41 じらされ伊集院君の爆弾発言

6月19日の水曜日になった。


前の日の火曜日は伊集院君も登校せず、勇太も穏やかな1日だった。


朝から走ったあと、お菓子作り。学校に行って放課後にルナと自主トレをして、リーフカフェの片付けの手伝い。梓の夕飯を食べて普段通りに過ごした。


さて水曜日は、再び伊集院君の登校日。


やはり、教室の周りには、月曜日ほどではなくても人が多かった。


まあ、パラレル勇太の記憶にもある通常の人数。別クラスからは20人くらいか。


女子生徒も自重している。


伊集院君から『話がしたい』とLIMEが入っていたが、既読スルー。だって彼は、女の子に囲まれていて身動きが取れない。


ルナとの部活、梓と晩御飯に何を作るか、カオルとの交流のこと。


自分が大切なことを考えていた勇太は、クラスメイトに未だ歩み寄れていないし、自動的に伊集院君には近付きにくい。



放課後になった。


伊集院君が丁寧なようで、少し強い語調で親衛隊女子に言っていた。


相手は美女ばかり。


「君達が僕を心配してくれる気持ちはありがたい。しかし僕の交友関係に口出しはNGだよ」


しゅんとなった女子達。言葉は選んでいるが、語調は固い。


「ごめんね、後日、埋め合わせはするからね」


歯がキラリ。やっぱ伊集院君は格好いい。勇太は思った。


そういえば、前世伊集院君も温厚でモテていたけど、言うときはガツンと言っていた。



みんなの予想通り、伊集院君は勇太のところに来た。目から女子は近寄るなビームが出ている。


そのタイミングで、廊下側からルナが来た。勇太を部活に迎えに来た。


「あれ、伊集院君だ」

「ちょうど良かった。2人に聞きたいことがあるんだ。ネットでも見たけど、2人は本当に付き合っているの」


「うん。俺からお願いして彼女になってもらったんだ」

「・・はい。お付き合いしてます」


「やっぱりかあ・・。ルナ君に、僕の気持ちは伝わらなかったのか」


「え、伊集院君」


ルナが驚いている。

勇太は意外に納得した。



前世では中3で伊集院君、勇太、ルナが同じクラスになった。


そして3人で仲良しになった。高校も同じところに進み、高1のクラスも続けて一緒だった。


前世の伊集院君は、勇太とルナが作る世界をうらやましいと言った。


そしてルナの独特の呼吸を楽しめるようになって、ルナも勇太の次に伊集院君を信頼していた。


現在のパラレル伊集院君は身長183センチ。前世で友達になったときは中3で175センチだった。


フィンランド人とのクオーターで白い肌とすっきりした目元。少し青みがかった瞳も同じ。成績も良かった。


前世の伊集院君もモテていたのに、彼女は作らなかった。理由を聞いたことがある。


『勇太に言っていいのか分からないけど、ルナみたいな人がタイプなんだって気付いたんだ』


ハッキリ言われ、前世の勇太は冷や汗を流した。


幸い前世ルナが勇太一筋だったから良かった。モブの自分と天秤にかけられたら、自分が吹き飛ぶと思っていた。


そんな経緯があった。


だから、前世勇太は病気で先がないと分かったとき、伊集院君にルナを気にかけてやってくれと頼んだ。


大学で彼が隣県に行ったあとも連絡は取っていた。


ルナのことが、本当に大切で気掛かりだった。


親友・今川薫、幼馴染み山根純子にもお願いしたが、伊集院君へのお願いは少し内容が違った。


2人がカップルになれば、ルナのことは安心できると思った。


泣きそうな気持ちになりながらも、自分が生きているうちに2人がくっついたら必ず祝福しようと決めていた。



勇太はパラレル伊集院君に聞いてみた。


「伊集院君が、この学校の中でプロポーズしようとした4人目の女の子って・・」


勇太、ルナ、周囲の女子も声を殺して、伊集院君の言葉を待った。



「もちろんルナ君だよ」



「ええええええ、私いいい?」

教室が揺れるほどにどよめいた。そして、言われたルナが一番大きな声を上げた。


「あ、あの伊集院君が優しくしてくれたのは・・・」


「ルナ君といると、構えなくていい空気感が好きで、話かけさせてもらったんだ。何も響いてなかったのか」


「え、え、確かに話しやすかったけど・・。てっきり、伊集院君が私に話かけてくれたのは、前の2人の男子と一緒で、純子が目当てかと思ったの」


ルナの自己評価の低さゆえの誤解である。


伊集院君は思い出した。話のとっかかりとして、ルナの妹の美女・純子の話を出した。


そしてルナのことを聞くために、校内の人目が多い場所で何度か純子に声をかけた。


まさかそれらの行動、言動が尾を引き、周囲にも純子狙いと誤解させた。肝心のルナの心には、口説き文句がなにひとつ響いていなかった。


「どおりで、何度お茶に誘っても、来てくれないと思った・・」


「ごめんなさい伊集院君。私程度の女を、そんな目で見てくれていると思わなかったんです」


「ぐっ。僕も勇太君に続いてプロポーズしたいが、婚約者として候補に入れてくれないだろうか」


「あの、私にはもう、勇太がいてくれて・・。なんというか、勇太が大好きなんです。優しくて、セ●クスもすごいんです。私、もうキャパオーバーで・・」


「セ、●ックスがすごい?」


「何度も、何時間も、丁寧なのに激しくて、意識が飛ぶほど・・」


軽くパニクって、余計なことまで言ってしまったストレートなルナ。


ざわざわざわ。


女子がみんな勇太の股間を凝視している。


勇太はそんな視線も気にしなかった。『ルナ』は、この世界でも自分を選んでくれたと、安心していた。


「ルナ、モテるんじゃん」

「勇太、わ、私がなんだか分からなくなってきた」



周囲がざわざわしているどころではない。


2年3組の委員長吉田真子が呟いた。


「すごい、花木さん。私と同じモブ顔なのに、大人気の男子2人に迫られているわ」



この光景は実況でネットに流れている。伊集院君と勇太の人気男子2人が絡むので、当然のことだ。


そして状況だけで考えると、ルナはエロカワ勇太を選んで、完璧ハンサム伊集院君をフッたことになる。



「仕方ない。もっと話がしたいけど時間がないんだ。勇太君、ルナ君、申し訳ないけど、また話せるかな」


「なんか分からないけど、剣呑な話じゃないなら・・」


「約束だよ。じゃあね!」


歯がキラリと光った。勇太は伊集院君は、どんな状況でも爽やかだと思った。



ルナは困っている。梓、カオルが勇太との交流に加わってくれて、自分への注目が減ってきたと思っていた。


なのに伊集院君が爆弾を落としたことで、またも一気に熱視線を浴びることになる。



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