25 茶薔薇で合同練習

相変わらず、回復力を生かす勇太の生活はバワフルだ。


今日は月曜日。そして放課後。


パラ高柔道部、カガワ時子主将を筆頭とした総員7人で隣町の高校に柔道の合同練習に行く。


3年のもう1人の先輩は田町さん。1年生後輩はマルミ、タマミ、キヨミ。三つ子で姓は長谷川。


この世界ではスポーツで男子の団体戦は存在しない。個人戦か、女子に混じって団体戦で出るかのどちからだ。


◆◆

電車で2駅先に行き、茶薔薇学園。スポーツの名門高だ。


ちなみにパラ高は、それなりの進学校。パラレル勇太が男子枠で入っているけれど、ルナも含めて皆頭がいい。


勇太には少し楽しみがある。行き先の柔道部には、自分と同じ男性が1人だけ所属しているから。


本当は釣り。茶薔薇学園の全運動部ホームページには、男子の名前を借りて掲載。


女子の目を引く手だ。実際には、練習に参加したことさえない。到着後の勇太は、これに落胆した。


茶薔薇は柔道の名門。部員30人。軽量級から重量級まで、県大会で上位に入る。全国区の選手も2人いる。


こちらの時子部長と、相手の部長桜塚ハルネ3年生が旧知の仲だ。


パラレル高校側は勇太を入れても7人。



「ようハルネ。今日は胸を貸してもらうぜ」


「お、おう時子。お前んとこ、本当に男子が入ったんだな」


みんなで頭を下げて挨拶した。


勇太はルナがいれば平常運転。女子生徒の目を気にせず着替えて、アップを始めた。


茶薔薇の女子生徒達は驚いた。勇太がガチで激しい準備運動をしている。


勇太はすでにネット上の有名人。柔道部員の半分は、リーフカフェに勇太を見に行っている。


てっきり自校と同じく、お飾りの男子部員かと思っていた。茶薔薇にも来ないと思っていた。


だから部員以外では、道場近くで勇太を見かけた女子10人くらいしか、見学していない。


茶薔薇の部員らは、うらやましい。


打ち込み練習で、勇太がパラ高柔道部員6人と何度も体を密着させている。評判通りに勇太は女性に優しい。


先週の花木ルナへの公開プロポーズ動画の真偽を問いたいが、おふざけムードではない。


ただ、1年生の3人がやたらと勇太に密着して自分たちに見せつけている。


3人は有段者なのに、わざと倒れている。勇太に抱き起こされるのを待っている。何度も・・


乱取りの時間になった。


茶薔薇側は抽選で勇太の相手を決めた。当たりを引いた10人だ。


外れは女子6人の相手。


強豪だから、後日の研鑽のためビデオカメラが回してある。


なぜか部員も個人のスマホをセットした。勇太に向けて。


「坂元です。合気道経験はありますが、柔道は初心者です。お願いします!」


「お、おう来い。山田だ」


いきなり組んだ相手は2年生で2段。男子と初めて柔道をしてドギマギしている。


いきなり勇太が、へたくそな背負い投げをかけた。


相手女子は体の前面で受けて勇太のバランスを崩した。そして倒して有効。


そのまま、覆い被さり押さえ込みの体勢。だが・・


自分の左乳房の下に勇太の顔があることに気づいた。男子に対してセクハラをしたと思うが、人生初の男子との密着。離したくない。


すると勇太が下から聞いてきた。


「くそ、解けない。押さえ込みは何秒で1本になるんですか」


彼女はとっさに答えた。


「に、2分、いや3分だ」


嘘である。本当はこの世界の押さえ込みは、国際ルールでも高校でも30秒で一本である。


しかし、次を待っている女子達は指摘しない。むしろ、全員が心のなかで唱えた。


グッジョブ、と。


女子生徒は3分間堪能、いや押さえ込んだあと、勇太を名残惜しそうに離した。


それから次々と勇太の相手をしたが、いずれも有段者。


勇太は蹂躙された。


3分間の立ち技で翻弄したあとは3分間の押さえ込み。女子部員達は密着を楽しんだあと、トイレに駆け込んだ。


勇太フェロモンの直撃を浴びて、我慢できずナニかしてきた。


ナニかはともかく、みんな勇太のタフさに驚いている。


有段者10人との試合形式。勇太が激しく動くため、そこまで手を抜いていない。


自分達でもフルの6分は2人連続が限界。なのに勇太は少しのインターバルで次の相手に移った。


初心者の動きでも合気道の下地がある。油断すると体勢を崩されそうになる。その勇太の動きが落ちない。


「いやあ、皆さんお強いですね、ふい~」


そして、インナーも付けずに道着を着て、一戦を終えるたびに前がはだけている。


ガン見した。今夜のオカズだ。


オカズはともかく、勇太が柔道に真剣に取り組む姿勢に驚いた。


部員の1人は中学時代のパラレル勇太の同級生。悪評を知っている。実際に彼女は、無気力デブの勇太も見ている。


しかし、そんな部分がないどころか、たった今、真剣に技のことを自分に聞いてくる。


真面目に自分の話を聞く顔。質問してくる声も心地良く響く。


話に集中しているうちに暑さを感じのか、無意識に胴着をぱくぱく開いて風を送っている。


丸見えだぞ、乳首。


中学時代の勇太を知る彼女は、別人としか思えないと周りに言った。


◆◆

勇太とルナは、茶薔薇の桜塚部長、勇太と乱取りできなかった女子生徒に囲まれた。


ちなみに桜塚部長は抽選に負け、パラ高1年の相手をさせられた。


「あの、勇太君、本当に君はルナにプロポーズしたのか。あの動画は本物なのか」


「はい。再会できたうれしさから、勢いでやっちゃいました。あはは」


女子生徒達がどよめいた。


「にゅ、入籍するのか」


「今のところ彼女になってもらいました。大急ぎでルナの親御さんにも挨拶したのに、ルナがためらってるんです。俺のこと思い出してくれなくて、待ちの状態です」


さらに、女子生徒がどよめいた。ルナへの殺気が混じり始めている。


「や、やめてよ勇太君。人前でそんなこと言わないで」


「けど良かったよ。ルナに彼氏がいなくて。おかげで俺が堂々と立候補できたもんね」



勇太は気付かないが、ルナに熱い視線が集まっている。


ルナはよくも悪くもモブ顔。


パラ高柔道部は来週の火曜日も合同練習をすることが決まった。


ルナは女子部員達に、エロカワ男子ゲットの秘訣を聞かれまくることとなる。





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