第2話 俺でも同じことしてくれたかな

 自分語りをするほど落ちぶれちゃいない。


 俺の趣味は人間観察。

 これは小学校高学年あたりにクラスメイト同士で言い争いが起きた時、目の前で激情を見せるクラスメイトたちが面白くて気づけば日頃から人を観察するようになった。


 悪趣味だって思うけどゲームをするより楽しいから辞められない。



 あの日から野田君が気になってしまう。目を離せられない日々が続く。


 パンパンに膨らんだ学校カバンから筆箱を出して授業の準備をする。後ろのロッカーに教科書を取りに行く時はチラチラと横目で野田君を観察する。


 ノッカーの位置がちょうど野田君の後ろだから用もなくローカーの中を必要以上に漁る。


 荷物を取り終わって振り返ると野田君のフローラルな香りが鼻を通って肺に溜まる。


 異世界から帰ってきてから変わった。毎日フローラルな香りをその身に纏ってる。

 シャンプー変えたのかな。それとも柔軟剤かな。どちらにしても異世界に行って心境の変化でもあったのだろうか。

 是非とも思い出のお裾分けをして欲しいが、本人が望んでない事を聞くのは野暮ってもんだよね。



 席に戻ってからもう一度ロッカーへ足を運ぶ。さっきわざと取り忘れたノートを持って席に戻る。

 自分で欲望を制御できてるのか不安になる。溢れる欲望がいつか身を滅ぼしそうで怖い。


 最近はこれの繰り返し、野田君に気づかれてないかな、何度も何度もローカーに取りに行って邪魔に思われてないかな。それとも俺には気づいてないのかな。


 そんなことを考えてたら授業が終わってた。

 次の時間は体育だ。野田君はあんまり体育が好きじゃなさそう。

 体育の授業ではあんまりガツガツと動かない。本気でやったらみんなを圧倒しちゃうからね。

 なんせくしゃみで机を壊すんだから。



「やっべー!体操服忘れた。今日の授業せっかくバスケなのに…うわー!!やらかした。

 萎えたっ。急転直下でマントルまで心落ちてった」


 とにかく明るいのが長所の村岡君が机の上でカバンを逆さまにしてるが出てくるのはクシャクシャになったプリントだけ。

 絶望で頭を抱える村岡君。


 周りからは茶化されふざけあったりしてるが、どうにも本気で落ち込んでるみたいで顔が笑えてない。



 そこへ普段は絡みの無い野田君が近寄った。

「体操服2つ持ってきたから貸すよ」


 なんという心優しき人物なのだろうか。しかし、ほんとに2つ持っているのだろうか。


 野田君はカバンの中からもうひとつの体操服が入っているであろう袋を取り出した。


「1つ教室に置いておこうと思って持ってきてたから」


 シワひとつ無いスマートスリムな学校カバンに2つも入るのか?俺は見逃さなかった、村岡君が忘れたことを公にする前にカバンから体操服を取り出していたのを。

 まぁ、あれか。異次元空間的な?そんなところでしょうね。


 あの日から異世界について色々調べたからそういうのがあるのを知っている。



「ホントにいいのか?でもサイズ合うかな?」

「そこは目をつぶって」

「いやまじで助かる。後でジュース奢らせてもらいます」

「ありがと。なんか特しちゃったな」


 う、う、羨ましすぎる。野田君に体操服を貸してもらって、あまつさえジュースを奢らせてもらえるなんて……。

 俺だって奢りたい。なんだったら毎日奢りたい。よしんばお昼一緒に食べたい。

 くー、悔ちい。



 あー、野田君まじ良い人だわぁ。


 結局、村岡君はパツパツへそ出し太腿丸出しで体育を終えた。

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