2 なんで梓と葉子母さんが?

勇太は令和6年の5月10日の金曜日に転生した。


パラレルワールドで、同じ坂元勇太に乗り移った。


この世界の勇太は、1週間ぶりに学校に行って放課後に階段から落ち、お亡くなりになった。


勇太は一瞬、元の世界に戻ったかと思って喜んだ。


なぜなら、目の前に妹と母親の顔がある。


だけど、それは他人だった。


名前は葉子と梓。前世と一緒だけど、ここでは叔母と従妹。実母が交通事故で亡くなった4年前から、叔母が引き取ってくれた。


女神は、肝心なこと言ってない。パラレル勇太の記憶、女神様にインプットされた知識で知った。


ここは、モロに日本なパラレルワールド、そして男女比が1対12。


江戸初期の疫病で男女比1対1のバランスが崩れ、以降は男女比がそのまんま。


それに合わせて女子がスケベで性欲が強い。


人口維持のため性交推奨は政策になっている。


その観点から、男女の営みは美徳とされている。


勇太の前世と違い、男子とヤったことを公開する女子が格好いいとされる。


ただ、生まれる人間の84パーセントが、人工受精。その形が定着した。


男子の愛情を受けなければ、女子が子供を生めない時代とも変わっている。



勇太は、そんなことはどうでもいい。


母ににしか見えない女性は叔母。カフェを経営をしている。叔母は旦那持ちだが、旦那は別の妻達と同居。



「ユウ兄ちゃん、よかったあ~」

「勇太君、大丈夫なの?」


やっぱり声まで母親と妹そのものだ。


勇太はパラレル勇太の記憶で確認しても、こちらに存在する人達だった。


前の世界の梓は勇太と5学年違ったが、今度は1学年違い。


同じ原礼流高校。通称はパラ高。勇太が2年、梓が1年だ。


「えと、ヨーコさんと、従妹のアズサでいいんだよな。心配かけたね」


「え?」「え?」


「死なずに済んだみたい。ははは」


「ユウ兄ちゃん、まともに喋らないうちに私の名前も忘れたの?」

「勇太君が、葉子さんって・・」


「ああ、そのへんなのね・・」


そうなのである。元のパラレル勇太は、ここ1年くらい人とまともに会話をしなかった。


ぶっちゃけ、女にフラれたのだ。男女比1対12とはいえ、モブ顔。


勇太は、パラレル勇太に、なぜゆえに彼女を狙ったと言いたい。


3つ隣のクラスの、ハイスペックな美少女・臼鳥麗子に人前で告白。きっちり断られた。


男が女にフラれる、この世界では珍しい現象。


それから、常におどおどしている。


希少な男子なのに女子に軽く見られる、なかなかの有名人になった。


その前から陰気キャラ。程度は低いところから、より下に落ちていっただけ。


もっともこの世界、男子はオラオラや引きこもりも多い。


あとは女性に性欲を向けられ過ぎて、女性不信の男子もいる。


人間性がいい男子となると、女子30人に対して1人くらいの割合まで落ちる。


ハンサムだと護衛や、取り巻きの女軍団と出掛けたりするとか。勇太の前世のような気楽な男女交流が少ない。



パラレル勇太は、世話してくれる叔母と従妹とも、喋ってない。


なのに、元から金に汚かったし、イメージは落ちていっただけ。


身内だから、梓達2人は我慢してくれる。


だけど、外では相手にされない。


高2からの転生復帰を楽しみにしてた。


平凡で楽しく生きる前に、環境を整えねばならない。



この世界、女子主導社会に変わり、重婚は当たり前。


大事な種馬だから、男子は優遇されてる。


義務になってる定期的な精子提供さえ果たせば、最低限の生活はできる。


学業のハードルも低い。だから高校は週1登校で許される。


男子に生まれれば、有利だけど女子も、そこまで甘くない。


条件がいい男子と付き合ってみたい。そして、そういう人間の子供が欲しい。


どうでもいい男の子供を作るなら、人工授精で十分という風潮。


美的感覚は元の世界と同じ。ハンサム、高スペック男子に女が群がる。


そこは前の世界と変わらない。


パラレル勇太の記憶を探っても、モテた経験がない。


男女比1対12なのに残念です!


今の状況。


勇太は、出血が多く緊急搬送されたが、軽傷だったと診断された。


本当は、頭ぱっくりで、大量出血。致命傷だった。


中身が修復され、傷が8割がた塞がっている。



マイナス要素も多いけど、勇太はワクワク感の方も大きい。


さっき鏡を見て感動した。別にハンサムではない。だけど、頬に赤みがさしている。


全体的に、かなりの肥満。それでも手足は動く。フツメンでもいい。


頭の傷は、まだ残っている。

左側頭部の耳から上5センチ位置にでかい傷が残っている。


水平に20センチの大きな線が盛り上がっている。今にも血が出そうだ。


これを人格変化の言い訳とすることに決めた。


「俺、頭を怪我したせいか、なんか気分が違うんだよね」


2人とも真剣に聞いている。


20分ほど独白した。


「この1年間、2人にも迷惑をかけた。言葉じゃ信じられないだろうけど、一生懸命に償っていきます」


勇太の目の前にいるのは、中身は違っても身内。顔は、最期まで勇太のために泣いてくれた大切な家族と瓜二つだ。


「ユウ兄ちゃん・・」


目をうるうるさせる梓。


今度は従妹で前世梓とは別人だけど、血の繋がりがある。全力で可愛がる。そう誓った。


怪我の原因は自爆。


今日は週1登校で学校に行った。いつものように、みんながハイスペックな伊集院光輝君に群がった。


勇太は1人寂しく帰ろうとして、階段を踏み外した。


誰かが腕をつかんでくれたけど、袖がべりっ。


そのまんま落下した。



「階段で自爆したよ」


「えっ、そうなの?」

「うん、きちんと記憶もあるもん」


「だけど、同級生の花木留奈さんが、警察に捕まりそうなのよ」


「・・え」


誰かが、花木ルナが勇太を押したと言った。


相手はモブでも希少な男子。


事情を聞くために、校長室に足止めされ、警察官も来ている。


検査どころではない。勇太はすぐさま学校に向かった。


シャツが破れて血塗れでも関係ない。



ルナ。静かだけど笑顔に明るさがあった。


勇太はカタカナで月をイメージして呼ぶようになった。


花木留奈の名前を勇太は、知っているどころでない。


前の世界で病気になったあと、別れを告げた勇太の元カノ。


『来世があったら、絶対に私が探し出してあげる』


こう言ってくれたルナだ。


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