生物のタイムマシン

砂糖鹿目

生物のタイムマシン

今は何回目のタイムリープだろうか?

天才である俺の親友加藤がある日タイムマシンを発明した。

俺は天才の親友であるとして、真っ先に俺に使って欲しいと言ってきた。

特に拒む理由もなく、今利用している最中だ。

これも全て彼のためだ。


「クソッ!」


俺は薄暗く油臭いゴミ捨て場で一人嘆いていた。

というのもその肝心の彼は俺がタイムマシンで何度もタイムリープを繰り返し救おうと試みているのだが、全然救うことができない。

まるで時を越えた運命に縛られている様だ。

今となっては加藤の「自由意志はある」というのが唯一の救いだ。

加藤によれば既に確定された過去に行くことは可能だが、確定されていない未来に対しては行くことができない、とのことらしくその結論から自由意志が存在する=運命は存在しないということになるらしい。

因みに実際俺が住んでいる時間軸の加藤とはどんな時空間にいても連絡可能である。


「またダメだったのか?もう、運命なんじゃないか?」


「運命などないと言ったのはあんたでしょうが」


「いやぁ、だってねぇ、あれもダメーこれもダメーとなってくると他になんか方法でもあるのか?」


「ダメ、、なのか、、」


「おい!諦めるな!多重世界論的に考えれば、その彼とかいう奴が生きている世界線は彼が死んでいる世界線と同じ数だけ存在しているんだ。だからそう考えれば確率は五分五分だ、だから彼が生きている世界線はすぐそこにもあるんだ。だから諦めるな!」


「はは、冗談ですよ」


「冗談を冗談で返すな!」


加藤は今年で20前半ぐらいにはなるのに、昔と変わらず幼く感じる。

実際声や体も昔とほとんど変わらない、茶髪ロングヘアーのクッキリした瞳の美形少女。

そんな20前半の少女に慰められるのは情けないと思いながらも他に心の拠り所もない。


「そういえばそろそろその助けたい彼というのが誰なのか、教えてくれたってよくないか?私も誰なのかわかった方が協力できるし」


「それはダメだ」


「はいはい、わかりましたよ。で、何か私にできそうなことはあるか?」


「今のところまだ一人で試せてないことが多いし、それが済んでまだ救えてなかったら協力してほしい」


「勿論了解だ!じゃあ、気軽にまた連絡してこい!」


そういうと加藤の声が消えた。


俺は油臭いゴミ捨て場から出るといつも通り公園に向かった。

そこに着くと定位置でローブを被った幼い彼が、青年チンピラ数人にいじめられている。

俺は財布にある一万円を青年チンピラに渡し土下座でいじめをやめて欲しいと頼んだ。

これでとりあえず青年チンピラ数人を解散させることができる。

次の問題は当の本人である彼だが。


「人生、宇宙、すべての答えは42」


その彼がダグラスアダムズのファンであることは承知済みだ、これで彼の警戒心は一気に下がる。


「追われてるんだよね?助けてあげるよ。一緒に来て」


「うん、、」


顔が見えないほど深くローブを被った彼は俺の手を弱く握りながら狭い道を走っていた。


(こっちはダメ、こっちも積みだ)


俺は今までの経験をもとに街を丁寧に抜けていった。


「これどこへ向かってるの?」


「誰も君を責めないところだ」


努力が報われたのか、初めて街を出られそうになり心が舞い上がっている中、いざ街を抜けようとすると数人の男が俺と彼の前に立ち塞がった。


「ここまでだ。よく仲間に見つからず来れたな。だが、お前も運の尽きだ」


「クソッ、」


(しくった。違う街が目の前にあるのに、前にはボス格の男と取り巻き数人。どうする?ここまでくるのは初めてだし、こいつを回避することになるとまた、ルートを考えなくてはいけない。そうするとまたこいつが死ぬ。安全を取ってリープするか、潜り抜けて街を出るか)


「おい、さっさとそこの奴を渡せ」


(クソッ、行くなら今しかない!)


俺は彼を引っ張り男数人の妨害を回避し、逃げようとした。


バンッ


その瞬間だった。

一瞬何が起きているかわからなかったが、胸の辺りが熱いことに気づいた瞬間察した。


(俺、撃たれたのか)


もう目の前が見えない聞こえない。

無造作にタイムマシンの装置を探したが見つからなかった。


死んだらどうなるんだよ?あいつは?彼は?おい!どうしてだよ!クソッ、、クソッ、、、クソッ!!ごめん、ごめん、、ごめんなさい、、、何もできなくて、結局救えなかった、過去を変えられなかった、、、ごめん、ごめん、、ごめん、、、


「そんなに自分を責めないで」


(ハッ)


加藤の声だ。

ここはどこだ?というか俺死んだはずなのに見えるし声も聞こえる。

どうなってんだ?

起きたら俺は四方八方真っ白な空間の中にいた、あまりにも白いのでこの空間がどれだけの広さがあるのかわからない。


「ねぇ、そんな自分を責めないで」


「だって、、だって!!結局俺はあいつを救えないまま、俺はだらしなく死んでいったんだぞ!今まで俺が救えなかったあいつらの命は無駄だったってことになっちまったんだよ!!、、、許せないよ、、俺自身、、許せるわけがない」


「真実を話すよ」


「真実、、」


「実は、タイムマシンというのは嘘なんだ」


「はっ?」


「そもそも理論的に考えてタイムマシンというのは不可能だ」


「おい、それってどういうことだ?」


「例えば一人の男がタイムホールのような物の中に入ってタイムスリップをしたとする。すると現在から過去に遡るにはその男がいないことにしなくてはいけなくなる。つまり男が残した足跡や匂いや記憶やらを無かった事にする必要があるんだ、だがしかしこれが最終的にバタフライ現象的な効果を起こしてそもそも宇宙そのものが無かったことになってしまうんだ。つまり最低でも元の時間軸のまま過去にタイムスリップをすることは不可能だ。未来に関しては男がいなくても成立はするが、物質や光の速度を超越してその超越した物の全てを未来に正確に形を留めることはできない、つまり未来に関しても同様に不可能。まあつまりは、最低でもタイムスリップをするには宇宙が創造できる以上のエネルギーがない限りは不可能だということだ。(というかそもそもそれは過去未来を造るのであって正確にはタイムスリップではないのだが)だがしかしこの世で宇宙が創造できる以上のエネルギーがあったらどうなる?宇宙にある物質でそれを抑えることのできる物質はないだろうし分散したってそれは保管することしかできないから、一気に利用することもできない。つまりタイムスリップを生み出すということは宇宙の消滅を意味している。まあ、だけど未来に関しては冷凍保存の技術が発達すればタイムスリップとほぼ変わらないようにはなりそうだけど」


「ちょっと、、は?」


「次にそもそも我々が考えているような時間は存在しないということだ。時間があるから現象があるのではなく、現象があるから時間がある。例えばアニメは何万枚の絵があって成立している、それがもしたった一枚だけだったらどうなる。それはただ静止しているだけの絵になってしまう、だがしかし静止画を重ねることでその静止画という世界に時間が誕生する、それがアニメです。現実もこれと同じ、つまり根本的に時間があってもたったの一枚絵だとアニメの世界が成立しないようにただ物質があるだけじゃこの世は成立しないということです。時間は現象の付随品でしかなく、時間は帝王でも神様でもないんです。なのでそもそも時間という概念そのものにタイムスリップの可能性などないのです。なので、結局さっきの地点に戻るのでそもそもタイムスリップは不可能だということになります」 


「おい、じゃあなんで俺はタイムスリップができたんだ?」


「人間は五感でしかこの世界を認識できません。更に人間の記憶能力は軟弱です、つまりわざわざ過去未来を造るまでもないのです。それは五感を全て具現化できる道具さえあれば十分タイムスリップは可能です」


「おい、つまりは俺が現実だと思っていた世界は何なんだ?」


「つまりは全ては五感を再現する装置によって造られた幻覚です」


「う、、うぁぁぁぁ!!!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


話の途中からなんとなくわかっていた、今まで打ち込んできたことは全て幻覚だったのだ。

俺はただただ泣きながら虚無な地面を叩くことしかできなかった。


「なんで私がこんなことをするのか知りたいよね?それはね、あなたが何をそんなに助けたかったのか知りたかった。あなたはいつも無頓着で何をされても平気そうなのに、過去の話になるとやけに落ち込むのが気になった。だから私は対象の記憶から五感を再現して更にそこにランダム性を生み出す事に成功したの。これならタイムスリップをしているのと変わりはない」


「じゃ、、じゃあ、、、自由意志は?」


「正直そんなのはわからない。タイムスリップは不可能だし、それを証明しようとするのは神がいるのかいないのかを証明するような物だよ」


惨めだった。

惨めでしょうが無かった。

別に加藤を殴りたいとも恨みたいとも思わなかったが、胸の奥底から怒りと悲しみが同時に盛り上がってきてどうすることもできなかった。


「それで、結局わからなかったから改めて聞くけど。その助けたかった人って誰なの?」


俺もこいつに事実を言う時が来た。


「お前だよ。加藤」


「え?」


「お、おかしいよな、、だけど本当なんだ。加藤、俺はお前を守りたかった、、、お前は俺が模倣して作ったクローンなんだ、、、、俺は加藤を愛していた、、だけどゴミ捨て場で寝ていたあの日、、、、何もできなかったんだ、、許してくれとは言わない、だがこれは単なるSFじゃなくて事実なんだ、、、」


泣いていてろくに周りが見えたり聞こえたりする状況じゃ無かったが、すぐにわかった。

確かに加藤は泣いていた。

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