マリオネット
串サカナ
第1話
世の中にあるカガミには豹な魅力がある。
人はカガミの前では美しく見える。普段とは違うようなイケメンに見えたり、美人に見えたりする。カガミの前では美しいのにカガミ外ではとても見苦しいのだ、トイレに行っては手を洗いカガミを見るそして髪を直したり、メイクを直す。カガミの前ではいつもより綺麗に見えていることも知らずに。今日の俺私、イケてると偽りの自分に呟きながら…人間は醜い。
そんなことを考えながら行きつけのカフェに来たのだが、最近面白味がない面白味が無いが故にこんな変なことまで考えてしまっている。簡単に物事は進まないと分かりながらも行動に移さない、他人の悪口を吐いてはそんな自分に嫌気がさして落ち込む、それの繰り返しで暇を潰している。明日からは仕事で五連勤、そして土日休みでまた五連勤これの繰り返しそろそろ飽きたし違う仕事でも就こうかなと思うようになってきたが、今から転職をしてもまた同じよう日々が続くだけで憂鬱な日々を送っていくだけで、仕事が変わっても精神面は変わらない結局変化がない。それが俺にとっての転職の見解だ。上司が怖いから嫌いですとかセクハラパワハラが多いですという理由で転職するのであれば話は別だ、俺の場合はただ仕事そのものが飽きて嫌になっている。この状況での転職は無意味であり、無価値である。
人間って何だろうね、そんなこと考えだしたらもう終わり、夜も眠れなくなる。
俺の職業は某有名会社の営業部で暑い日も寒い日も外を練り歩いてノルマの本数仕事を取りに行く、朝から夕方まで外で営業に行き一本も仕事が取れずに帰ってくることはざらにある。最後に行う報告書には0本でしたなんて書いたら上司に怒られる。この場合は嘘の報告書を書くこともあるがすぐにばれてしまう、その場合うまく嘘を付く必要がある。ノルマと報告書は週末の金曜日にまとめて出す。何故そんなことができるのか、うちの部署の上司は金曜日にまとめてみている、そのため金曜日にまとめて出すことが可能なのだ。長年勤めてやっとのことで見出したコツだと言いたいところだけど、これぐらいのことは入社して一年もたたないうちにわかることだというのに俺の成果はこれだけ、ほかのみんなは上司と仲良くなって媚びを売ったり、同期とランチに行ったり。俺はというと誘われたことは一度あるが断っている、そういうのは苦手だ。友達を作ったり仲睦まじく仕事をするのが妙に苦手でどうしても奥手になってしまう、というかそういうのは興味が無いし友達なんていらない。結局人間と人間が仲良くできているのはどちらか一方か両方が気を使うことでしか成り立っていない。人が本当の意味での素が出るのは一人の時だけだ。そんなようなことが変な本に書いてあった気がするがおそらく違う、俺がそう思っているだけに過ぎない。こういう社交的でもない性格だからまわりからは嫌われているし避けられている。
これで仕事が減るかと思えば真逆、増えている。うざいからあいつきもいから仕事押し付けようぜってそんな具合で年々ノルマが増えている、そんなこんなんで今日も仕事に行く。
朝から夕方まで営業で色んな企業に訪問して一本も仕事をとれずに帰ってくる。そして怒られるそれの繰り返しそれが嫌ではないむしろ嬉しい。嫌われれば嫌われるほど孤独になり、一人の時間が増える。そうすることで自分の素が出てくる。自分の素を出せることはいいことだし健康にも良いだろう。
いつも通り俺は営業に出かけるのだがいつも使用する道とは違う道で行く事にした。
…あれ?道に迷った気がするいつもと違う道で行ったから迷ってしまった、とにかくまっすぐ進むことにした。もう一時間が経過しただろうかまだ涼しかった4、5月から7月の中旬。真夏で日差しが強く30度は超えているだろうかその中で俺は驀地に道を行く。もう限界が来たようだ。日陰を探していた俺はたまたま見つけた大きなマンションの路地裏に向かった。額に汗が噴き出ていたのでポケットからハンカチを出し、汗を拭いた。水筒の水はその気温とは真逆の温度で、のどを川のように流れていく感覚に涼しさと安心感を覚えた。ふと周りを見渡した時、妙なものを見つけた。太陽の光で反射していてよく見えなかったが確かにカガミのような光沢がある。俺が今いる位置からそこまで離れていないところにそれはあったため近くに寄ってみた。予想通りカガミではあったが頭だけ少し飛び出す形でこちらをのぞいている。俺は無性に全体像が見たくなり頭の部分を引っ張ろうとしたがうまく抜けない。ズズズと土とカガミの擦れる音が響いた。かなり姿が現れたがまだ3分の1ほどだろうかこれを見る限りかなり大きなカガミだ。
「変わった形。それにしても妙だなこんなところにこんな大きなカガミが埋まっているなんて。」すこし疲れた俺は左手に着けている腕時計を見た。あっヤバイもうこんな時間だ。予定の時間より大幅に遅れている、これはまた怒られるどころかクビになるかもな…。
俺の会社は営業で仕事を取りその会社にうちの商品を売買する。そのため営業の仕事は一番大切でここの会社での肝となる。電話で訪問先の会社にアポを取り会社に訪問する。それぞれの部署には仕事があるが営業部で仕事を取らないと年商は上がらない。開発部でソフトウェアなどは作っているがこちらから訪問して商品を売り出さなければ到底結びつかない、それだけ大切だと身に占めていたのに約束の時間を大幅に超えてしまう失態をしてしまった。
これでうちの会社の信頼度は下がり、今でも大変な営業がもっと大変になってしまう。でもそんなことはどうでも良い、信頼度が減ろうが仕事が減ろうが俺には関係ない上司には怒られるが怒られる方が俺にとっては好都合であり、上司からの信頼も落ちてクビになれば俺のお望み通り。となる所が全く違った、何も言われなかった。
俺の部署の上司の山田は「次から気を付けてね。」と気の抜けた声で言った。山田上司は最近話題のパワハラを意識して避けるために無関心であることを心がけているらしく、何も言わなくなり、喜怒哀楽が薄れていき今では無感情になっている。俺は他人が嫌いだがここまで無感情にはなっていない、まだまだ鍛錬が足らない。
こういうことを考えるうちに時間が過ぎて、次の訪問先の時間が迫ってきている。
俺は休日だというのにこんなところに来てしまった。例のカガミのある路地裏の所だ。前に図体の3分の1を引っ張りだしたが、時間が無く全体像を見ることができなかった。今日は休日なので時間がある今日こそ全体像を見る、そのために準備をしてきた、まず軍手、これは必需品だ。前にカガミの飛び出ているところ持った時すこし滑ってしまったこともあり、今回から軍手を準備する。もう一つはスコップ。これも欠かせない品物だが今回持ってきたスコップは鉄製でなくプラスチック製のスコップを準備した。万が一カガミに傷がついたら大変なことになる。
俺は左腕に着けている時計を見た、朝の10時を回っていた。いつもより早く起きて8時半には家を出ようとしたが、平日の疲れから寝坊してしまい、9時に家を出て今に至る。
俺は両手に軍手をはめてスコップを手に持ち、カガミが刺さっている付近の土を掘りだした。
ここの路地裏に面している両端の道は大通りで、平日の午前中はスーツを着た会社員がかなり多く歩いている。今日は休日なのであまり人は多くないが昼過ぎには人通りが多くなる。それまでには終わらせなければならいが、ここの路地裏はかなり暗いので通り過ぎただけではよく見えないだろうと思いあまり早く起きなった。これはただの言い訳。
時間の経過を感じなくなるほど集中していた。やっとカガミの半分が現れた、かなり歪な形でカガミ自体の形はよく見る長方形の全身鏡で周りの淵はぐにゃぐにゃした歪な形だが素材は木でかなり丈夫にできている。
あと半分だとは言ったものの実際にのこり半分か分からない。かなり大きいカガミのためどこまで深いところまで埋まっているのかさっぱり分からない。半分まで来たとそう思いたくて勝手に言っているだけに過ぎないのかもしれない。
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