協力障害踏破TASUKE

ゴットー・ノベタン

第一回「親子二輪二脚」

「さあ始まりました第一回TASUKEタスケ! 毎回、様々な条件のもと集められたチームの方々に、あらゆる障害を協力して乗り越える姿を見せて頂こうというこの企画。初開催となる今回の競技は『親子二輪二脚』という事で、実況は私、KOCテレビアナウンサーの小太刀一郎こだちいちろう。解説は忍者の猿飛佐助さるとびさすけさんにお越し頂きました。佐助さん、今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願い致します」


「早速ですが佐助さん。『親子二輪二脚』というのはこれ、どのような競技になるのでしょうか?」

「はい。今回行われる『親子二輪二脚』。これは自転車を漕ぐ人と、それを後ろから支える人、二人一組での競技となります」

「見た目としてはアレでしょうか? 自転車を漕げるようになってきたお子さんが、そろそろやってみようかと補助輪を外した直後、親御さんに支えられながら『離さないでね、絶対離さないでね!』という……」

「まさにその通りです! 今回は『小学生以下のお子さん』と『その保護者の方1名』のペアで挑んで頂きます」

「なるほど。では続いて、詳しいルールについてもお願い致します」


「参加したペアの方々には、自転車を漕ぎながら、また支えながら、様々な障害を踏破して頂きます。スタートからゴールまでの間は、

①漕ぎ手の足や体が地面に着く

②支え手の両手がリアキャリア後部の荷台から離れる

③支え手が自転車のリアキャリア以外の部分や漕ぎ手に触れる

④支え手の両足が地面から離れる

⑤自転車が倒れる

 これらの状況に陥った場合、即失格となります」


「①②③⑤は分かりやすいんですが、④の『支え手の両足が地面から離れる』というのは佐助さん、どういった状況を想定したものなんでしょう?」

「なかなか無い状況だとは思うのですが、支え手が腕の力だけでリアキャリアに跨るなどして、完全に漕ぎ手に任せてしまう事を防ぐルールですね」

「なるほど! では、続きをお願いします」


「ゴールラインに到達しても終わりではありません。漕ぎ手からの『絶対に離さないでね』の合図で支え手が手を離し、そこからは漕ぎ手の力のみで、10秒間の自走を行います」

「『大丈夫、ちゃんと支えているよ』というやつですね!」

「そうですね。複数のペアがゴールした場合、この10秒間に自走出来た距離で優勝者が決まります」

「ありがとうございます。では、会場の方も準備が整いました様ですので、最初のペアの紹介に入りたいと思います」



【第1ペア】

漕ぎ手:泡手あわて そう(10)

支え手:泡手 そう(36)



「今回ご参加頂いたのは全部で5ペアです。第1ペアは泡手親子。お父さんも息子さんも、名前の読みは『そう』さんです」

「親子で読みが同じというのは、なかなか珍しいですね」

「息子の漕くんからメッセージが届いております。『いつも見ていた番組に出られてうれしいです、優勝めざしてがんばります』との事です」

「別の番組と勘違いされてますね」

「ご覧の番組は『TASUKE』ですが、どうかチャンネルはそのままで! さあ泡手親子、スタートの準備が整った様です!」


 「大丈夫だ、漕。練習通りに走ればできる!」

 「うん!」


「スタート5秒前! 4、3、2、1、スタート! さあまずは順調な漕ぎ出し、第一関門は25mの直線です!」

「何の変哲もない平地ですが、学校のプールと同じ長さですからね。小学生にとっては結構長いですよ」

「しかし漕くん、これはかなり漕ぎ慣れている様子! お父さんの走さんがつんのめるほどの勢いで飛ばす飛ばす! 速い、速いぞ!」

「あっ」


 パァン、パァン!


「あーっと失格のピストルが鳴ったー!? これはどういう事だー!?」

「お父さんの走さん、一瞬両足が浮いてしまいましたね」

「VTRを見てみましょう……あ~~ここですね? 確かに走さんがつんのめった瞬間、足が地面から離れています!」


「ルールの都合上、支え手の側は走るというより、競歩の様な早歩きを求められます。子供用の自転車はリアキャリアの位置も低いので、掴んでいる間は前傾姿勢になる。漕ぎ手が早過ぎると、すぐつんのめってしまうんですね」


「なんとも残念な結果に終わってしまった泡手親子! 泣き出してしまった漕くんを、観客席にいたお母さんが慰めています!」

「これを機に、人と速度を合わせる事の大切さ、大変さを学んで欲しいですね」

「助け合いの精神は大事だぞ、漕くん! さあ、では続いてのペアに参りましょう!」



【第2ペア】

漕ぎ手:小金井こがない 楽々らら(11)

支え手:小金井 七押なおし(40)



「さあ、第2ペアは小金井親子。お父さんと娘さんのペアです。佐助さん、今回は漕ぎ手が女の子という事ですが、支え手としては何かこう、有利になったりする部分はあるんでしょうか?」

「小学生くらいのお子さんですと、男女の体重というのは殆ど違いがありません。今回の競技でも特にハンデなどは設けていませんので、やはり楽々ちゃんと七押さんがどれだけ息を合わせられるか、これがポイントになるでしょう」

「なるほど、ありがとうございます。さてそんな小金井親子、どうやらスタートの準備が整った様です!」


 「がんばろうね、パパ!」

 「任せておきなさい!」


「スタート5秒前! 4、3、2、1、スタート! さあまずは最初の直線を……おーっとこれは!? 自転車は進んでいますが、楽々ちゃんが全く漕いでいないぞ!?」

「支え手の七押さんが手で押していますね。進む力を七押さんに任せて、漕ぎ手の楽々ちゃんはハンドル操作に集中する作戦の様です」

「佐助さんこれ、ルール的には大丈夫なんでしょうか?」

「抜け穴じみた方法ではありますが、問題ありません。これを規制しようとすると、下り坂や慣性で漕がずに動くのもアウトになってしまいますからね」


「なるほど。となると、最後10秒間の自走で、楽々ちゃんがどれだけ走れるかが勝負の分かれ目になりそうですね! さあ、そう言っている間に第一関門の直線を突破し、お次は第二関門! 並べられた10個のパイロンの間を、曲がりながらすり抜けてゆくスラロームゾーンです! 途中で曲がり切れなかったり、パイロンを倒してしまうと失格になりますがここをどう……あーっと!? 楽々ちゃん転倒してしまったーっ!?」


「バランスを崩しましたねえ。自転車に乗る人は分かると思いますが、ああいった細かいハンドル操作が必要な場面では、こまめな加速や減速が必要になります。また、ペダルを漕ぐ足も無意識の内に微妙な動きで重心を調整しているので、楽々ちゃんの様に完全に足を止めてしまうと、かえって不安定になりやすいんですね」


「ルールの穴を突いた作戦でしたが、やはりTASUKEは甘くなかった! 小金井親子、スラロームゾーンでリタイアです!」



【第3ペア】

漕ぎ手:滑川なめりかわ 乗子のりこ(28)

支え手:滑川 正持しょうじ(7)



「さあ、続きまして第3ペアは滑川親子、こちらはお母さんと息子さんのペア。小学1年生の正持くんは、今回のTASUKEでは最年少となります」

「小学生は一つ学年が違えば、大幅に体重が変わってきます。支え手の乗子さんにとっては、かなり有利と言えるでしょう」

「そうなると、後は正持くんがどれだけ自転車を操れるかがカギになるか。注目したい所で……おっ、とこれは? 乗子さんが自転車に跨っているぞ!?」

「これは……漕ぎ手が乗子さんで登録されていますね」


 「正ちゃん、しっかり捕まっててね!」

 「ママ、がんばってー!」


「スタート5秒前! 4、3、2、1、スタート! さあ始まってしまいましたが佐助さん、良いんでしょうかこれは!?」

「またもや、穴を突かれてしまいましたね……確かに『お子さんが漕ぎ手をやる』という決まりはないので、ルール上は問題ありません」

「しかしこれだと、競技の趣旨に反しませんか?」


「『親子で障害を乗り越える』というのが趣旨ですから、滑川親子はを見事に乗り越えて来たと、むしろ私としては拍手を送りたいですね。実際に審判団からも待ったが掛からない以上、競技はこのまま続行でしょう」


「TASUKEは厳しいが、その懐は広かった! さあ、そう言っている間にも直線を越えて第二関門、スラロームに入ったぞ!」

「とはいえ、使う自転車は運営が用意した子供用です。本来、大人には乗りにくいはずなのですが……」

「大人の女性としても、かなり小柄な乗子お母さん! 身長は140cmほどでしょうか? 子供用の自転車を巧みに操り、スイスイとスラロームを進みます! しかし速い、速過ぎる! 支え手の正持くん、殆ど引き摺られる様に付いて行く!」


「いや、実際に引き摺られてますね。どうやら正持くん、ローラーシューズを履いている様です」

「なんと正持くん! 靴の踵に付いたローラーで、滑りながら進んでいるー!? 佐助さん、これもルール上はアリなんですか!?」

「自転車の改造などは認められていませんが、服装の規定はありません。裸足だろうがローラーシューズだろうが、ルールで禁止されていない以上、今回のTASUKEでは認めるべきでしょう」


「TASUKEに求められるのは力や技だけではない、知恵も必要なのだ! 小柄な体でルールの穴を潜り抜け、滑川親子がひた走る! さあスラロームも抜けて第三関門! 長さ4m、幅20cmの一本橋です!」


「このエリアは、橋の左右のマットに落ちても失格です。スピードを出さなければふらついて落ちてしまいますが、支え手も橋を渡らなければならないので、どれだけ二人の最高速に近付けられるかがポイントになります」

「乗子お母さん、軽快に漕ぎながら橋へと迫る! 支え手の正持くん、橋に合わせて足の位置を調整し……あーーっと転落ー!?」

「ローラーシューズが仇になりましたねえ」

「VTRを観てみましょう!」


「ローラーシューズは構造上、つま先を上げた状態でなければ滑れません。なので正持くんはリアキャリアを掴んだまま、やや足を開いて体を後ろへ倒し、足元が後輪の横に来るようにしていたのですが……」

「橋に差し掛かる直前、足を閉じようとしていますね」

「橋の幅を考えると、足を開いたままでは通れない。しかし閉じると後輪が邪魔になってしまい、つま先を浮かせた姿勢を保てないんです」

「そして……あー、ここでつんのめってしまってますねー」


「アイデアは良かったのですが、コースの構造に対応出来ていなかった。恐らく平地で練習していて、正持くんも橋を通る必要がある事に気付いてなかったのでしょう」

「しかし現在、踏破率はトップです! 残り2ペアがどこまで進むのか、まだまだ目が離せません!」



【第4ペア】

漕ぎ手:小里派おりは 真理愛まりあ(12)

支え手:小里派 比助ひすけ(35)



「さあ、続きまして第4ペアは……デカァァァァァいッ!! なんというデカさ、正に筋肉の山ッ!!」

「いやァ……大きいですねェ……」

「お父さんの比助さん、ご職業はボディービルダーだそうです。そしてその娘の真理愛ちゃん、こちらもナイスバルク! この圧倒的筋肉、今回の競技にどうイカしてくるのかッッ!」

「間違いなく優勝候補と見て良いでしょう。これは必見です」


 「準備は良いかい、真理愛……?」

 「もちろんOKよ、パパ……」


「スタート5秒前! 4、3、2、1、スタート! さあ小里派親子、快調に漕ぎ出……さない!? どうした事だ!? 比助さんがリアキャリアを掴んだまま、ピクリとも動かないぞー!?」

「いえ、見て下さい! あれは……!?」


「あーーーっと何たる事だーーっ!? こんな、こんな事が許されて良いのか!? 

比助さんが自転車を、真理愛さんごと、真上に持ち上げているーーっ!?」


「なんという力業……!! ルールも、地面も、彼らを繋ぎとめる事は出来ない……!」

「TASUKEに求められるのは力や技だけではない、しかしここに! 技も知恵も超越した、圧倒的な力があるッ!! 娘の真理愛ちゃんも、まるで重力など関係ないかの如く! 殆ど逆さになった自転車に、悠々と座っていますッ!!」


「これではどの関門も、あってない様なものですね……第三関門の一本橋も越えて、最期の関門に入りましたが……」

「第四関門は巨大な3つのスポンジ製ハンマーが、振り子の如く左右に揺れ続けるエリア! 地面は平地ですが、幅60cmのラインからはみ出すと失格です! しかし小里派親子、なんとわざわざハンマーに当たりながら進んでいるーっ!! 圧倒的、圧倒的質量!! 筋肉は全てを解決するッ!! 全てのハンマーを蹴散らして、今! 堂々のゴールです!!」


「さあ、しかし勝負はまだここからですよ!」

「そうです! ここから漕ぎ手の真理愛ちゃんは10秒間、支え無しで自転車を漕がなくてはなりません! いま比助さんがゆっくりと、真理愛ちゃんの乗る自転車を地面へ降ろします!」


 「それじゃあパパ、『絶対に離さないでね』」

 「ああ。『大丈夫、ちゃんと支えているよ』」


「さあ、『絶対に離さないでね』の合図が入りました! ここから10秒間の走行が始まり……あーーっと!? 真理愛ちゃん、いきなり転倒ーっ!? これはどうした事だーっ!?」


「タイヤが回らなくなっていますね。どうやらさっきハンマーに当たった際に、フレームが歪んでしまった様です」

「なんという落とし穴、やはりTASUKEには知恵も必要だったーっ!! 小里派親子、ゴールまでは到達したものの、走行記録はわずか50cmです!!」



【第5ペア】

漕ぎ手:水足みずたり あゆむ(12)

支え手:井戸ノ水いどのみず 博士ひろし(72)



「さあ、いよいよ第一回TASUKE、最後のペアとなりました。水足歩くんと井戸ノ水博士さん。博士さんは、歩くんの母方のお祖父さんとの事です」

「『あらゆる障害を協力して乗り越える』というTASUKEのテーマに於いて、歩くんは来るべくして来てくれたと思っています」


 「歩、足を表に出すぞい」

 「うん、お願いお祖父ちゃん」


「ジッパーで繋がれていたズボンの先端が外され、歩くんの義足が露になりました」

「歩くんは5年前に交通事故に逢い、その際に両親と両足を失いました。お祖父さんの博士さんはそんな歩くんを引き取り、ロボット工学の知識を生かして彼専用の義足を作ってあげたそうです」

「両足切断という障害を負った歩くんが、博士さんの助けを得て今、TASUKEという新たな障害を乗り越えようとしています」


 「無茶はするんじゃないぞ」

 「大丈夫だって。お祖父ちゃんの義足は世界一だもの!」


「さあ、最後のスタート5秒前! 4、3、2、1、スタート! おーっとこれは!? 何やら歩くんの足の両側から、円盤の様な物が飛び出して……高速で回転を始めたぞーっ!?」


 「これぞワシの作った歩専用オプション義足、ジャイロ義足じゃ!」


「ジャイロ効果!! 高速回転する物体が水平・垂直方向に安定しようとする力を、義足に盛り込んで来るとは!!」

「佐助さん、義足にジャイロを仕込むのは……?」

「自転車の改造は違反ですが、義足の改造が違反というルールはありません!!」


 「はやいはやい! 全然倒れないや!」

 「ほっほっほ、このままゴールまで飛ばすぞい!」


「ジャイロの安定性を存分に活かし、第一、第二、第三関門突破!」

「第四関門のハンマーも、立ち止まっても倒れないジャイロがあれば、簡単にタイミングを計れます!」

「第四関門突破、ゴーール!! さあ、ここから自力での走行に入ります!!」


 「やったのう、歩……!」

 「うん、お祖父ちゃん! じゃあ……『絶対に離さないでね』」

 「『大丈夫、ちゃんと支えておるよ』」


「『絶対に離さないでね』の合図です! さあ、あとはここから50cm以上進めば……おや? どうしたんでしょう、動きませんね……?」

「見て下さい小太刀さん、ジャイロが止まっています!」


 「お祖父ちゃん、手を放して良いよ」

 「歩!? どうしてジャイロを止めるんじゃ!? いやまさか、故障したのか!?」

 「違うよお祖父ちゃん。ここからは僕、自分の力で漕ぎたいんだ」

 「歩……」

 「お祖父ちゃんの義足は世界一だよ。ジャイロが無くったって、自転車くらい簡単に乗れちゃうんだ。だから……」


 「


「博士さんが、ジャイロの止まった歩くんの自転車から手を離しました! 歩くんはゆっくりと、徐々にスピードを上げて、力強くペダルを漕いでいます!」

「5……4……3……2……1……0!」

「いま10秒が経ちました! 歩くんの記録は……25m!! 優勝は水足歩くんと、井戸ノ水博士さんです!!」


 「歩!!」

 「お祖父ちゃん!!」


「歩くんと博士さんがゆっくりと歩み寄り、今、しっかりと抱きしめ合いました!」

「いやあ、この企画やって良かったですねえ……」

「第一回TASUKE『親子二輪二脚』。改めまして、優勝は水足歩くんと、井戸ノ水博士さんのペアです。実況はKOCテレビアナウンサーの小太刀一郎。解説は忍者の猿飛佐助さんでお送り致しました」

「それではまた次回。新たなステージ、新たなチームの方々と共にお会いしましょう!」

「ご視聴、ありがとうございました!」

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