【KAC20245】幽騎士

三寒四温

第1話

 事が済んだ後も、俺達は身体を重ねていた。彼女の髪を撫でながら改めて思う。俺は幸せ者だ。


 俺に髪を弄らせながらフローは俺の胸にぴったりと頬を付けて言う。


「死んでもあなたの事、離さないわ。だから……」


「俺もお前の事を離すもんか」


 とても柔らかな微笑みを浮かべ、返事の代わりに彼女は俺の唇を求める。そして長い口づけ。ほんと、いい女だ。このままずっとフローに溺れていたい。


 だが時間は待ってはくれない。じきに隠蔽コンシールドも対魔結界も切れる。この狭いシェルターが見つかるのも時間の問題だ。ずっとこうしていたい気持ちを振り切って、俺達は戦いの準備を始める。


「マキシ、あなたのことは私が守る」「ああ、相棒。二人で生きて帰ろうな」


 俺達はもう一度だけキスをした。




 うちの傭兵団は、確か元々は10人くらいいたはずだ。フローは物静かだが腕利きの魔導士で、彼女には『見渡し範囲内にいる者の思考が読める』特技があった。だがその反面彼女は、敵味方関係なく嘘も読めてしまう。フローの信頼を失ったり、逆に彼女を気味悪がったりして、ひとりふたりと抜けてゆき、気付けば俺とフローだけになっていた。


 互いに全幅の信頼を寄せ、命を預ける男女同士だ。自然と恋仲になっていった。俺達はいつも一緒に行動していた。そんな中、魔王軍が攻めてくるという情報が街に入り、俺達は街の防衛軍に志願した。だが戦力差は大きく、正規軍は敗北し潰走した。傭兵の俺達は否応なく殿しんがりを押し付けられる羽目になった。


 そしてフローは、あの直後、俺を庇って呆気なく命を落とした。




 あれから二年。生き延びて他の街へ流れた俺は相変わらず傭兵稼業をやっている。どうやらあちこちで俺の噂がひとり歩きしているらしい。


『不意打ちが一切効かない男』『嘘が通用しない男』などなど……。


 みんな俺のことをソロだと思っているが、俺はひとりじゃない。今も俺の傍らにはフローがいる。幽体アストラルボディとして。彼女の声は俺にだけ聞こえる。フローは死んで尚、俺の事を守ってくれているんだ。


 誰が言い出したか知らないが、俺には二つ名がある。『幽騎士』って呼ばれてるらしい。亡霊を纏ってるような不気味さがあるそうだ。でもどう見えようと構わない。彼女の頼みどおり、俺はフローのことを誰にも話してないし、俺はフローを離さない。


 いつか、俺がフローを迎えに行く、その日まで……。

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