24 カウントダウンが始まりそうだ
勇太は、朝から梓のキスで起こされた。それも濃厚な。
現世の従妹とはいえ、梓は前世の勇太の妹と同じ顔。目覚めから心臓に悪い。
結婚すると明言したのは昨日の夜。
誕生日までは清い関係でいることを約束したのに、猛チャージを食らっている。
勇太の部屋は、家を抜けやすいように、1階の勝手口近く。梓を自分の部屋に追い返した。
キッチンでは叔母葉子が朝食を用意していた。
「葉子母さんおはよう」
「おはよう勇太。梓が勇太の部屋から上機嫌で出てきたわよ。はいお茶」
「いやいや、誤解しないで。大事な梓に何もしてないよ」
「あら、まだセ●クスしてないの」
ぶっ、と勇太はお茶を吹き出した。貞操逆転世界、男女比偏り世界の常識に、慣れていける気がしない。
「・・キスだけだよ。昨日、梓の誕生日まで婚姻届も出さないって決めたよね」
「律儀ね。私なんて、ワンチャンスで男の子を押さえ込んで関係持って、16歳になる前に梓を産んだのに」
前世の母親の顔で生々しい話をするのは、やめてくれと思った。
「すげえ・・。とにかく3月29日までは、何もしない」
「え、3月29日って、私の誕生日よ」
「・・・は?」
勇太は悪い予感がした。そういえば、誕生日の入籍と言ったとき、梓が極上の笑顔を見せていた。
「葉子母さんの誕生日って、7月31日じゃ・・」
「そっちは梓の誕生日じゃない。勘違いでもしたの」
梓と葉子で前世の誕生日と入れ替わっていた。勇太は、女神によるトラップが張り巡らされている気がしてきた。
勇太は覚悟するしかない。
肉食獣の本性を現しつつある梓から、もう逃げられそうにない・・
前世梓の可憐なイメージから離れていく。いや、いっそのこと、もっと離れてくれた方がいい。
「梓の誕生日は夏休み中だから、隣県にある姉さんの墓前に2人で結婚の報告していらっしゃい」
必ず、前の日から行って、一泊してこいと念を押された。
すでに、お墓がある街のシティホテル23階、ダブルベッドの部屋に予約がしてあった。
「うわあ、完全にがんじがらめじゃん・・」
急展開だけれど、勇太はルナに不義理はできないと思っている。
梓もルナに会って、謝罪と断りを入れると言ってくれた。
「ユウ兄ちゃんはルナさんが誰よりも大事だよね。邪魔はしないよ」
梓が儚く笑った。
「心当たりはないけど、ルナさんと運命的な再会だったんだよね」
「まあ、運命といえば、運命のような・・」
「そんな素敵な人とユウ兄ちゃんの間に、ただ従妹っていうだけで私が割込むんだよね。謝りたいの・・」
「・・梓。そんなことはないぞ。お前だって、すごく魅力的な女の子だ。お前のために命をかけてもいい」
うつむく梓がいじましくなって、勇太は肩を抱いた。
その梓・・・。下を向いてちょっと笑ってしまった。
勇太は単純で純粋で、いい人間に変身したと改めて思った。
以前とは違う、新たな『好き』が心に沸いてきた。
心から幸せにしたい。
梓はこれ以上、ルナに対して抜け駆けはしない。
控えめなルナを引き立てて、絶対に疎外感なんて味合わせない。ルナのことをたくさん知る。女同士で仲良くするために努力する。
そうやって勇太が居心地がいい場所を作る。
それが最初の妻に名乗り出た自分の役割だと思っている。
梓は、最終的に勇太の嫁の数は2桁になると考えている。
1度は勇太をフッた臼鳥麗子も、勇太の次の告白を待っているという噂まである。
しかし当面は、ルナと自分の2人で勇太との愛を育もうと思っている。
自分の領域は自宅、外はルナだと決めている。
パラレル高校で自分が勇太に近づくと、カリンや同級生が付いてきてしまう。
だからと、モテる勇太を足かせなしで泳がせておくと、何人の嫁を釣ってくるか分からない。
勇太の癒しになり、なにげに格闘スキルも持つルナは、虫除けの強い駒になる。
◆◆◆
金、土、日と怒涛の時間を過ごした次の月曜日。
勇太は駅でルナと待ち合わせた。
待ち合わせ時間は7時40分。勇太が10分前に到着すると、すでにルナはいた。
ルナは30分前に着いていた。
ルナの周囲が騒がしい。
いくら勇太の自己評価が低くても、学校でも外でも人気者なのだ。
公開プロポーズをされて3日、金曜日、土曜日は勇太のカフェのバイトが終わって会った。
勇太がリーフカフェの合鍵を持ってるから、カフェの控え室で話し込んだ。
キスもたくさんした。
土曜日の昼には梓が訪ねて来て、先に勇太と籍を入れることを謝られた。自分は勇太のプロポーズの返事もしていないのに、律儀に挨拶してくれた。
ハンサム男子1人に複数女子のハーレム登校グループが3組いるが、ルナは自分と勇太に注目が集まっているなと感じている。
「おはようルナ!」
「おはよう勇太君」
「あ~、まだ勇太君って言ってる」
「勇太・・、なんか照れるよ、へへへ」
ルナは、駅で驚いた。とにかく周囲で何人かスマホを構えている。
今日の勇太もワイシャツのボタン2個空けに、バンダナ。うっすら汗をかいて、すごく色気がある。
ルナが困惑して固まっていると、勇太が困った顔になった。
「ごめん、ボタン開けすぎかな。とにかく暑いんだよね」
ボタンの3つ目を外して、パタパタしないでくれとルナは思っている。
ルナは、過去に勇太と愛を育んだ『ルナ』がいたから、自分のラッキーがあると思っている。
それでエロ一色に染まりそうな気持ちを抑えている。けどギリギリだ。
「どうしたルナ、顔が赤いぜ。熱か?」
ぴと、と額に勇太の手を当てられ、なおさら顔が熱くなる、
「そ、そんなことするから暑いんだよ~」
「そんな照れるようなことでもないだろ」
屈託がない。勇太の笑顔に、ルナも癒される。
「ルナ、今日もお昼ごはん誘っていい?」
「もちろんだよ、大歓迎」
「そんな笑顔見せられたら、休み時間もいっちゃうぞ」
「いつでも来て」
「遠慮しないよ。やっぱルナといると楽しい」
パラレルルナに出会えて良かったと思った勇太は、前世の感覚でルナに肩をぶつけた。
「ほれっ」
「きゃっ」
不意を突かれたルナはよろけそうになって、勇太に支えられた。
「おっとっと。わりいルナ」
結果、肩を組まれて、今日もフェロモンの直撃を食らった。ルナは意識が飛びそうになっている。
ここは男女比1対12。貞操観念逆転。
昨日、自分が柔道着を着たままプロポーズされた動画は、再生回数が180万とカウントされていた。
一体、自分の身に何か起きているんだと怖くなってきた。
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