雨宮兄弟の骨董事件簿
高里椎奈/角川文庫 キャラクター文芸
雨宮兄弟の骨董事件簿《第一話全公開》
第一話 女神のカメオ①
1
潮風に手を引かれて大人になった。
海岸沿いにモダンな倉庫が建ち並ぶ港町。船からの積荷を運ぶ幹線道路を
川沿いの桜並木を望む景色は四半世紀前から時が止まったようで、立ち止まる者をノスタルジックな気持ちにさせた。
せせらぎを
「あの兄弟、ちゃんと飯は食ってるのかな」
流れ星が降るように頭を
きっと
「ついでに買うだけ、途中で寄るだけ」
誰へともない弁解をして信号を渡り、弁当店で唐揚げ弁当とハンバーグ弁当と幕の内弁当を注文する。オフィスビルを横目に大通りを下って、コンビニエンスストアで麦茶とプリンを買い足せば充分だろう。
金属製の飾りアーチが
緑のオーニングが張り出すファストフード店の角で右折すると、一つ目の十字路で空気が変わるのを感じた。
時間旅行をしているかのようだ。
オレンジ色の壁に黒い窓枠、壁を伝う
石畳は左右からなだらかに傾斜して、中央に浅い溝が走っている。モデルとなったパリの街では窓から汚水を捨てていた時代の名残らしい。小路の両脇には排水溝が別に埋め込まれており、一帯は劣悪な景観とも悪臭とも無縁である。雨が降った翌日に水が川へと流れていく程度だ。
民家の外階段で縞猫がまた欠伸をする。
アイスクリームを持った親子とすれ違って道の端に寄ると、対面側の小さな店が丸ごと視界に入った。
街並みに溶け込むダークブラウン基調の店構えは、西洋のチョコレート店を
日差しを嫌う窓は黒っぽく
数歩下がって上方を見上げると、バルコネット付きの開き窓の隙間から、レースのカーテンがはためくのが見えた。どうやら弟も起きているようだ。
匡士は手に下げた弁当の袋をちょいと掲げて、フランス窓に似た扉を押し開けた。
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