第21話 来日編

 ピンポーン。来訪者を告げる明るいチャイムの音がする。

 タスクは玄関に行きドアを開けた。強烈な夏の陽光が襲ってきた。手をかざし光を遮った。そんな激しい日の光を受けて少女は輝いていた。金色の長い髪に白い肌をしている白い少女はタスクより少しだけ背が高かい。

 そんな外国人の少女にじっと見とれてしまった。

 とがったこぶりの鼻にふっくらとしたピンクの唇に大きな目は美しくバランスがとれている。何よりも印象的なのは大きな瞳だった。空色に片方は緑色をしていた。

 少女はついぞ見られぬ美少女にタスクは圧倒された。

 そして目を落とすと濡れた少女マンガ雑誌を大事そうに抱きしめている。別冊マルグリット、通称別マ。ソフィーが好きな雑誌だ。


「もしかしてソフィー?」

「はい!タスクさん!来ちゃいました!」

 ソフィーはにこりと笑った。つられてタスクも笑顔になった。

 すると突然、ソフィーはタスクを抱きしめてきた。熱い熱い抱擁にタスクはとてもとても気分が良くなった。何より姫の豊満な胸が押しつけられ理性は粉みじんに吹き飛ぷ。Fカップ以上確実だな。さあこのまま押し倒してしまえ!しかし玄関よりもリピングのほうがいい。ソフィーは身を離した。


「タスクさんは写真よりもずっと可愛い!」

「そんなことないよ!ソフィーこそこんなに綺麗なんて驚いたよ!」

 今までソフィーってどんな女の子なんだろうとそれはそれは色々とシミュレーションをしてしきた。送られてきた手紙から容姿についてうかがえる部分はないかと、それはそれは手紙を事細かく読んで分析しているほどだった。


 ブサイクというかブスだったら、そのまま友達で居ましょう。可愛かったらどうしよう?

 タスクは悶々とそんなことを考えていた。


「中に入る?」

 タスクはむくむくと膨らんできた下心を見透かされないように言ってみた。

 ソフィーはこくんこくんと何度もうなづいた。

「これが異世界の家ね。住みやすそうだわ」

 ソフィーはリビングを何度も見まわす。

「お城と違ってとてもせまいだろう?せまいながらも楽しい我が家だよ」

「いいえ!そんなことないわ!素敵なお家だわ。住みやすそうね」

「外は暑くて暑くて大変だったわ。書いてあったとおりけもの道を下ったら真四角の家があったのでタスクの家だってすぐわかったわ。でも森の中を歩いてたら虫に刺されてかゆいの」

「どこを刺されたの?薬あるよ。塗ったあげるよ」

 タスクはテーブルの上の軟膏薬をとった。

「ここです。とてもかゆくてかゆくて」

 ソフィーは胸元を大きく開くと深い胸の谷間を指さす。タスクの目はは谷間とソフィーの顔とを何度も行き来する。


 確かに谷間に赤い点がぽつんとある。

 タスクは震える人差し指に軟膏を一山作ると、ゆっくりと指を谷間に近づける。

 タスク!落ち着くんだ!それに怖がることない!ただ薬を塗ってやるだけじゃないか?下心なんかこれっぽっちもないよ。タスクはそう自分に言い聞かせた。

 タスクは姫を見ると白桃のような頬がピンクに染まり、鼻息が少々荒くなっていた。


 ぴろぴろぴろぽん!


 管楽器のような軽快な電子音が鳴る。スマートホンの着信音だ。スマホをひったくると腐れ縁の親友のナオトからだった。タスクはすぐさま着信拒否ボタンを押してやった。

「タスク?それは何?」

「それって、これ?スマホだよ」

「それがスマホ?マンガによく出てくるから知っているわ」


「これは知っている?テレビさ」

 タスクは転がってたリモコンを拾い電源ボタンを押した。テレビはアニメをやっていた。

「絵が動いている!タスク!絵が動いている!」

 ソフィーは青と緑の目をまん丸とさせて驚くと床にそのままへたりこむ。


「あれ?これって「魔法少女卑弥呼」じゃない?私の大好きなマンガの。もしかしてこれってもしかして?」

「これがアニメさ!」

 そう教えるとタスクはどうだとばかりに満面の笑みを浮かべてしまった。

「これがアニメね?なんて素晴らしいの!アニメ万歳!異世界に来て良かった!」

 ソフィーはテレビアニメに感激した。


「暑い中ここまで来て疲れたでしょ?何か冷たいものでも飲む?冷たい麦茶でもいかがかな?」

 麦茶を注ごうとグラスをつかんだ。つるん!手が滑ってグラスを床に落として割ってしまった。タスクは四散したグラスを片付けようとしたとき、破片で指を切ってしまった。

 指先に血が滴る。

「あいたたた。ざっくりやっちまったな」

 あせるタスクをちらりとみるとソフィーは手をかざす。手がほんのりと青白く光った。

「今の何?」

「ヒールの呪文をかけました」

「えっ?」

 タスクは指をみると小さくうずく痛みが消えていた。ティッシュで血をぬぐうと人差し指にあった切り傷がなくなっていた。


「ソフィーって魔法使えるの?」

「え?」

 ソフィーはきょとんとこちらを見た。

「えーっ!」

 ほとんど同時に2人は驚いた。

「だって手紙には日本人は魔法が使えませんって書いてなかったわよ?」

「そりゃ書かないよ。普通に魔法使えないもんさ」

「お料理するときどうやって火をおこすの?たき火するときは?」

「火?ライター使うよ」

 タスクは収納家具の引き出しから100円ライターを取り出して火をつけてみせた。するとまた青い目と緑の目をまん丸にして驚いた。


「じゃあこれは?LEDライトは?」

 引き出しからライトを照らすとソフィーの顔を照らした。

「まぶしい!とっても小さな魔法の杖ね」

「違うよ!魔法の杖じゃないさ!懐中電灯だよ!」

「ああ!これが懐中電灯ですか?マンガで見たことあります」

 ソフィーはほっと大きな胸をなでおろす。


「この世界であまり魔法を使わないほうがいいかも」

 タスクのアドバイスにソフィーは首をかしげた。

「どうして?」

「混乱するから。それに誰も信じないさ」

 タスクはそういうと床に座る。

 この世界の人間が魔法を目の当たりにしてどう思うだろ?俺はソフィーとやりとりして目の前の白い美少女が何者か知っている。事情を知っているから目の前で魔法を使われても驚いたものの説明されて納得ができる。他の人はどうだろう?


「タスクがそう言うのならそうするわ」

 ソフィーは同意した。

 そして立ち上がり割れたグラスを片付けはじめる。タスクも手伝った。


 ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!


 玄関のチャイムが繰り返し押される。誰かが出てくるまでチャイムを鳴らし続けるのはレイコしかいいない。ああっ!なんだい!こんな大事な時になんだってレイコが来たんだろう!

 タスクはソフィー姫にリビングで待っているように言って玄関に飛んでった。


 ドアを開けると紺の制服姿のレイコが立っていた。手にはパンパンになったレジ袋を持っている。そして背後にはイギリス王室御用達の最高級車と運転手を従えていた。


「レイコ?どうしたんだい?」

「どうしたもこうしたもありませんわ。タスクさんのお父様がいないって聞いたのでお世話をしようと来ましたの」

 レイコは心配そうに形良く尖った眉をひそめて言う。

 ああ、レイコは可愛いというよりも凜々しいな。

 つり上がり気味の瞳に控えめにとがったあごに小さな唇と部分部分が綺麗に整っている冷たい感じのする美少女だとタスクは感じた。

 ぱっと見た感じと本人の性格はぴたりと一致しているという評判だがタスクにはとても優しい女の子にしか見えなかった。


「小説の取材旅行に行っただけだよ。大げさだね。俺一人で生活くらいできるさ。夏休み一人の生活を満喫するさ!」

「そんなこと言わないでくださいな。なんと言いましょうか・・・・・・その・・・・・・あの・・・・・・」

 目の前の冷たい感じのする美少女は買い物袋を抱きしめてもじもじとして頬を赤らめる。

「二人っきりになれると思いましたの」

 レイコは恥ずかしそうに視線をそらして言う。

 刹那、タスクのハートは瞬殺された。

「それで後ろにいらっしゃる白人少女はなんですの?」


つづく

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