カーネーションをひろって。
ぅる
2008
「
桜が舞い、あたたかな春風がわたしの頬と長い髪を掠めた。短く折られた赤チェック柄のミニスカートが風に揺れ、踵が擦れたローファーが自然と聴き慣れた声のする方へ向く。
「折角だし、卒業証書持って撮ろ」
貰いたての細い筒を振り笑顔を向ける由紀。携帯電話をぱかりと開き、カメラを起動する春子。
「はい、チーズ!」
ぱしゃりと音を立て、シャッターが切られる。
2008年3月1日土曜日、春日高校卒業式。
わたしの学生生活は今日で終わる。
華やかな高校生活だったな、と思う。比較的偏差値も校則も緩い高校での3年間を、わたしはこれでもかというほど派手に過ごしたつもりだ。スカートは短く折り、長く伸びたロングヘアは時に栗色に染め、耳元に針で穴を開けカラフルなピアスを通した。雑誌で読んだスクールメイクも取り入れ、憧れだった雑誌の読者モデルや学園ドラマに近づけた。自己満足だが、わたしにとっては完璧な高校生活だった。
入学と同時に両親に買ってもらった最新型の携帯電話は、表面がもうボロボロになってしまっている。読んでいるファッション雑誌に載っていた携帯電話デコレーション特集のページを真似て、表面にはピンク色のラメをのせて煌びやかに、裏面には高校で仲良くなった由紀と春子と撮影し、落書きしたプリクラを貼っていたが、どちらもポケットの中で擦れたのか欠けたり色が褪せたりしてきている。
「今からマック行ってプリ撮ってカラオケ行こう」
「えー、そんなに欲張りセットしちゃう?」
「だって高校生活最後なんだよ?やるしかなくない?」
わたしたちはけらけらと笑い合う。
「あ、でも駅前のカラオケだと野球部と鉢合わせるかもじゃない?」「超最悪じゃんそれ」そんな言葉を交わしながら、正門を潜り高校を後にする。
こんな日々がずっと続いたらいいのに、と密かに感じながら。
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