になっているのか酒盛りする冒険者たちが多い。

 まだお昼前なのに……すごいな、冒険者。


「っと。まずは登録か」


 とりあえず、適当なカウンターへ。

 異世界では美人で可愛い受付嬢が定番だ。現にほとんどのカウンターが美女、美少女受付に見える。

 なんとなくそれぞれを見て、俺は一番端にある受付へ。


「……いやー、まさかワシのところに来るとは思わんかった」


 開口一番、そのセリフだ。

 それもそうだ。俺が選んだのは、初老で眼鏡を掛けたオールバックのおじさん受付だ。

 俺は言う。


「まあ、若い男だったら、ここにいる可愛くて綺麗な受付嬢のところに行くでしょうね。決して軽視するわけじゃないですけど、俺は冒険者になるためにここに来たので、経験豊富そうで説明が上手そうなあなたのところで説明を受け、登録しようと思いました」

「───は。はっはっは!! いやあ、若いくせに面白いな」


 受付の態度ではないが、おじさん受付は笑った。

 さらに驚いた。なんと受付おじさん、煙草を取り出して火を着けたのである。


「まあいい。お前、冒険者になりたいのか? だったら経験豊富そうで説明上手なオッサンが教えてやるよ」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 この受付おじさん、かなり大物な予感……異世界転生系でありがちな感じがする。


 ◇◇◇◇◇◇


 冒険者。

 要は《何でも屋さん》だ。魔獣の討伐、住人の依頼、ダンジョンの調査などをしてお金を稼ぐ職業。

 冒険者には等級があり、F級から始まり、E~Aと昇格をして、最上の等級であるS級がある。

 等級によって受けられる依頼は決まっている。等級が上がれば上がるほど稼げて、危険な依頼が多い。


「まあ、こんな感じだ。質問あるか?」

「いえ、テンプレ通りです」

「は?」

「あ、いえ。なんでもないです……」


 おじさんは煙草の灰を灰皿へ落とす。


「お前、魔法は使えるか?」

「……使えないです」

「なるほど。その双剣が武器か」


 魔法……か。

 竜滅士は、ドラゴンを使役するために一般的な魔法は使えない。

 魔力がエサ。ドラゴンの大事な食糧であるからな。

 だが……竜滅士にだけ使える『竜魔法』というのが存在する。ドラゴンの力を借りた、このライラット世界にある七つの属性『地水炎風雷氷』とは一線を画す属性だ。

 竜滅士だけが使える七つ目の属性『竜』こそ、この世界最強……竜滅士が最強である証。

 俺は、ムサシを召喚しても竜魔法が使えるようになったわけじゃない。


「ふーむ。ソロじゃ少し厳しいかもな……仲間ぁ作るのはどうだ? 先日、いくつか新人が登録をしてチーム結成したが、紹介できるぞ?」

「いえ。しばらくはソロでやろうと思います」


 仲間がいると、自由に旅をできないからな。

 それに、相棒はもういる……今は紋章の中でお昼寝中だけどね。


「わかった。じゃあ、こっちの紙に名前、年齢とジョブを記入してくれ」

「ジョブ?」

「職業だよ。剣士、魔法師、弓士とか……お前は双剣士か。そう書けばいい」

「わかりました」


 名前はレクス、歳は十六歳、ジョブは双剣士……と。

 書いた紙を渡すと、おじさんはそれをプリンターのような機械……じゃなくて、魔力で動く『魔道具』だな。それに入れる。

 そして、魔道具からカードが出てきた。


「ほれ。冒険者カードだ。こいつについて説明するか?」

「お願いします」

「おう。こいつは見たまんま、冒険者の証だ。面白いのは、身分証であると同時に入金、支払い機能も付いている。支払い専用魔道具があるところなら、このカードに入金した金額内であれば自動決済される仕組みだ。こいつは本人しか使えないし、強盗にあっても『金はカードにしかない』って言えば見逃されることもあるぜ」

「なるほど。電子マネーみたいなもんか……」

「でんし、マネー?」

「ああこっちの話です」


 異世界で電子決済できるのはありがたいな。

 ちなみに入金は冒険者ギルドでしかできない。ギルドの隅に箱型の魔道具があり、そこにカードを入れて現金を投入すればいいそうだ。さすがにスマホでチャージってわけにはいかないな。

 

「支払い用の魔道具は世界各地に置いてある。今じゃ、新しく店を開く場合は設置義務があるくらいだぜ」

「へえ、便利ですね」

「ああ。だが、持ち金全部入れるようなことはしない方がいい。現金のみの店もまだまだ多いからな」

「わかりました」


 せっかくだ。白金貨一枚くらい入れておこうかな。

 異世界でカード決済……けっこうおもしろいな。


「説明はこんなところだ。次は依頼の受け方だが……」


 依頼掲示板にある依頼書を選び、カウンターに持ち込む。

 そこで依頼の確認をして依頼開始。

 

「詳しいことは依頼書に書いてあるから、ちゃんと読むようにな。初心者はまず、町のドブ攫い、ゴミ拾いや公園の掃除、薬草採取がメインになるな」

「なるほど……」

「それと、必要なモンは二階のショップで買える。ソロでやるなら回復薬や保存食を買っておけ」

「わかりました。ありがとうございました」

「おう。いやあ……お前、ほんと礼儀正しいな。まるで貴族の坊ちゃんだぜ」


 ぎくりとした……元貴族ってバレたくない。

 というか、実家近くの冒険者ギルドで登録して、しばらくここで冒険者やるのはどうなのかな。

 ここでは登録だけして、違う場所で依頼を受けるか。


「あの、ここから一番近い冒険者ギルドってどこですか?」

「あん? リューグベルン帝国圏内だと……」

「あ、できれば圏外で」

「おいおい。国外でいきなり冒険者やるのか? 少し経験積んでからのがいいぞ?」

「あー……じゃあ、圏内で。できれば帝国から遠いところがいいです」

「ったく。それなら東にあるルロワの街だな。風車の国クシャスラの国境付近だ」

「クシャスラ……」


 風車の国クシャスラか。

 そしてその前にあるのは、国境の街ルロワ。

 よし、まずはルロワを目指していくことにしよう。


「おじさん、ギルドの登録ありがとうございました」

「おう。冒険者ギルド受付歴三十年、ベテランのモンドとはオレのことよ。覚えておきな」


 ああ、てっきりギルドマスターが趣味で受付やってるのかと思ったが……経験豊富なベテラン受付ってだけだった。まあ、ギルドマスターとか出てきて「面白いヤツだ」とか思われなくてよかったかも。

 俺は頭を下げ、そのままギルドを後にした。


「よし。目的地はルロワの街。今日は食料を買って、宿で休むかな」


 旅立ちは明日。ようやく、冒険に出られそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る