43 BLじゃないのに男同士も結婚できる世界

パラレルカオルと違って、この世界でも男だったパラレル伊集院君。その彼に結婚しようと言われ、勇太は大いに動揺した。


おいおい、転生して大概のことは受け入れる覚悟をしたけど、ボーイズラブは無理だぞと。


ルナを助けに行く前とは違った焦りを感じた。


だけど、別に体を狙われた訳ではなかった。


簡単に言えば、伊集院君は勇太、ルナ、梓、カオルと仲間になりたかった。


勇太だけは納得できる。前世に起因して考えられるから。


性別と年齢も違うが、前世ではこのメンバーで集まったこともある。


この5人に勇太の幼馴染み純子を入れた6人で夏祭りに行った。勇太が中3のことだ。


その後も初詣の途中で合流とか、ちょっとした6人の交流があった。


前世でもモテすぎた伊集院君は、このメンバーが逃げ場のようなものだった。


気楽でいいと笑っていた。



目の前のパラレル伊集院君は、尋常ではないしがらみの中で生きてきた。


生まれたときから利害関係、婚姻関係が付きまとう生活をしてきた。いわゆる上流階級の付き合いが多すぎて、若者なら当たり前の言葉を幾つか知らない。


本人は気づいていないが、完全なプライベートで同性と接するのは勇太が初めて。


前世の伊集院君なら当たり前に言っていた『友達』が分からず、『結婚したい』と言ってしまった。


と、勇太は考える。



男女比1対12の世界。同性婚アリになっているから形上は男性同士もOK。


で、周りの女子にボーイズラブと勘違いされた。



一般的な婚姻は女性数人と1人の男で成立する。


正式な重婚は明治38年から施行。


今では男子1人で女子複数と結婚した場合、女子同士も婚姻関係になれる。


子供を守るために不可欠だからである。


最初の法律には問題があった。


A男と、A子とB子が結婚したとする。


A子もB子も、A男とだけ籍を入れられた。A子とB子はA男を通じての妻同士という名目だった。


ある家庭ではA男とA子が働き、B子が子供を産んだ。しかし、子供が産まれた直後にA男とB子が事故で死去した。


すると法律上、A子は独身女性となり、子供はA子と戸籍では他人となった。


A子は伴侶達の子供だから養子にする気だったのに、運悪くというか子供は男子だった。


亡きB子の親に血の繋がりを盾に男児が奪われた。法律に穴があった。


この後、亡きA男の親族も親権を主張。激しい子供の取り合いが起こった。早急に法律改正。


結局、親権はA子に戻ったが、似たようなケースが短期間に続発した。



暫定で、婚姻は男子1人だけにひも付けされるのではなく、自動的に妻同士も全員が婚姻関係になるように法律が改正された。


法律制定直後。悪女が現れた。


ある資産家の高齢男性1人と5人の妻が結婚していた。すると女子同士も婚姻が可能となった直後に、妻の1人が自分の縁者18人と婚姻関係を作った。


法律上、自動的に18人の女は高齢男性の妻となった。


もちろん、男性にも他の妻にも秘密。稚拙だが、この細工が発覚しないうちに男性が亡くなった。


すると相続権を主張する女子が山のように現れた。


まあ、こんな方法が通じるわけもなく、画策した女性も共謀した女性達も詐欺などで捕まった。


なので現在は、重婚は相手の性別を問わずチョイス制。その中に決まりもある



例えば梓の母葉子は、梓の父親と別居で婚姻関係にある。だけど父親には妻が8人いて、葉子は他の妻達とは法律上の結び付きはない。


結び付きはないが、男性の他の妻達とお互いに存在を確認している。証明書の提出義務もある。


他の妻との相続権の相互発生を押さえるのが主な目的だ。


法律を拡大解釈して、男子不在で女子同士の結婚も流行。なので実例はごく少数だけど男子同士もアリ。


女子のみの婚姻は長く疑問視されてきたが、人口受精でできた子供を守るのにプラス効果があり、歓迎されている。


すまぬ。少し異世界制度の話が長くなり申した。



勇太のところは梓が、勇太の性格を考えてベストな形を作ろうとしている。


梓は勇太とルナにお願いした。勇太と結婚する女性達同士には、全員が婚姻関係にあって欲しいと。


理由は、勇太が女性同士の不仲を放っておけないタイプと思ったから。


まず最初に梓は、己の独占欲、嫉妬心を押さて考えた。勇太が快適な結婚生活を送れる形を作るため、柔軟になろうと努力している。


そのとき勇太も感じるものがあった。「3人目の嫁は作らないと思う。だけど女子関係の話は必ず梓とルナに相談する」と誓った。


梓は勇太とこんな話ができて嬉しかった。しかし、嫁候補を増やさないのは無理だと思った。


現に勇太、この話をして9日後には今川カオルを釣ってしまった。



伊集院君は面白そうに聞いてくれた。


女性の目を気にしない勇太とのラフな感じも気に入った。


カオル達がトイレに行ったから、男子2人で体育館の自販機横でジュースを飲みなから話している。


周囲に女子はいるけど、男子同士で笑いながら話していると、意外と遠慮してくれる。


伊集院君からしたら、大発見だ。


「勇太君や周りの人には誤解されたけど、僕も君たちとの縁がほしいなって思ってね。つい言っちゃった」


「伊集院君に結婚って言われて、本当に驚いた。必要なのは俺達4人との繋がりだよね・・」


「僕は産まれて半年で婚約者がいた。多くの女性に尽くされてきたけど、気が張ることが多くてね・・」


「そうか・・。俺んとこはルナは伊集院君相手でも普通だし、梓とカオルも男子最優先じゃないもんね」


「ふふカオル君なんて、リアクションがいいよね」


伊集院君は梓の『妻も全員婚姻関係』には感心したが、彼の場合は無理。


政略結婚の婚約者4人個々の財産、後ろにある企業などが大きすぎる。


婚約者の中には大企業の娘、政治家の娘もいる。もし2人が婚姻関係になると色々な業界のバランスにまで影響する。


婚約者も伊集院君も、手放しに愛し合えない。


だから伊集院君はパラ高で見つけた『普通の』婚約者3人とは、みんなで仲良くなりたかった。


だけど婚約者3人は、登校日に4人で昼食をとったり、家に招いたりしたとき、どこかぎこちない。


勇太達と接して分かった。


ルナ、梓、カオルは、女性3人でも仲がいい。だから3人は自分の距離感で勇太と接することができる。


その女性同士の細かな調整は梓が行っているように映る。何かと気を使っている。



伊集院君はパラ高の婚約者3人を大事にしているが、平等な接し方を意識しすぎた。


だから4人になると女性3人も突出しないように神経を使い、1対1の時のように話が弾まない。


個性を大事にしていなかった。


勇太の真似でいい。


パラ高でブラスバンド部に所属している婚約者がいる。大会もあるし他の婚約者を誘って応援に行こうかと考えている。



ルナ、梓、カオル達も合流した。


「どうしたの伊集院君」


「いや、勇太君のところは楽しそうだね」


「そう? 時間が取れるようになったら遊ぼうよ。ダチでしょ」

「ダチ?」


「うん、友達のことだよ」


「僕も、みんなの友達?」


「もちろん。ルナも梓も、カオルも。構えずに、愚痴でもいいから連絡ちょうだいよ」


「いいの?」


「遠慮しないで」

「じゃあチャットグループを作りましょうか。どうユウ兄ちゃん」

「いいね梓。伊集院君、何でも書き込んでよ」


ルナ、梓、勇太が答えた。


「お、おう。大した力になれんけど、困ったらアタイらんとこ来いよ」


「カオル君、本当に行くからね~」


最後に言ったカオルは、伊集院君に頭をわしゃわしゃされた。


カオルはルナに続いて、ネット上でホットな人物になりつつある。



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