Side Story1: 王城の七不思議
「高田さん、高田さん。なんか最近“王城の七不思議”ってのが流行ってるって聞きました?」
「あ、俺もなんか聞いた気がする」
「異世界にも夏の怪談とか肝試しとかあるんですかね? ちょっと気になったのでメモっときました」
そう言ってメモを差し出す和泉。
怪談のタイトルと現象が簡単にまとめられている。
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怪談:使用人棟のリッチー
現象:
空部屋のベッドに使用形跡があったり、部屋の中のものが動かされている
昼間に直して部屋に鍵をかけても、次の日にまた同じ状態だった
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「あ、リッチーってのは魔術師の幽霊っぽいですね」
「それは知ってるが……それって俺たちのことじゃね?」
「え?」
「ほら、最初の頃使用人棟に何日か泊まったろ? その時に使ってたのを誰か気づいたんじゃね?」
「は! つ、次いきましょう!」
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怪談:資料棟の火玉
現象:
誰もいなくなったはずの資料棟の窓に灯りが灯る
警備兵が何度確認しても誰もおらず、灯りが使用されていた痕跡もない
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「うわー、これは怖い。確認しに行った警備兵かわいそう」
「あー、それ俺だわ」
「え?」
「ちょっと気になることがあって夜中に何回か資料棟に忍び込んでる。灯りの形跡がないってのは、市川君の隠蔽スキルのおかげじゃない?」
「ああ! で、では次に……」
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怪談:鍛錬場の悪鬼
現象:
晴れた日に突然旋風や暴風が鍛練場の真ん中に発生し、突風でガラス窓が割れた
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「……こ、これ、自分かと」
「え?」
「あの、ですね、瞬足スキルを練習してまして。誰もいないところがいいかなと思って、鍛錬場をお借りしました」
「おー、ガラスが割れるほどすごいの?」
「速度が速すぎると衝撃波が発生して危ないですね」
「使い所を考えないとな」
「そうします」
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怪談:財務棟の番人
現象:
ひっそりとどこからか現れて、資料不備や数字の間違いを指摘する影が薄い男性
何度正体を探ろうとしても、消えるかのように認識できなくなってしまう
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「明らかに俺だな」
「そうですね。正体探られているようですので気をつけてください」
「そうするわ」
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怪談:設備部屋のゴブリン
現象:
夜、設備部屋の中で埃を盛大に撒き散らし、甲高い声で叫ぶ小さなゴブリンの影が数度目撃される
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「ゴブ……ぷぷっ、ゴブリン」
「小さい……」
「ゴブブブ」
「確かに設備部屋は埃まみれで発狂しそうなくらい汚かったですが……ゴブリンって」
「ブブブブブ」
「あそこにはもう二度と泊まりたくありません」
「ブブブブブブブブっ」
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怪談:図書館の教授
現象:
風もないのに読書台に置かれた本のページがめくられる
何度棚に戻しても、気づかないうちに本が読書台に置かれている
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「俺だな」
「ですね」
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怪談:宝物庫の魔女
現象:
宝物庫の奥で金貨を数える音と声がする
数えなおす度に枚数が変わり、絶叫を上げる
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「うわっ、怖い! 高田さん、いつの間に宝物庫入ったんです? あそこセキュリティ高かったでしょう?」
「いや、俺は行ってないよ。市川君じゃないの?」
「お宝興味あったけど、デカくて重い扉を厳重に警備されてたので入ってませんよ」
「え〜、じゃ、これ本物?」
「さ、さぁ……」
「つ、次で最後だな」
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怪談:皇室の女番
現象:
第二妃殿下の寝室の隣から、毎晩刺繍糸を引きちぎる音がする
尚、妃殿下の部屋は角部屋であり、音が聞こえる場所には何もないはずである
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「…………何で刺繍糸を引きちぎる音ってわかるんですかね?」
「問題はそこじゃない気がする」
「そういうことにしたいんです」
「自分で情報集めてきたくせに。
ーーん? ちょっと待って」
「なんです?」
「……市川君、この怪談って何個ある?」
「七不思議だから七個に決まってるでしょう」
「いいから、数えて」
「もう……いち、に、さん、し……え?」
「一個多いよな?」
「ひゃああああ!」
和泉の強い要望により、二人が王城を出るのが数日早まったとかどうだか。
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