どうしても追放されたい転生魔王討伐

やっ

第0-1 〇 夢の異世界

 俺の両親は幼い頃に亡くなり意地悪な親戚をたらい回しにされ極力、人と関わらず静かに生きてきた。


勉強や運動は得意ではないし、これと言って特技もない。そんな僕にも好きなものはある。


 それは読書。転生物が大好きで色んな作品を読んでいる。


 中でも追放されて「今更遅い」や「ざまぁ」な展開が大好きだ。


 優秀なスキルを持っている主人公がパーティーから追放され、その力をもってスローライフを満喫。


そして追放した側は涙目で帰ってきて欲しいと懇願する。


 何かの間違いで召喚され俺もそんな風になれないか、そんな妄想ばかりしていたが、それは突然起こった。


 夜中トイレで目が覚め、眠い目を擦りながら部屋のドアを開けた瞬間、真っ白い部屋が目の前に広がっている。


「え???」


 あまりの出来事に状況が把握できていない。


「迷える子羊よ、ようこそいらっしゃいました」


 後方から声がして振り返ると、如何にも女神な美人のお姉さんが立っていた。


(え!!!!!!え!!!!え?)


 気付くと自分の部屋は無くなっており、女性が口を開く。


「私は運命の女神クロート。あなたの善行を、主ゼウス様がお認めになりました。転生し第二の人生を歩むことを許可しましょう」


(!!!)


 女神の発言に耳を疑う。今この人、転生って言った?第二の人生???


 嬉しさや期待、まだ何かのドッキリじゃないかという不安が頭の中をぐるぐるしている。


「転生できる?え???本当に転生して人生をやり直せるの???」


「はい。あなたは生前数々の素晴らしい行いで人々を導き世に平和をもたらしました。惜しくも亡くなりましたが、主は見ておりましたよ」


 ニッコリとクロートがほほ笑む。


「亡くなった!!!!クロートさん?えっと??私は特にこれと言って思い当たる節が無いのですが・・・・」


 さっきまで寝ていてトイレで起きたのに。


 それに困ってる人が居たら助ける、そんな状況に出くわした事は無いし、自ら進んで良い事をした自覚が無い。親戚に会いたくないから引き籠り気味だったし、彼女の言ってる意味が解らない。


「あなたは寝る間も惜しみ流行り病の特効薬を開発し多くの尊い命を助けました。大変素晴らしい行いです」


 は?


「また恵まれない国に多額な寄付をし、畑や学校、井戸を作り、国の発展に著しく貢献しました。それだけに留まらず」



 ・・・・人違いだ!!!



 その後も彼女は空間転移装置の開発や戦争を終わらせたとか言ってる。


「と言う経緯があり、そんな素晴らしい富山三重(とやまみえ)様に第2の人生をプレゼントしようと、主ゼウス様はあなたを別世界に転生させようとしています」


「あの私、富山一重(とやまひとえ)です」


「え!!!!!!」


 クロートが一瞬目を見開き、静かに目を閉じる。


「一重です」


「・・・・・・・」


「べ、別人かと、あのー?」


「・・・・・・・ス~~~~」


 クロートは静かに呼吸し汗を滝のように吹き出た。


 残念な気持ちではあるがクロートに話す。


「あーなんかの手違いみたいですね、私じゃないのは残念ですが、今後その方みたく立派に生き、死後改めて転生できたらと思います。では帰りますのでお家に帰してください」


 人違いではあるが目の前で起こっている事が俺を前向きにさせた。


 死後の世界や転生が本当にあると解ったのだ。

これからは善行や人の為に出来る事を進んで行い、いつか来るこの転生を待って次は僕自身が「「富山様、転生するに当たり、お好きなスキルを授けると主はおっしゃっています!」」


 身の振る舞いを改めようと考えている途中でクロートに遮られた。


「え?いや、ですから部屋「「一個では不満ですか?でしたら私からもお好きなスキルを授けますよ!!」」


「大丈夫ですって、もう戻って寝るか「「今なら更にもう一個サービスします!!!」」


 クロートは目の前まで迫ってきて俺の手を掴む。


「近い!だから私三重じゃなくひと「「好きな世界にだって飛ばします!!!!」」


 これ帰れないし三重さんの事は無かったことにしようとしてない?てことは本当に俺死んだ??


 しかし思い返す。


 元々身寄りも無いし行けるってんならありがたく受け入れよう。そう覚悟しクロートに声を掛ける。


「・・・・あの」


「ハイ!!なんでしょう三重様!!!」


「ツバが、あと一重、まあいいや、行きますよ異世界」


「本当ですか!!!!!」


 すごく嬉しそうにクロートが叫ぶ


「声でっか、あとツバ、いや、そういうの夢見てたので願ったり叶ったりっていうか」


「マジっすか!すぐ行きましょ!!さあ行きましょ!!!早く!!!!」


 上司に黙ってやり過ごそうとしているな。


「元々の三重さんは良いの?その人の功績を奪うような形になったし」


「大丈夫!!大丈夫!!先っぽだけだから」


 何言ってんだこいつ


「とにかく後30秒以内に転生してもらうのでスキル選んで!早く!」


「30秒!!!もっとゆっくり考えさせて!!!」


「10!9!8!!!!」


30秒じゃないのかよ!早く答えなきゃ!頭が回らない。くっそ!


「何個?(スキル)」


「三個(あげる)」


「場所(はどこ?)」


「剣と魔法(の世界)」


「火魔法」


「ほい」


「水魔法」


「ほい」


「ブシュン(くしゃみ)」


「ほい」


「あ!!!!ちょ!!!ちがっ」


「では三つ揃いましたのであなたの望む世界に転生をさせて頂きます」


「おい!最後くしゃみだ!あと一個!」


「あなたに神の祝福があらんことを」


 女神は胸の前で手を組み、祈りを捧げている。


 今更恰好つけんな。そう思うと目の前が真っ暗になり意識が途絶えた。


 思てたんと違うけど俺の第2の人生が幕を開ける。

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