あなたに会いに

「そうだ、あなたに会いにいこう」


そう思ったのは薄い曇り空からすっきりとした秋空が覗いた午後の事だった。


車を走らせて、少し遅めのお昼を田舎の道の駅で食べる。


オルゴールにアレンジされた昔の映画のBGM を聴くでもなく、定食の味噌汁と一緒に飲み込む。


今さらになって、あなたとどんな顔で会えばいいのか分からなくなってきた…



そこに着いた頃にはもう、日が傾きかけて周りの草木の影も薄くなっていた。


色彩を欠いた空に少し朱が混じって、その広い野原みたいな景色を澄んだ風が音もなく通り抜けていく。


私はまるで作曲家か詩人のように手を後ろに組んでメトロノームのような足取りで歩を進めた。


1.2.3...


丘の向こうから遠い記憶の中で聞いたクラシックが少し肌寒くなった空気に溶けて、


私はあなたの前に立つ。


「久しぶりだね」


聴いて欲しい事が一杯あった気がする。

報告したいことや、悩んでること、昔の思い出話…


でも、ここに来ると今でも言葉が胸に詰まって心臓から全身に溶けて行ってしまう。

そうして染み込んで行くから、言葉が出て来なくなって、


だから、


私はそっと手を合わせるんだ。

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