恋愛相談

草凪美汐.

恋愛相談


「はなさないで」って言うんだ。

「ほう」

「…………」 

 短い相づちはご不満だったらしい。

 しばし、沈黙。


「それって、さあ、結婚とか、かな?」

 週4でジムに通って、部位ごとに体を鍛えまくっている男だが、恋に関しては夢見がちだ。いや、盲目ってところか、そんなことわざがあったような。

 小鼻が膨らんでいる。


「えっ、まだ付き合って、そんなに経ってないだろ」

「まあ、3か月、経ったばかり」

 と、恥ずかしそうに言う。

 何故、そこで照れる。


「もう、そういう話しになってんのか?」

「いやいや、まさか、俺もそこまで焦ってないし……ドン引きされて、学習してるよ」

 過去を思い出して、目が泳ぐ。

 はいはい、そんなこともありましたね。確か、3年前のクリスマス――、あの時も立ち直るのに時間がかかったなあ。


「でも、そういう気持ちで付き合いたいとは、話したと思う」

「思う?」

「会話のついでみたいに、重くならないように、サラッと呟いた、そんな感じで……」

 もじもじ。

 ちっとも、可愛くない。彼女の前ではしないように教育したが、大丈夫だろうか。


「覚えてないかもな」

「そうかな?」

 そうだろ、ほぼ確定。

 少し話しを変えてやろう。


「はなさないでってさ、『話し』ほうじゃないのか?」

「はなし?」

「お前に話した何かを、他の誰かに話さないでって」

「……ふーん、そんな深い話はまだ、してない気がするけど」

 考えながら、顎をかく。

 そうだろうな、きっと。


「あっ」

 閃いたように、ぱっと表情が明るくなる。

「思い出したか?」

「過去は話さないでってことかな?彼女、昔の話はしたがらないから、俺の話も聞きたくないのかも、嫉妬とか、なあ」

 違う、違う、残念なくらい違うから。


「そうかな?」

「まあ、どっちでもいいや、今は、離せないし、話さなくても、始まったばかりだしな」

 声を弾ませて、笑顔をつくる。

「お前がいいなら、いいけど」

 いつものパターンだ、話したいことを言って、一人で勝手に良いほうに解釈して終了。


 はいはい、そういうことにしましょうか。


 やばい。

 こっちも、約束の時間だ。

「また話だけは聞いてやるから、切るぞ」

「ありがとう、またな」

 ビデオ通話の画面をオフにした。





「なんで、『はなさないで』って言ったんだ」

 隣りで気だるそうに寝ている彼女。

「……えっ、うう~ん、覚えてないわぁ~」

 欠伸の間に返事をする。

「お前、パンツくらい穿いて寝ろよ」

「いいじゃない、また、するんでしょ」

 彼女が腕を絡ませてくる。

 まあ、そうだけど…………



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