18 俺は陰キャを脱出するんだ
勇太が転生して最初の月曜日、めまぐるしく動いた。
元の体の持ち主、パラレル勇太の代わりに女子生徒に謝った。
色んな人に謝罪もしたが数が多い。パラレル勇太が馬鹿すぎる。
迷惑をかけた人に謝って、あとはシカトされてきたクラスメイトと波風を立てず、静かに教室の片隅で暮らす。
月曜日の放課後、勇太は帰りに病院に寄った。
頭を割って3日。念のための検査だ。
なぜかキミカ軍団だけでなく、看護師、女子さんで18人に労りの言葉をかけた。そしてハグも頼まれた。
お菓子を山ほどもらった。
◆
夜は梓が作ったご飯。勇太にすれば、お金には換算できない贅沢である。
夜になると腕立て伏せ、腹筋、ランニング。一晩中繰り返し、朝の4時。
1時間寝てスッキリ。
火曜日。ルナと登校。
朝7時40分に1年生の梓の教室前に行った。
梓はすでに話を聞いているが、近付かないようにすると言ってくれた。
教室前に行くと、女子生徒が24人もいた。
勇太は驚いた。
「うわあ、これってみんな謝罪対象か。待たれてたんか。パラレル勇太って何やってたんだよ・・」
しかし、それも梓のため。仕方なしと受け入れるつもりだ。
実は女子達は謝罪対象でもなく悪意もない。
1年生の間には、早くも噂が流れている。
ネット上で人気上昇中の、エロカワ男子が丁寧に接してくれるという。
1年生だけなく、3年生も見に来ている。
そこにいるのは、あわよくば勇太と知り合いになりたい女子だけだ。
だが、今の勇太には判別がつかない。
男女比1対12の世界で、男子がどう見られるかも考えてられない。
勇太は間違いなく謝罪対象である生徒を見つけた。3人。
幸いに、その3人が一緒にいた。
勇太は謝罪した。
すると不思議な現象が起きている。残りの女子は縦一列に並んでいる。
頭を下げようとすると、止められた。
握手してハグしてくれと先頭の子に頼まれて、言われるままにした。
列の中には3年生もいた。見覚えがないけれど、パラレル勇太が馬鹿だから忘れていると思った。並んだ21人に同じことをして、とりあえずリーフカフェのチケットを渡した。
「女の子と抱き合って謝罪になるのかな。むしろ、ご褒美じゃね?」
ルナの視線を感じ、鼻の下を伸ばしたことを反省した。
3年女子がここに来たのは、土曜日のリーフカフェで勇太を見たから。
あの可愛くて、笑顔を振りまく店員さんがパラ高の人間と知って、テンションが上がった。
学校での出会いを期待した。
来てみたら、ハグしてカフェのチケットまでくれた。
予想以上だった。
「こんな俺を励ましてくれるんだね。ありがとう」
勇太は男子が少ない世界では、自分なんかでも貴重なんだと思った。
集まった女子達は勇太の非公式ファンクラブを作ることにした。
もちろん、この世界の男子にあり得ない対応の動画は、好意を持って編集。
そしてネットに流された。
勇太は、パラレル勇太のイメージとは違い、パラ高の女子は優しいと思っている。
そのうちクラスメイトとも、柔らかな関係になればな、とか考え始めている。
休み時間にはルナに会いに行って学業終了。
そのまま5時にはリーフカフェに行った。注文取に始まり、閉店作業まで手伝った。
平日にも関わらず、店内は混んでいた。
葉子母さんの店が流行っていて一安心だが、自分の功績だとは知らない。
考える暇もなく店内を動き回った。
客からの要望は、できるだけ応えた。一緒に写真も撮った。
夜中にはキミカら看護師軍団とファミレスで会った。
◆
水曜日。
勇太は、朝の7時半には学校にいた。
今度は3年生の教室に行った。
謝罪すべき人物は、1、3、4組の人だ。今度は3人。
その中に、前世の合気道道場で何度か指導してくれた人の顔があった。
まず、その人と出くわした。
「あのときは、肩をぶつけたのに逃げてごめんなさい」
彼女は、勇太の2年3組に妹がいる。妹に聞いていた勇太との違いに驚いた。
だから、女子生徒の対応は緩かった。
謝罪を続けたり挨拶回り。前世でも、あまり経験がなかった。
ルナや梓のためと思っても、慣れない動きで多少のストレスはたまる。
反動は外に現れた。
人が優しい。だから、バイトが楽しい。
学校帰りに手伝うリーフカフェの仕事に、さらに熱が入った。
木曜日、差し入れを持ってきてくれた女の子がいた。中学生のメイちゃん。緊張で言葉が繋がらなくなった。
前世ルナと仲良くなった頃のようだった。
涙目の彼女を店の隅に連れていって、手を握った。ゆっくり話を聞いて、お礼を言った。
この光景は、ネットに流さないように、周囲にお願いした。
自分の動画を流されても気にしない勇太だけど、その子の一生懸命を見世物にしたくなかった。
◆
そして木曜日。
勇太は、最初の目的を達成した。
とりあえず5時間目が終わって、最後のひとりに謝罪をした。
わずか4日間。なかなか大変だった。今後もパラレル勇太絡みのトラブルが続くと予想される。
授業は楽しかった。火曜日5時間目、木曜日5時間目の体育も乗り越えられた。
どちらも隣の2年4組と合同で体育館バスケ。
2人組の柔軟体操と聞いたとき、ルナに相手を頼んだ。するとみんなに押されて、ルナが出てきてくれた。
自分の3組から落胆の声が聞こえた気もしたが、勇太は自分を嫌っているクラスメイトがそんな声をあげるとは思っていない。
気のせいだなと、スルーした。
ルナとペアストレッチをした勇太は、4組の人間とは仲良くなれた。
バスケの方は割愛。残念なから、繊細な手の動きなどが必要な球技は、まだダメだった。
◆◆
木曜日の授業終了。
隣の教室に向かった。
勇太は、4組の女子とはよく話すが、先週まで陰キャ男子の象徴だったのが自分。
静かに教室の前で待った。
「あれ勇太君、ルナ待ってんの? 呼ぼうか」
「いいよカヤマさん。ルナに迷惑かけないように、ここで待ってる。お気遣いありがとうね」
「あ、う、うん。何かあったら言ってね。バイバイ」
「さよなら~」
ぼそっ。「なんて謙虚なんだろ・・」
勇太は毎日、お昼ご飯をルナと食べている。
すごく注目を浴びている。
理由は、徹底的に勇太がルナに優しいからだ。
ネット上ではルナに対するイタズラ説もある。しかし身近で見ている人間には、勇太がルナに惚れてるようにしか見えない。
なにはともあれ、勇太はルナと合流した。
そして、柔道部に行くことにした。
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