ラーメン屋の3つの箱

日奉 奏

ラーメン屋の3つの箱

「ネギラーメン一丁」

私は店主からラーメンを受け取った。


ラーメン好きの人が聞けば卒倒するかもしれないが、私はラーメンが届いたらしばらくの間放置している。

もちろん、出来立てのラーメンの方がおいしいのは十も承知だ。


だが―――このラーメンは熱すぎる。

猫舌というのは本当に嫌なものだ。

目の前のラーメンがある程度冷めるまでの間、私はただひたすらラーメンを見つめる。

スマホをいじるのもラーメンに失礼な気がするからだ。


「お客さん。ゲームしないかい?」

「……は?」


唐突な提案に、私は固まってしまう。

「ゲーム?」

「簡単なものだよ。お客さんが勝ったら、チャーシュー丼をプレゼント」

……わけがわからない。

なにを考えているんだ?この店主。


まぁ、こっちにデメリットもない。

簡単なゲームをして、勝ったらチャーシュー丼。

私も丁度ラーメンが冷めるまで暇だったし、ゲームをしてみることにした。


◇◇◇


「それじゃ、開けたい箱を一つだけ選んでみてくれ」

目の前には―――三つの箱。

店主によると、この中に一つだけ当たりがある。

それを引けばチャーシュー丼GET、とのことだ。


「じゃあ、これで」


私は真ん中の箱を選んだ。

後はこれを開けるだけ―――かと思っていた。


「それじゃ、俺はこれで」

次の瞬間、店主は右の箱を開けた。


中には―――何も入っていない。


「お客さん。この箱は外れですぜ」

―――は?


「あと一回だけ開ける箱を変えられますぜ。どうします?」

何を言っているんだこの店主は。

仮に店主が箱を開けても、何も変わらない。

ただ、あたりを引く確率が1/3から1/2になっただけ―――なのか?


どういうことだ?なんでこの店主は意味のないことをする?

私にゲームを勧めてくるし、選択肢を一つ消してくるし。

なんでこんな無意味なことを―――いや、無意味じゃないのか?


だとしても、確率は何も変わらない。

ただ1/3が1/2になっただけだ。


―――いや、違う。


この三つの箱には『当たり』が一つだけ。

つまり、最初に当たりを引く確率は1/3だ。

そして、はずれを引く確率は2/3。


ここで開ける箱を変えずにいた場合、当たりの確率はそのまま1/3。

でも―――ここで開ける箱を変えたら、私が最初に『はずれ』を引いていた場合に『当たり』を引ける。

つまり、『当たり』の確率が―――2/3になる。


「こ、これで!」

私は左の箱を指さし、そして、開けた。


◇◇◇


「んー!」

運ばれて来たチャーシュー丼は、まさに絶品だった。

チャーシューは柔らかく、ジューシーさも満点。

チャーシューの下の米も、たれが染み込んでぱくぱく行ける。


そして―――ラーメンも当然うまい。

豚と鳥のスマートなうまみ、鼻から抜ける豊かな魚介の匂い。

麺は中太で、もちっとした小麦の味わいを楽しめる。


「お客さん、知ってたんですか?」

「え?」

私は首をかしげる。


「これ、モンティホール問題って言うんですよ」

「は、はぁ」

なるほど。そう考えると合点がいく。

この店主は自分の知識をひけらかしたかっただけなのだ。

まぁ、ラーメンがいい温度になるまでの暇つぶしにはなったし、チャーシュー丼も手に入ったし……別にいいか。


そんなことを思いながら、私は卓上の水を飲みほした。

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ラーメン屋の3つの箱 日奉 奏 @sniperarihito

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