第2話

徹夜明けで頭がボーとしている中後ろの方から声が聞こえてきた。声と同時にビックっとした大樹は後ろを振り返った。相棒である達也だった「大樹、例の件どうなった?」例の件というは窃盗事件のことだ。

「いや、まだなにも。」

「そうか、進展なしか。どこかに転がってないかな、路地裏とかにさ」達也は呆れた声で言った。

「あんなでかい物そこらへんに捨ててあるなんて考えられないな。」


「そもそも誰が盗んだか分からないのに、先に物を探すより犯人を捜した方が手っ取り早いのにな。なあ、そう思うだろ?」


「まあそうだろうけど。そう簡単にはいかないもんだよ、世界遺産に登録されるんじゃねえのかっていうぐらいの品物だぜ。それは先に物を探すよ。」


「けどよ、らちが明かねよ。」

ちょうど1か月前歴史博物館で最古の鏡と言われている大きな鏡が盗まれた。体長3メートル横幅は70センチのカガミ。その物を探すため我々は動き出している。

「そもそもこの最古ってのが怪しいよな。こんなでかいのが最古とは考えにくいな。」

達也は頭を傾げながら言った。

「でもデザインは今風ではない、レトロな感じはあるけどな。」僕も全く否定しようとは思わなかったが完全否定をしたいとも思わなかった。

「そうそこなんだよ。レトロって俺らからしたら昭和とかそこら辺の物を言うだろ?鏡なんて卑弥呼の時代からあったていうじゃないか。確か卑弥呼って弥生時代の人だろ。」達也の意見はごもっともだと思った。

「でもこれは現存する最古の鏡って書いてあるぜ。ほら」僕はスマホで鏡の名前である

横槌歪神鏡(よこづちゆがみきょう)と打ち達也に見せた。

「こんなもんなんとでも言えるよ。弥生時代から昭和時代まで現存する鏡が無かったなんてありえねよ、弥生から昭和まで約2000年間あったんだぜ、その間一つも残ってないなんて考えにくいな!」達也は声を荒げて言った。

「それよりこの名前変だと思わないか、よこづちゆがみきょう?なんだよこの名前は適当にもほどがある!」達也にそう言われて僕はスマホに書いてある名前を見つめていた。

「んー、確かに変な名前だけど何か由来がありそうだよ。ほらこの記事みてよ。」


― 体長3m 現存する最古の鏡?発見者「今尾元太」に話を聞く― 2018年5月22日

記者は最古の鏡を発見したという今尾元太さんの自宅を訪問した。

記者A:この最古の鏡はどこで発見されたのですか?


今尾さん:たまたま家の断捨離をしていたら押入れの奥の方に祖父の写真

がありまして。その写真の裏に妙なものが書いてあったんです。

それがこの鏡の名前「横槌歪神鏡」だったのです。


記者A:それは家に置いてあったということですか?


今尾さん:はい、そうなんです。最初何のことかわかりませんでしたが。名前に鏡とついていたので鏡だということはわかりました。それから部屋の断捨離をしていたのですがリビングの床に隠し扉のようなものがあったのです。そこを開けたらかなり広い地下室があったんです。今までこんな地下室があるなんて知らなかったものですから。とてもテンションが上がりました。それから地下室入ると布に包まれていた大きな何かが横一面に鎮座していたのです。私はその布をめくって中身を確認しました。そしたら鏡だったのです。大きさはみんなが知っている通り3mありました。その鏡の淵は木で出来ており下の方に「横槌歪神鏡」と書いてありました。


記者A:なるほど。そこで写真の名前と一致したのですね。それからそれを何故歴史博物

に持って行ったのですか?


今尾さん:いえ、最初は博物館ではなく買取センターに出したんです。そしたら値は付きませんでした。ですがその買取センターの従業員の方が「これとても古い鏡ですね。歴史博物館に飾ってありそうですね。」と言ったのでそれをきっかけに地元の歴史博物館に出したのです。

記者A:そしたら買取センターより値が良かった。しかも最古の鏡だったというわけですね。


今尾さん:そうなんです。とても驚きました。


「この記事結構前の記事じゃねえか。その後に何かあっただろ、確か関係者からの批判殺到

みたいな記事無かったか?」大樹はスマホに<横槌歪神鏡 批判>と打った。ページの上に

―横槌歪神鏡は偽物。関係者激怒―という記事があった。

「あーそれだ。その記事には各地域の博物館関係者や歴史物鑑定士などが、偽物だって批判

してる。」ここまで記事が出ているのなら物を探す前に今尾さんの所に話を聞いた方が早い

という達也の意見もわかる。

「この騒動があって鏡は展示されなかった。だから今回の事件の犯人は関係者の

誰かなのは明確だ。もし今尾が犯人なら批判の件とは違うほかの理由があったのだろう」

大樹は付かさず質問した。「なぜそう思うんだい?」達也はあきれた顔で答えた。「考えれば

分かることだ、今尾は断捨離のために鏡を手放した。」大樹は頷いた。

「お金をもらっているのにわざわざ批判ごときで窃盗をして持ち帰るとは思えない。今尾

ではないのなら、他の博物関係者の誰かになる。どっちにしろ今は今尾に話を聞きに行くの

が最優先だ。」

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